駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 14

第14話



「へ…? い…行くって…何処に…?」
意気込んでいた出鼻をくじかれ、呆然とするつくしを余所に、類は意に介さないかの如く、先を歩く。
慌ててつくしが、その後を追いかけた。

「あ…あの…っ!」
「…………何………?」
「相談があるって聞いたので来ました。話が無いなら、帰ります…」
つくしの言葉に、それまで歩みを止めなかった類の足が止まる。

「山口さんの件、配慮してくれた事には感謝します。
けれど…」
「……いいよ。無理に敬語使わなくて…」
言って再び歩き出す。

「だから…!」
「相談がある」
エレベーターホールに着いたとき、類が再び口を開いた。

「…相談…?」
「……結構いい時間だし、食事しながら話すよ」

言われてつくしは、自らの腕時計に目を落とす。
既に時刻は18時を回っていた。

「お腹、空いてるでしょ?」
「そ…それは…まぁ…」

現在の職場の定時は9時から17時。
サラリーマンとは異なる、一事業主のつくしに『定時』という観念は少ないが、新米弁護士の身であることから、基本、この勤務時間を守っている。
天草事務所はそうハードな仕事ではないため、オーバーワークは少なく、普段は18時から19時頃には夕食を食べていた。
それでなくとも今日は仕事が立て込んでおり、昼食は美和に「ながら食事は消化に悪い」と怒られながらも、おむすびを1個口にしただけ。
花沢物産に来る緊張感からすっかり失念していたが、言われてみれば確かに空いている。

「そ。じゃあ行くよ」
「話ならここで聞く! 一緒に食事だなんて……困る……」
戸惑いながらつくしが視線を逸らしたとき、丁度目の前に来たエレベーターのドアが開く。

「弁護士業務規定違反(※)を心配してるなら、必要ない」
「……え……?」
「こっちの有利な和解案提示ならともかく、今回はそっちの要求をほぼ全面に飲んだ。
いまの現状で一緒に食事しても、利益享受とは言えないんじゃないの?」
「……それは……」
「それに、このことを何処かにリークするつもりもない」
言ってつくしの肩を抱くと、そのまま強引にエレベーターの中に引っ張る。
存外強い力に驚いて類の顔を見上げる。

絡まり合う視線。
夢にまで見た、懐かしい瞳。
そのまま吸い込まれそうになるのを、残った僅かな理性が抑えた。
類から視線を逸らすと、両手で身体の密着から逃れる。
つくしが力を入れると、驚くほど簡単に身体は離れた。

「…困る…話なら…ここで…」
「………社内で出来る話じゃ無い……」
「え…?」

聞き返そうとしたとき、エレベーターが目的階
-1階に到着し、扉が開く。
エントランスには、帰宅時間もあってか、それ相応の社員が歩いており、類の姿を見ると、一斉に会釈をする。
その隣のつくしにも視線は注がれるため、言い掛けた言葉を引っ込めた。
足早に歩く類の後ろを、小走りに追い掛ける。

外に出た2人の前には、黒塗りの高級外車。
類の姿に運転手が一礼し、後部座席のドアを開ける。
類が乗り込むと、どうしようか迷っているつくしに声を掛ける。

「乗って」
「……でも……」
「ここで押し問答してても意味ないよ。
…牧野の心配するようなことはないから」

『牧野』
『つくし』ではなく『牧野』

この場ではそう呼ばれる事が至極当然であるのに、それが何処か淋しいと感じてしまう。

「牧野」
類の無表情な瞳が、再びつくしを捉える。

僅かな感傷に浸っていたつくしだったが、即座に意識を現実に戻す。
確かにこの社員が多く通る公衆の面前で、押し問答する意味は無い。
意を決し類の隣に滑り込むと、流れるように車は動き出した。




社内はつくしが予想していたより広く、運転席とは仕切られている。
隣の類は無造作に足を投げ出し、つくしとは逆側のドアにもたれ掛かるような姿勢で、軽く目を閉じている。
静かな社内の中、ちらりと類の方に顔を向ける。
瞳が閉じられた顔は何処かあどけなく、あの日の『夜』を思い出させる。
その顔に、その髪に触れたくて…
伸ばし掛けた手を押さえ、類とは逆側のドアの方を向く。
そのまま、類に背中を向けたままのつくしは気付かなかった。


類が閉じていた目を開け、ずっとつくしを見つめていたことに。





※弁護士業務規定違反
踊る大捜査線スピンオフ映画を参考にしてみました。
ですが…
弁護士職務基本規定にざっと目を通してみたのですが…どうもそれらしき文章が見付からず…
恐らくは、弁護をする人の相手の人物(今回の場合は花沢物産)から、
不当な利益を享受すると、違反になるのでは…? と解釈しました。
違っている可能性もございます。
フィクションとして、ご了承下さい。


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