駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 18

第18話



-翌日-

山口と和解案の確認を終えたつくしは、志朗と貴子に類からの提案を話す。
志朗は、手渡された顧問契約の原案を読み終えると顔を上げた。

「確かに、この顧問内容自体に問題はないね。
…少々、月額顧問料が高すぎる気もするけど」
「少々って…」
「花沢物産の顧問はアークだっけ?
四大法律事務所のひとつで、相手が花沢物産なら、そう珍しいものでもないよ」
事も無げにさらりと言うのに対し、つくしと貴子は驚く。

「内容自体に不備はない。金額は願ったり。
強いて問題があるとすれば…うちより向こうだろうね」
「え…?」
つくしが首を傾げる。

「…まぁ…直接的な関係はないけどね。
花沢物産…というより、社長が後援会に入っている議員は、兄貴とは対立している党なんだ」
「…あ…それじゃあ…」
「ま、別にうちは問題ないけど…」
何でも無いことのように志朗が答える。

志朗は未だ『天草家』からは勘当を言い渡されている。
とはいえそれは表向きのこと。
元議員であった父はともかく、年老いた志朗の母とは時折会っている。
清之介の父である志朗の兄とは、清之介が寿司職人の道を選び、あや乃と結婚したときに和解した。
とは言え、志朗自身は家に戻る気も無く、家を飛び出したものの『けじめ』として
『勘当された放蕩息子』の看板を背負っていた。

「…それに、後援会に入っているからといって、繋がりが深いとも限らない。
実際、大手企業の役員は、名前だけっていうのもあるしね」

志朗の言う事には一理ある。
とはいえ、花沢社長が後援会に名を連ねる議員は、大臣になったこともある大物。
繋がりが浅いと考えるには、少々無理がある。

「ま、この内容には、その辺りの『背景』についての決まりは無い。
これで牧野先生に『アークへ移れ』って言うんなら、契約違反…まではいかなくても『別途話し合い』事項になるだろうね」
「…そう…ですか…」
「…どうする? 後は牧野先生次第かな…?」
「私は…」
俯きながらつくしは一端言葉を句切る。


類が何かどうしようもない事で困っていて、つくしに助けを求めている。
それであれば、どんなに不利な条件であっても
場合によっては、この天草法律事務所を辞めても、顧問契約に応じるつもりでいた。

だが、昨日の類からは、少なくともその様子は見えない。
花沢物産も、現状、何かトラブルは抱えている様子は無い。
類自身の事…といえば、やはり自身の身の振り方
-婚約や結婚に関わってくるのだろう。

これまでに類と噂になった人物。
すべてを知っている訳では無いが、つくしが耳にしたのはすべて『名家』『良家』と言われる出身。
つくしが太刀打ちできる立場ではない。
それでなくとも5年前、自分は諦めてしまったのだから。
今更、類の身の振り方に口を出す事など出来ない。

だけど…
他の誰かと類が幸せになるのを、間近で見るのはやはり辛い。
おまけに、類と顧問契約を結べば、父親とも顔を会わす機会もあるだろう。
幾ら『付きあっている』訳ではないとはいえ、何とも気まずい。


「シロ先生には…悪いと思うんですけど…」

口を開くつくしの手が震える。
これだけ大口の顧問先は、そうない。
つくしが受ければ、天草事務所の収入は格段に上がる。
だが志朗は、つくしが最後まで言う前に口を開いた。

「うん。止めておけば?」
さらりと言う志朗に、貴子もうんうんと頷く。

「大体が、この仕事選んだのって、『嫌な上司に頭下げなくていい仕事、ないかな-?』
って思ったからなんだし。
嫌ならば止めておいた方が良い。…気が進まない仕事もね」
「シロ…せんせ…」
「まーうちは極貧事務所だけど…食べて行くには問題ないし。
そこそこ他の仕事もあるし、大丈夫でしょ。
その代わり、つくしちゃんにはガンガン働いて貰うわよ。何と言っても、うちの稼ぎ頭なんだから」
「たか…こ…せんせ…」
貴子が震えるつくしの肩をぽんぽん叩く。

「だから先ずは、山口さんの件を片付けちゃお?
それとこれは別だから、最後まで気を抜かないようにね」
「……はい……」

溢れる涙を拭って、明るくつくしが返事をした。


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