駄文置き場のブログ 2nd season

□ 捧げもの □

パラレル時代劇『お江戸でござる! 弐』

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こちらのお話は『柳緑花紅』の河杜花様に(無謀にも)お贈りしたお話の再録となります。



河杜花様の素敵サイトは、こちらからどうぞ…(^^)

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総二郎が自宅近くの茶屋の軒先に座り、酒を頼む。
店の軒先にある長椅子に浅く腰掛け、通る人を眺めつつ、目が合えば「おねえちゃん、あちきと遊ばない?」と声を掛ける。
きちんとした形(なり)ならば、かなりの美青年である総二郎。
女どもが放っておく筈無いのだが、如何せん、着流しに謎の杖、おまけに昼間からの飲んだくれとくれば、無視するものが殆ど。
当の総二郎が構わずに口説いて居ると、呆れたような男の声が頭上から聞こえて来る。

「……相変わらずだな。総二郎……」
「おお、何こんな処で油売ってるんだよ」
「それはこっちの台詞だ」
空いている向かい側に座ると、看板娘に茶を頼む。

「…何だ、飲まねぇのか?」
「勤務中だよ。お前こそ、頭が昼から酒飲んでてどうするよ」
「あ? いいんだよ。どうせ店は、類が上手いことやってる筈だ」
「類か……。あの『三年寝太郎』が、変われば変わるものだな」
思わず笑みを洩らし、来た茶に口をつける。


同じ道場に通っていた頃、類はいつも寝てばかり居る昼行灯。
それが今や、やり手の番頭だ。

尤もそれは目の前の男も同じこと。
何事もそつなくこなし、表向き人当たりのいい顔を向ける総二郎は、その実、とても冷めていた。
武士であることに価値が見いだせず、かといってそれに抗う程の情熱も無い。
武家の次男は冷や飯食い。
いずれはあきらのように同心となり、その後武家の一人娘の家に婿として入ると思われていた。
が、つくしと出会い、気持ちを通じ合わせたことにより、あっさりその身分を捨てた。
実家の反対は大きかったが、それらをすべて黙らせる。
そして表向き、のんびり無能な旦那を演じているという訳なのだから、あきらから見れば可笑しくてならない。


「そういえば、知っているか…?」
お茶で喉を湿らせたあきらが本題に入る。

「最近、町で女が拐かされているらしい」
「…へぇ…。何処の色呆け爺の仕業なんだろうな…?」
軽口で茶化すものの、その目線は鋭い。

「最初は若い女ばかりだったんだが、そのうち三十路過ぎの女も狙われ始めた」
「それはそれは。そいつも好きだねぇ…」
「…だから下手人はお前かと思ったよ」
「あん? 俺!? 馬鹿言え!
俺は、んな野暮な真似はしねぇよ!」
慌てたふりをするが、言ったあきらも言われた総二郎も、それが本気であるとは微塵も思っていない。

「ま…それは置いておき。お前も気を付けろよ」
「つくしの事だったら心配いらねぇよ」

つくしもその三十路過ぎに当てはまるが、子供を2人生んだ今もなお、生娘のような雰囲気を持っている。
たが総二郎を始め、店の奉公人皆がつくしを気にかけており、なにより類も居る。
癪にさわるが、類の腕前は総二郎の背中を預けられるほど確かで、おまけにつくしを思う存分気持ちは強い。
総二郎の言葉に安堵の表情を見せたあきらは、真逆の言葉を口にする。

「馬鹿言え。つくしチャンじゃなくてお前だよ。
俺はお前をお縄にかけるのは御免だぜ」
「そっちかよ…」
親友の忠告に笑う。

「仕事のし過ぎで禿げるなよ」
「禿げさせたくなければ、お前も同心に戻るか?」
「御免だな。…ま、何かの折には聞いておくよ」
茶を飲み干し立ち上がったあきらは、軽く「頼むわ」と右手を挙げた。





茶屋を出た総二郎は、酔った訳ではない、フラフラとしたいつもの足取りで、店とは真逆の方へと向かう。
賑やかだが若干、がらの良くない地域。
とはいえ風来坊姿の総二郎に違和感はないため、声をかける輩は居ない。
そんな中、ひとつの店の扉を開ける。
中からは威勢のいい女の声。

