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駄文置き場のブログ 2nd season

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パラレル時代劇『お江戸でござる! 参』

Category - 捧げもの
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こちらのお話は『柳緑花紅』の河杜花様に(無謀にも)お贈りしたお話の再録となります。


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牧野屋から松岡屋までの間の道は、昼間通るにはいいのだが、日が暮れるとぐっと人通りが少なくなる。
現に今も、総二郎と和也の、ヒタヒタという足音が聞こえるだけ。

「頭ぁ、何か不気味ですねぇ…。
何かその辺から、女のすすり泣く声が聞こえて来そうですよ…」
「番町皿屋敷じゃあるまいし、んなこと…」
あるか…と、言い掛けた総二郎の耳に、女のすすり泣く声が聞こえる。
驚く和也から提灯を奪い、声の方へと向かうと、何かが総二郎の足元に当たった。
重く、細長い塊。
手に取るとそれは鉄扇と判る。

「…類…?」
提灯を先へ向けると、手傷を負い倒れる類と、お腹を抑え踞る優紀の姿が目に飛び込んで来た。
慌てて駆け寄る。

「優紀ちゃん!」
「……う……。あ…総二郎さん…」
提灯の灯りに、僅かに安堵の表情を見せる。

「大丈夫か!? 何があった?」
「私は…大丈夫です…。類さんが…。それにつくしが…!」
ゆっくりと身体を起こす優紀は、見たところ大きな怪我は無さそうだ。
逆に倒れる類は腹に大きな刺し傷があり、顔色も悪い。
総二郎に追い付き、惨状に驚く和也に声を粗げる。

「和也! 店戻って人連れて来い!
小石川の先生(※療養所=医者)に連絡しろ。類が刺された!
産婆にも連絡! 急げ!」
「はっ…はィー!!」
鞠が跳ねるように、和也が来た道を急ぎ戻る。
その間も総二郎は着物の裾を裂き、類の傷口付近にきつく巻き付ける。

「優紀ちゃん。一体何が…」
手を休める事無く、再び総二郎が尋ねる。
驚き動揺していた優紀だったが、気を取り直し早口で話し始める。

松岡屋への帰り道に、ならず者数名に襲われたこと。
最初は類が問題無く応戦していたが、ふとした隙に優紀が手勢に捕まり、腹を蹴飛ばされそうになったこと。
それを庇ったつくしが背中を蹴られ、気を失ってしまったこと。

類一人ならば、雑魚が何人襲ってきた処で相手にもならぬであろう。
だが、つくしが人質、優紀も動けないことから、やたらな手出しが出来ない。
その隙に、つくしは連れ去られてしまったという。

黙って話を聞いていた総二郎の眼が、段々と嶮しいものに変わる。
類の止血を終えると、置いてあった提灯を優紀に渡し、口を開いた。

「優紀ちゃん。もうすぐ家のものが来る。
そうしたら南町奉行所のあきらに、箱崎町にある越後屋の倉を探れと伝えてくれ。
…悪いがそれまで一人で待てるか…?」
「…大丈夫です…。だからつくしを…」
こくりと頷くと、闇の町中を疾風のように駆け抜けて行った。





冷たい床の感覚に、つくしはゆっくり眼を開ける。
部屋の中は行灯ひとつなく、天井近くにある窓から差し込む月明かりだけが頼り。
薄暗い闇に眼が慣れ、身体を起こす。
と共に、背中に激痛が走る。
何で…と考え、気を失う前の事を思い出す。
そうだ! と立ち上がると、ここに居るのが自分一人ではない事に気付く。
皆が皆、項垂れ生気を無くしている。

「あの…皆さんは…?」
つくしが声を掛けると驚いた様子を見せるが、やがてゆっくりと口を開く。
ここに居る者は皆、つくし同様、拐かされて連れて来られたという。
見てみればつくしと同年代の丸髷姿(※既婚者)のものばかり。
この先、どうなるのかと不安に身を震わせている。

