駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 21

第21話
「アークが一体何で…」

一通り大騒ぎした社長が、
「とにかくうちは絶対大丈夫だ、心配するな」と高笑いして帰って行った後、貴子が思わず首を傾げる。

新しい法律事務所では、とにかく顧客拡大のため、安価での顧問引き受けをすることは、ままある。
だが、アーク法律事務所は大手中の大手。
弁護士も大勢居り、顧問料のシステムもある程度細分化されていると聞く。
ある知人は、顧問を頼もうとしたが、その月額料の高さに諦めたという話だ。
どう考えてもおかしい。

「…偶々、顧問獲得の強化をしていたのかもしれないけど…」
志朗が呟くが、そう思っていないことは口調でも判る。

突然の顧問先の引き抜き。
アーク法律事務所。
つくしに思い当たる事柄は、ただ一つ。


-お話は一端、お預かり致します。気が変わられましたら、ご連絡を。

まるでこのことを見越したかのような、田村の言葉。

「まさか…?」
「…つくしちゃん…?」
思わず声を口に出したつくしが、慌てて頭を振る。

-そんな筈は無い。
そう思うのだが、疑惑は消えない。

「…牧野先生。確証がないのに疑うのは良くないよ」
つくしの顔色を察した志朗が声を掛ける。

「とにかく、今残っている顧客で何とかやってみよう。
アークには知り合いも居るから、少し聞いてみるよ」
穏やかに話す志朗につくしも頷く。
だが、胸の奥に広がる疑惑を、消すことは出来なかった。





「疲れた…」
北欧からの強行軍視察を終え、本社の自室に戻った類は、上着をソファーに放り投げると、椅子に座り足を組む。
机の上には決裁待ちの書類。
それを目に通しながら、第二秘書である川島が告げる今日のスケジュールを聞く。
秘書が話を終え、類がある程度書類の仕訳を終えた処で、ノックと共に田村が入って来る。

「…こっちの書類は却下。ツメが甘い。練り直して再提出」
書類の束を目の前に突き出すと、慌てて川島がそれを受け取る。
類と田村の視線を察し、一礼すると部屋を後にした。

重いドアが完全に閉まるのを確認してから、田村が口を開く。

「出張、お疲れ様でございました」
「…………首尾は……?」
いきなり結論を尋ねる類に内心では苦笑しつつ、田村が答える。

「合意案サインの際、牧野先生からお断りのお話を伺っております」
「そ…で?」
「アークの長崎先生のお話ですと、既に8社はアークへ顧問契約を変更しております。
20社は、まずまずの反応とか。只…」
「………なに?」
言い淀む田村に、先を促す視線を投げかける。

「約半数、特に昔からの顧問先については、変更には応じないと。
金額が大きいところではないそうですが…
職人気質のせいか、全く駄目なところもあるそうです」
「…だろうね。流石、現代の天草四郎時貞という処か…?
信奉者が多いんだ…」
喉の奥でククっと笑う。自嘲気味な笑み。

神格化されたキリシタン(天草四郎)と、オルレアンの聖女(ジャンヌ・ダルク)。
それを籠絡しようとする自分は、さしずめエデンの園で果実を食べるように勧める蛇
-サタンとでもいう処か?
自分の役どころが似合いすぎて、もう嘲笑を浮かべる気力さえ起きない。

「結果は判った。引き続き継続するよう伝えて」
類の表情が冷たいものに戻る。

「専務。今回の件、少々強引だったのでは…?」
見かねた田村が口を開く。

「これだけあからさまですと、牧野先生側でも、誰の差し金かが判ってしまうかと…」

類の指示で、アーク法律事務所に天草法律事務所の顧問先を奪うよう伝えた田村。
できない場合には、花沢物産と類個人の顧問契約を、他に移すと言われれば、多少強引な手を使ってでも、それを実行するだろう。
類はつくしを顧問として迎えたい筈。
なのに、こんな強引なことをすれば、かえって逆効果。

「…だろうね…でも…
牧野なら、減った顧問先を埋めるために、話を受けざるを得ない。
自分一人の事務所じゃ無いから、尚更だよ」

確証に満ちた類の言葉。
最初、つくしが『断ってくる』と予言したときと同じもの。

-何故、そこまで理解していながら…?
田村はそう尋ねようとして止める。
聞いたところで目の前の青年は、それを答えるはずも無い。

「…畏まりました。牧野先生よりご連絡が入りましたら、お伝え致します」
「ん…」
一礼すると田村も部屋を去る。


広い部屋に一人きりになると、途端に押し寄せる疲れ。
単なる時差呆けだけではないことは判っていた。
机に顔を伏せると、大きくため息をつく。

「……今更……未練がましいって……判ってるけどね……」
誰にともなく類が呟いた。


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