「お客さん。賭場はまだ…って、何だ。総さんか……」
「よう、滋ちゃん。相変わらず威勢がいいね」
挨拶代わりにの「あちきと遊ばない」「何言ってんのさ」が始まる。

「ところで…司は?」
「ああ、奥に居るよ」
勝手知ったる…で、片奥へと足を進めると、聞こえてくるのは聞き慣れた怒鳴り声。

「…相変わらず騒がしいねぇ…」
「何しに来やがった」
司は薄ら笑いを浮かべる総二郎を一瞥すると、早口の東京弁で捲し立てる。


司は本所・深川を拠点に江戸の町を取り仕切る侠客の頭。
後の世に『清水に次郎長あり、江戸に司あり』と言わしめることとなる人物。
総二郎と顔を会わせれば口喧嘩ばかりだが、滋に言わせれば似た者同士らしい。


「こちとら忙しいんだ。帰れ、帰れ」
「まぁそう言うなって…」
総二郎が腰を下ろしたのを見て、司が近くに居る子分達を目で下がらせる。
奥に2人きりになった処で、総二郎が口を開いた。

「あきらが言っていたが、最近、女の人拐いがあるそうだ。
最初は若いのだったが、そのうち年増女にまで手を伸ばして来たんだと」
「…随分物好きの話だな。下手人はお前だろ?」
あきらと全く同じ事を口にしながらも、腕を組むと視線を泳がせる。
考え込む時の司の癖。
しばらくした後、思い出したかのようにポツリと呟く。

「……そういや最近、越後屋のボンクラの奴、随分羽振りが良かったな……」


裏社会を仕切る司は、直轄だけでなく、あちこちの賭場にも顔が利く。
越後屋は先代までは老舗問屋として名を馳せていたが、次期頭の予定だった長男は大の博打好き、総二郎と張る程のナマクラ
-こちらは正真正銘の-である。
あまりの所業に、先代は幾ばくかの財を与え、跡は次男に譲っていた。
そんな状況だから賭場へのツケも相当なもの。
だが最近は、どういう訳か金回りが良いらしい。


「…随分キナ臭いな…。司、お前んとこは大丈夫なのか?」
「…ハン。うちでは越後屋の先代に愛想つかされる前に、出入り禁止にしてらぁ」
鼻で笑う司の姿に内心ほっとすると、立ち上がる。

「何だ。今日は寄って行かねぇのか?」
「…気が乗らねぇ…。今日はやめとく」

司の賭場へはそこそこ出入りしており、儲けたり摺られたりで収支トントン。
根っからの遊び人である総二郎にとって、賭場は楽しむべき場所のひとつ。
だが今日の目的は別にあり、それを果たした以上、長居は無用。
司もそれを知ってか強くは止めず「今度は身ぐるみ剥いでやる」等々、強気に宣う。
それを軽くいなすと自宅へと急ぐ。


何やら虫の知らせのようなものが、総二郎の神経をチリチリと逆撫でしていた。





牧野屋の暖簾を潜ると、いつもの通りの出迎えの声。
だが、いつもなら続く声が聞こえて来ない。

「…つくしは…?」
きょろきょろとつくしの姿を探した後見つからないと判ると、近くに居た丁稚に尋ねる。

「あ、女将さんでしたら、松岡屋の若女将がいらっしゃいまして…
お腹がこうだからと、店までお見送りに行かれましたよ」
手で腹が膨れる仕種をする。

「そういや優紀ちゃんはおめでただったな…。
…って、つくし一人を行かせたのか!?」

掴み掛かる勢いの総二郎に、類がついていったと慌てて告げる。
類と一緒というのは全くもって気に食わないが、その分、安心感はある。
憮然とする中、外に目をやる。
既に霜月(11月)。暮れ六つ(午後6時)を過ぎた今、辺りは真っ暗になる。

「ちょっと迎えに行って来る」
新米丁稚小僧の和也に提灯を持たせると、外へと飛び出した。





次の更新は午三つ時(12:00)でござる~


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