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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 23

第23話


「まず、契約は私個人じゃなく、天草法律事務所にして欲しい」
「………担当は、牧野以外は受け付けないよ?」
「…判った。けど、場合によって、天草先生に立ち会って貰うこともある。
そのときはちゃんと事前連絡するから、それは了承して」
「……ああ……」
ゆったりと類が頷く。

「あと、顧問料は高すぎる。あんなに受け取れない」
「アークとの兼ね合いもある。
今回の件で牧野は俺に、権利侵害で賠償請求してもいいくらいじゃない?
俺としては、最初の倍でも少ないと思うけど?」

つくしが一言『3倍にしろ』と言えば、その通りにしかねない類の口調。
どう言っても、この件に関して類は引かない。
結局、最初の提示金額で落ち着く。

「それと…」
「…まだあるの?」
少々飽きたような類の口ぶりを無視し、つくしが続ける。

「顧問相談をするのは、うちの事務所か会社、どちらかにして。この間みたいなのは困る」
「…この間…?」
言って、先日の食事の件を指していることが浮かぶ。

「社内だと話せないこともあるんだけど?」
「その時は、うちの事務所に来ればいい」

今度はつくしが引かない。
順序立てて類の主張を覆すつくしの姿を見ていると、自然と笑みが浮かんでくる。
弁護士としてまだ経験は浅くとも、それを乗り越えようとする姿。
英徳での数々の出来事を乗り越えてきたつくしの姿と重なる。

「……花沢…類……?」

それまでと様子が変わった類に、どう呼びかけていいものか迷ったつくしは、思わずそう呼び掛ける。

「…………久しぶりに聞いた……」
「あ……」
思わず出てしまった言葉に、どうしたものかとアタフタし始める。

「いいけど。別に好きに呼べば。
判った。場所は社内か事務所、あとはここ。その3箇所」
「え? ここ?」
「そ。…結構気に入ってるんだよね。
風が通らないのが残念だけど、ちょっと似てる」

言って窓の外に目を向ける。
類につられてつくしも外に顔を向けた。
穏やかな空気感、窓の外に広がる景色は、つくしの事務所のある雑居ビルから見える、ゴミゴミした風景とも、類の役員室から見える、天空に近い景色とも異なる。
何処に似ているのか? 
つくしには聞かなくても直ぐに判った。


「でも…ここ…」
「会員制で、余計な奴に会う心配も無い。
社内でここを利用するのは、役員の中でも俺だけだし」

類の言葉に、つくしは内心ほっとする。
外での会食は論外だったが、社内に出入りして類の父親や、アークの弁護士に会うのは、仕事上とは言え好ましくは無い。
事務所に来いとは言ったものの、今目の前に居る類が雑居ビルの事務所に来る姿は、あまり想像できない。
当の本人は、その辺りの事に無頓着のようだが…。
それに、何よりここを流れる空気感は、つくしも嫌いでは無い。
大まかな内容を決め、つくしが顧問契約書を作った後、連絡する旨を告げると立ち上がる。

「そろそろ行くね」
「…なんだ。もう行くの?」
「…この後15時半にお客さんが来る予定なのよ」
「…ふーん…」

暢気な返事を返すと、類も立ち上がる。
財布を出そうとするつくしを目で制し、ウェイターに何やらサインをすると、連れだってエレベーターの方へ向かう。
あれ程つくしが『会食お断り』と告げているというのに、類は聞く耳を持つつもりなど、毛頭無いらしい。
今日もこのままつくしの予定が無ければ、その流れに持って行きそうな口調。


-こんな処で油売ってて良いはずないのに…

どう考えても、つくしより類の方が多忙の筈。
エレベーターが来るのを待つ間、横目で斜め上の横顔をちらりと見る。

「……ちゃんと仕事はしてるけど? 優秀な秘書も居るしね」
「え…?」
考えていた事の回答を聞き、つくしが慌てる。

「…私…また口に出してた…?」
独り言のようにぶつぶつと言い出す。
弁護士として類と交渉をしたときはともかく、今のように素に戻ったつくしの考えを読むことなど、類には息をするより容易い。
敢えて口にする類ではないが。

一人うんうん悩むつくしを見つめる類の目が柔らかく変化していることに、見つめられた当の本人は気付かず悩み続ける。
そんな2人の背後から、類を呼ぶ声。

「…類か…?」

つくしにも馴染みのある声に振り返ると、昔より一段と艶っぽさを増した男。
最近の若い男性では見掛けない和装も、様になっている。

「……総二郎……居たの?」
「居たの? じゃねぇよ。お前、いつ日本に帰ってたんだ?」
「……ん…確か…1月前…?」
面倒そうに類が答える。

「何だよ。帰ってるんなら連絡くらい寄越せ。…って、仕事か?」

類の影に居る人物
-スーツ姿の女性気付き、砕けた言葉遣いを顰めようとし、それがつくしであることに気付く。

「……おまえ………牧野…?」
「……西門さん。…ひ…久しぶり」

逃げられないと観念したつくしが、ぺこりと一礼した。


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