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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 22

第22話


顧問契約解除が2桁に達した頃になっても、具体的な打開策が見付からず、頭を痛めていた。
顧問先が減ったからといって、直ぐに倒れるほど、天草事務所はヤワでは無い。
日々飛び込みの仕事はあるし、それ相応の蓄えもある。
とはいえ、毎月の収入が減るのはやはり堪える。

今回の件は、代表弁護士である長崎自らの命であること、
その長崎が担当する先に、花沢物産と花沢家があること、
ここ最近、花沢物産から連絡が頻繁に来ることなどがつくし達の耳にも入り、『疑惑』は『確証』に変わる。


-何で…? もう…関わりたくないのに…

心の奥底では全く真逆のことを考えているのだが、それは敢えて気付かないふりをする。
気持ちに無理矢理蓋をし、連絡を入れるのは花沢物産秘書室。
志朗や貴子は無理をする必要はないと言ってくれたが、今回の原因が自分にあるのだとしたら、放っておく訳にもいかない。

だが、類へ直接連絡することだけは、どうしても出来なかった。





先日のような会食を避けるため、夕方や昼以外の時間を指定する。
とはいえその辺りは類の方が一枚上手だったらしく、指定してきた場所は社内では無く、銀座にある、とある茶房
-会員制の待合室とでも言うべき場所だった。

然程高層でもないそのフロアにつくしが足を踏み入れた途端、高い天井と広がる高級感に圧倒される。
入り口に立つウェイターらしき人物に名前と待ち合わせの旨を告げると、直ぐさま奥の部屋に通された。
部屋のソファにゆったり腰掛け珈琲を口に運んでいた類は、つくしの姿を捉えると、悠然と微笑む。

類の変わらない笑顔。
つくしを見つめる瞳の『色』だけが異なる笑顔。
それが何やら空恐ろしく、思わずつくしの足が止まる。

「……立ってないで、座れば…?」

促され、類の前の椅子に腰を下ろす。
ウェイトレスがメニューを持ってくるが、品物の名前だけで金額が書かれていない。
これ以上、類に『借り』を作りたくなくて、パタンとメニューを閉じ、要らないとばかりに首を振る。
幾ら類が勧めても首を横に振るばかりのつくしに、類は、アッサムのミルクティーを頼むと、ウェイトレスを下がらせた。

訪れる沈黙。
思わずつくしも顔を背け、窓の方へ顔を向ける。
壁一面が窓硝子に覆われたその部屋からは、眼下に銀座のメイン通りが見下ろせる。
賑やかな銀座で、異空間のような静けさの部屋。
しばらくして頼んだ茶が運ばれると、紅茶の香りがつくしの嗅覚を擽る。

「…飲んだら?」

『頼んだ以上、飲まなければ勿体ない』
つくしの性格を知った上での行動。
キッと類を睨み付けると、ミルクも砂糖も業と乱暴に入れ、がしゃがしゃとかき混ぜる。
不機嫌なつくしの表情は、紅茶を一口含んだ瞬間、笑みに変わった。

-変わらない…

仮に見た目が変わったように見えたとしても、その本質は何も変わってはいない。
子供っぽい仕草も、美味しいものを口にしたときの喜びの表情も、真っ直ぐにぶつけてくる感情も、何もかも。
類の愛したつくしのまま。
変わったとすれば、それは寧ろ…

思い浮かんだ思考を止める。
今ここでそれを言っても詮無きこと。


「…連絡くれたってことは、気が変わったって事?」
心の奥底に芽生えた気持ちを完全に封印し、つくしに向かって口を開いた。




「………最近、うちの顧問先を、アークが引き抜いてるの」
手にしたカップを置き、どう言おうか迷いながらつくしが言葉を紡ぐ。

「………まさかとは思うけど…それって…」
「…俺だよ」
呆気なく類が肯定する。

「え…?」
「俺が、アークの所長に言った。天草事務所の顧問先を、アークの顧問に引き込めって」
「な…ど…どうしてそんな事…!?」
「…それを聞く? 俺に?」

質問に質問で返す、類の冷めた口調。
つくしがどきりとし、次に言おうとした言葉が出て来ない。

「…牧野が、俺の顧問を断ったからだよ。仕事先が無くなれば、顧問を受けてくれるでしょ?」

まるで子供染みた理屈。だがその効果は絶大。

「…牧野だって、判ってたんでしょ? 誰が指示したものか」


類の言葉に、嘘はつけないとばかりにこくりと頷く。
最初は類の父親も疑ったが、その場合は逆
-顧客を奪うのではなく、宛がって類から引き離す手段を取るだろう。

「牧野がこの話を受けてくれるなら、アークには止めるように言う。
で? 牧野。どうする?」
類の視線が、真っ直ぐにつくしを捉える。

「な…何で…私なの…?」
震えそうになるのを、残った力すべてて押さえる。

「…理由は言った筈だ。『整理』しておきたいことがある。それには、牧野が適任と思っただけ」

類の口から流れ出る言葉。
幾つかの『嘘』の中に混じる『真実』
理由は判らないが、今の言葉に嘘はないと、つくしの中の何かが告げる。

「………判った……でも…!」
つくしが決意に満ちた目で、類を見つめ返した。


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