駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 10

第10話


【注意書き】
今回の内容は、若干の差別的発言の記載がございます。
話の流れ上、記載致しましたが、不快に思われる方は、ご注意、ご判断のうえ、お読み下さい。




「然るべき…?」
課長が訝しげにつくし達を見る。

「法的手段を取らせて頂きます」
「法的手段…?」
おうむ返しに言葉を紡ぐ相手に、つくしが言い放つ。

「次は…法廷でお目にかかることになると思います」
そして隣の山口を促し、席を立つ。


実を言えば、訴訟沙汰にするのはつくしの本意ではない。
花沢物産の専属顧問は、大手弁護士事務所。
内容が内容だけに負ける要素は少ないが、負ければ訴訟にかかる費用はこちら持ち
-つまりは山口の負担となる。
仮に勝訴したとしても、裁判前の和解と裁判を起こしての勝訴だと、つくしに対する弁護士費用も異なってくる。
天草事務所の報酬は相応の値段であるし、依頼主の山口は、昔のつくしのように『貧乏』ではないが
つくしは、シングルマザーとなる彼女のこれからの事を考えてしまう。


半分は賭け。
ここで向こうが引き、こちらの意見を受け入れれば上々。
駄目なときは…そのときには有言実行。
山口の意図は確認しており、いざとなれば裁判に持ち込むことで合意している。


前回似た案件を扱ったときは、ここで先方が折れた。
近年、企業の様々なハラスメントに対する意見は厳しい。
『ブラック企業』的なイメージは、企業としても避けたい処だ。

だが、目の前の男
-課長の方は、幾らチーフが促しても、つくしの望む答えを言わない。
あくまでも自己保身のみを考えている。
チーフが小声で妥協案を言っても『駄目だ駄目だ…』と取り合わない。
つくしが大きくため息をつき、テーブルに置かれたボイスレコーダーを手に取る。

「これまでですね。こちらの真意が伝わらず、残念です。
では、失礼致します。山口さん。参りましょう」

つくし達2人がドアノブに手を掛け、エレベーターホールへと向かう。
慌てて男2人が追いかけて来た。

「山口さん…何とか穏便に…」
若いチーフの方は、しきりに山口に対し頭を下げる。

「チーフのお気遣いには感謝します。
…けど、私はやはり辞めたくはないんです」
「…それは…こちらとしても…」

言い掛けて、背後の課長の気配に口を閉ざす。
当の課長はすっかり怒り、声を荒げた。

「大体が君は前から生意気だったんだ!
一丁前に権利ばかり主張しやがって…。
大体が君がそんなんだから、離婚ってことになったんじゃないのか!?
それを…」
「課長…!」

慌ててチーフが制するが、飛び出た言葉は元には戻らない。
つくしはポケットからボイスレコーダーを取り出し見せる。

「今の会話も録音されております」
「な…違反だ!」
「いいえ。貴方が仰いました。『会話は「すべて」録音する』と」

つくしの言葉に言い淀む。
最初、置くことを拒否し、それでも押し進めたつくしに対し、すべて録音するよう言いだしたのは、当の課長の方だ。

がっくりとうなだれる課長を横目に見ていると、ホールにエレベータが到着した音が響く。
チーフに一礼し、エレベーターに乗り込もうとした処で、開いたドアから出てきた人物に目を見張る。


仕立てのいいスーツを着た長身の男性。
数年ぶりに見るその姿は、記憶より精悍な顔立ちに変わっていた。
つくしが会いたくて、そして会いたくなかった人物、その人。


「……る……」

思わず名前を呼びそうになり、残った僅かな理性がそれを止める。
呼ばれた方も、驚愕の目でつくしを見た。


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