一通りの話を聞いたつくしがまじまじと辺りを見回す。
商家の生まれであり、女将でもあるつくしには、ここが倉の中と直ぐに判った。
辺りに積まれた荷物を物色し始める。
反物等に混じりある、内容を示す書き付け。
外には、ならず者達が雑談しているのが伺える。
女で、何も出来ぬと油断しているのだろう。
閉じ込められだけで、身体の自由を奪われ無かったのは幸いだった。
つくしは見付けた書き付けを丸めると、懐から火打石を取り出した。





箱崎町に着いた総二郎は、闇に紛れ越後屋の倉を探す。
江戸老舗の越後屋が所有する倉の数は多い。
ボンクラ長男は、恐らくそのうちの1つ2つを貰っているのだろう。
何処だ…と探るうち、ひとつの倉が何やら騒がしくなる。
踵を返し、そちらへと足を向けた。





「火事だ~! 火事だよ! 焼け死んじゃうよ!!」

書き付けに小さな火種が灯ると、勿体ない…と、内心手を合わせながら反物の山に放り込む。
反物がぷすぷすと燻り、煙を上げ始めるのを見て、扉に向かい声を上げる。
扉の向こうでがちゃがちゃと鍵を開ける音がする。
見張りがドアを開けると同時に、つくしが見張りに体当たりした。

「早くっ!!」
「…このアマ…!」
ガタイのいい男がつくしの腕を捻り上げた。
先程受けた背中の痛みと合わさって、気が遠のく。

「何手こずってる、火、消せ! 間もなく『取引』が始まるんだ!
女達を引っ張って来い!」
ヒステリックに叫ぶ男の声。
つくしがうっすら眼を開けると、質は良いが品のない着物に身を包んだ男が喚いている。

-ああ、みんな逃げられたかな…?

痛みに身体の力が入らない。
荷物のように担がれようとした処で、つくしが一番安心する声が聞こえる。

「…薄汚い手を離しやがれ…」

-ああ、来てくれたんだ…。
つくしの記憶はそこまでだった。





騒ぎのする方へ足を向けると、懸命に走ってくる女達とそれを追いかける柄の悪い輩。
手にした杖でそれを叩きのめす。
が、女達の中につくしの姿はない。
結婚前からお転婆娘と言われていたつくしは、果敢にも脱出を試みたのだろう。
総二郎の足が更に奥へと向かう。
そして目にしたのは、今にもつくしが連れ去られるところだった。


男の腕に担がれる姿。
蹴られたことにより、ぐちゃぐちゃになっている帯。


「…薄汚い手を離しやがれ…」
怒り狂いそうなのに、口から飛び出る言葉は、自分でも驚くほどに冷静。

「貴様…なに…」
言ってやがる、等々述べる間もなく、次々とごろつきを伸して行く。
気付いた時にはつくしを担ぐ男と、品のない着物を着る男
-恐らくは越後屋のボンクラーの2人のみ。
あまりの惨状に、つくしを手にしていた男は、つくしを放り出し逃げる。


「おっ…おいっ! 待てっ…!」
「ボンクラはボンクラらしく、賭場をウロウロしてりゃ良かったのによ…」
総二郎が間合いを詰める。
が、窮鼠猫を噛む。
越後屋の長男は懐から短刀を取り出すと、つくしの顔に近付けた。

「くっ…来るなっ! こいつがどうなってもいいのかっ!」
短刀をちらつかせ、独創性の欠片もない台詞で牽制する。
その様子に、総二郎が手にした杖を下ろす。
越後屋がにやりと嫌な笑みを浮かべた刹那…

闇に一筋の閃光。

次の瞬間、越後屋が手にした短刀。
-否、それは短刀だけでなく、短刀を持った肘から下ごと、ごとりと落ちる。


一瞬何が起きたのか理解できず、次の瞬間、無くなった腕を抑え騒ぐ越後屋に「下衆が…」と呟く。
後は一顧だにせず、悠然と隠し刀を鞘に納めると、つくしの身体を抱き上げた。

着物の裾は汚れ、頬には煤。
そっと煤を指で拭うと、消毒するかのようにそこに接吻を落とす。


「……あんまり心配させんなよな……。
けれど…よく頑張ったな…」


総二郎の声が届いているかのように、総二郎の腕の中で眠るつくしが口元を緩ませた。





次の更新は酉三つ時(18:00)でござる~


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