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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 12

第12話


夢の中で類は追い掛ける。
これは夢で、現実ではないと判っているのに。
幾ら探しても探しても、求める人は見付からない。
手を伸ばす先に、直ぐ近くにいるというのに…
疲れ、倒れ込み、動けなくなった処で目が覚めた。



目を開けると飛び込んで来るのは見慣れない天井の模様。
何処だここは…と回らない頭で考え、この場所が社内の、専用仮眠室であることを思い出す。
朝一番の飛行機で羽田に着き、そのまま取引先に向かい、その後社内で打ち合わせ。
更に夕方の会食の予定があったが、多少空き時間があること、流石に時差呆けが出てきていることで、2時間程仮眠を取っていた。
いつもなら少しでも眠ればすっきりする筈なのに、今日は嫌に頭が重い。
この後会食という名の『仕事』もあることから、仕方なしに枕元を探り、手にした薬を1錠、口に含む。



理由は、夢見が悪かったこと。
その原因ははっきりしている。


5年ぶりに見るつくしは、類が記憶する5年前より綺麗になっていた。
薄く化粧を施し、スーツを身に纏い、颯爽と歩く姿。
長い髪は後ろでひとつに纏め、襟にはまだ新しい天秤バッジ。
類を真正面から見据え言葉を発する姿は、弁護士そのもの。
予想通り、否、それ以上に見違える姿になっていた。


ずっと会いたいと思っていた。
別れたあの日からずっと。
なのに…


「………何で『今』なんだよ………」
誰にともなく類が呟く。
拳から血が出るのではないか? と思うほど強く握りしめる。

やるせない気持ちのまま呆然としていると、仮眠室内部に外からのコール音が鳴る。
確認をすると、秘書から既出時間30分前であることが告げられた。
重い身体をベッドから起こし、スーツに袖を通す。
その顔は既に、企業役員の顔になっていた。






約束をした1週間の期限より2日程早く、つくしの元に花沢物産より連絡が入る。
連絡をしてきたのは、名刺を貰った田村で、詳細確認のため山口と来て欲しいとのこと。

連絡を受け向かった先には、田村と共にチーフは同席していたが、問題の課長の姿は見えなかった。
不思議に思ったつくしの表情を察したのか、田村の方が先に言葉を発する。

「『彼』は弊社の事情により移動となりました。今回の件は、私と2人で担当致します」

何があったかはあらかた見当が付くが、他社の人事にまでわざわざ口を出すつもりもない。
「そうですか」と、流すと席に着く。
つくし達が着席したところで、田村が本題に入った。

「まず、山口淑子さんの自主退職の勧告は取り消し致します。
認められなかった通院休暇分の欠勤が8日間。
この分の給与カット分は、次回給与にて精算を致します。
但し、当初山口さんから申請のあった、勤務復旧希望日から現在までの給与。
これは実際勤務はしておりませんので、勤務扱いではなく、当初の予定通り、育児休暇中の給与の支払いをしたいと考えております」

田村から告げられた内容は、ほぼ、こちらの意見が通っている。
唯一通らなかったのは、復旧希望日から今日迄の賃金だが、『通常勤務』ではなく『育児休暇中』となるのは、
幾ら出勤させて貰えなかったとはいえ、実際には働いてはいないので仕方がない。

実を言えばこの条件は、こちらからの『譲歩材料』として用意した内容だ。
尚も田村が言葉を続ける。

「あとこれは…山口さんに限らず、結婚、出産をされた社員全員に提示をしていることです。
現在、山口さんは『全国型社員』で、弊社から辞令を受け取れば、基本拒否はできません。
只、社員には家庭の事情で、現在の地域を離れられない人も居ります。
そのために『地域型社員』への変更をする制度がありますが、どうされますか?」


つくしだけでなく、隣に座る山口も知らない内容に、首を傾げる。
田村の説明によると、『地域型社員』になれば、現在の住所より勤務圏内
-原則として2時間以内の地域への転勤しかないという。
但し『全国型社員』に比べ給与は、山口の現在の給与で2万円程度カットされる。
それでも、東京都の最低基本賃金は優に超えている。

山口の実家は都内にあり、両親や親戚のサポートも受けられることから、できれば地方への転勤は避けたいのが本音。
今回の話は、給与カットがあるとはいえ、有り難い。
だが、今すぐここで彼女に即決させるのは厳しいだろう。
そう思ったつくしが口を開く。


「それは、今すぐここで回答をしなければなりませんか?」
「いいえ。
ですが、復職される日までには決めて、前日までには回答をして頂きます。
回答が無い場合は、従来通り『全国型社員』として復職して頂くことになりますので、注意して下さい」

つくしが頷き、隣に座る山口の顔を見る。
概ね通った内容に、安堵の表情が浮かんでいる。

「…判りました。
書類に不備はないかと思いますが、一度持ち帰りました後改めてご連絡させて頂きます。宜しいでしょうか?」
「結構です。ご連絡は、私か彼に」

田村の隣に座るチーフが一礼する。
前に訪れたときと異なり、表情も明るい。

「はい。では近々に確認し、ご連絡致します。こちらの真意を汲んで頂き、感謝致します」

つくしと山口が立ち上がり、一礼する。
そのまま去ろうとしたつくしに、田村が声を掛けた。

「牧野先生。申し訳ございませんが、この後少々お時間を頂けますか?」
「え…?」
田村の言葉につくしの足が止まる。

「あの…まだこの内容に何か問題が…?」
「いいえ。山口さんの件は何も。全く別件で、ご相談がございます」
「相談…ですか…?」

思わぬ申し出に、つくしは首を傾げた。


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