駄文置き場のブログ 2nd season

□ 捧げもの □

パラレル時代劇『お江戸でござる! 肆』

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こちらのお話は『柳緑花紅』の河杜花様に(無謀にも)お贈りしたお話の再録となります。



河杜花様の素敵サイトは、こちらからどうぞ…(^^)

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「お、だいぶ良くなったな」
「……なんだ、あきらか……」


小石川にある療養所。
一時は傷と出血多量で駄目かと思われていた類だが、急所を外れていたこと、持ち前の体力もあり一命をとりとめた。
とはいえ重病人であることには変わりない。
一月は絶対安静を言い渡されたのだが、本人の意識が戻ると、やれ療養所は嫌だ、薬は飲みたくない、更にはつくしが作った食事が食べたいだの、我が儘三昧。
総二郎とは「そのまま何も食うな!」と口喧嘩になったが、結局つくしが毎日おむすびを持って見舞いに来ている。


「相変わらずだな、お前。…ほらよ。牧野からだ」
手渡されたのは、笹の葉にくるまったおむすび。
ご丁寧に『梅干しも残さずに食べなきゃだめだよ』と文にまで偏食に対する注意が書かれている。

「…越後屋の長男は今、お白砂で裁きを受けている。多分、打ち首は免れないな」
「…当然だろ…。牧野を襲ったんだから」
腕を切り落とされたことに、僅かに同情を見せるあきらだが、類の方は全くもって、とりつく島がない。
尤も、怒りの理由が自らへの傷に対してでは無く、つくしに手を出した事と言うのが、何とも類らしいのだが。
そのまま類は包みを開けると、形よく並んだおむすびをひとつ手に取り口に運ぶ。


あきら達が現場に駆け付けたときは、既に片が付いていた。
拐かされていた女達は全員無事に家に戻され、下手人はすべて捕縛。
首謀者は越後屋現当主の兄。
分与された資産が博打であっという間に無くなったため、女を掠い、闇で売っていたとのこと。
最初は生娘を狙っていたが、警戒され難しくなってきたことから、若く見える既婚者も狙ってたという。

事の次第を聞き、越後屋の現当主とご隠居は慌てて奉行所に駆け込んで来た。
事件に関与していないこと、これまでの功績、取り調べの協力、更には所有する土地家屋の返還で、屋号取り消しだけは免れた。
現在は規模を縮小し、日本橋の自宅で再び商いを再開したという。

そして本来であれば、総二郎は下手人を捕らえた者して褒美が与えられるところなのだが、本人にその気は全くなし。
逆に「帯刀を上手く誤魔化してくれよ」とあきらに頼み込む始末。


「そんなことりより、今日、牧野は…? 来ないの?」
「この20日間、1日と空けず見舞いに来たんだ。もう奴も限界だろ…?」
「…いっつも独り占めしてるくせに…」
拗ねたようにぽつりと呟く類を、まぁまぁ…と宥める。

「……今回の件ではお前にも総二郎にも借りを作ったな。
いずれは何かで返すよ」
「いいよ、別に。
…それに総二郎なら、とびきりの褒美を受け取ってる頃じゃないの」

少食の類にしては珍しく2つ目のおむすびを口に運び、出てきた梅干しに顔をしかめる。
その様子にあきらも「…ま、確かにな…」と笑った。





牧野屋の奥の部屋。
真っ昼間だというのにそこには布団が敷かれ、一人の男が横たわっている。


事件の後、類の意識が戻るまでは小石川に詰めっぱなし。
そこまではまだ許せたが、意識が戻った類の我が儘により、つくしは毎日、店と小石川を行ったり来たり。
番頭不在による多忙さも相俟って、つくしは夜、床に入るなりバタンキュー。
なんのかんのでつくしに滅法弱い総二郎は、幸せそうに安眠を貪るつくしの身体を抱きしめ、もんもんするだけ。

10日は、我慢した。
15日も、我慢した。
20日経ち、もう我慢出来ないと、総二郎が告げる。


「つくし。目眩がする。具合が悪い」


総二郎としてはそのままつくしを床に引っ張り込もうとしたのだが、如何せん。
やれ、何が当たったのか 富山の薬はあったか? 挙げ句の果てには廓からなんぞ悪い病気(梅毒)でも貰ってきたのでは? と、店中で騒ぎ。
「もう大丈夫だ」「否、駄目です」の押し問答の末、総二郎は当初の目論み通り、真っ昼間から床に入っている。
但し独りで。


今更仮病でしたとも言えず、敷き布団の上にごろりと横になったまま中庭を眺める。
表の店先の賑わいが嘘のように、ここ奥の中庭は静かだ。
子供達も遊びに行っており、居るのは総二郎独り。
陽の光の中、微睡んでいると、表から聞こえて来る軽やかな足音。
慌てて布団を引っ被り、瞼を閉じる。


「旦那様…?」
そっと襖が開き、入ってきたのは勿論つくし。
狸寝入りをする総二郎に近付くと、額に手を当てる。

「熱は…大丈夫かな…?」
「…もう…大丈夫だって言ったろ?」
「…起きていたの…? 総」
驚くつくしににやりと笑う。
つくしは他人がいる時は、例え子供の前だとしても総二郎のことを名前では呼ばない。
『総』と名を呼ぶということは、周囲に誰も居ない証拠。
ならばこのまま…と思いきや、すいっとつくしが差し出したのは、美味しそうに熟れた柿が綺麗に切られ盛られた腕。

「お得意様から頂いたんです。総、水菓子好きでしょ?」
はい、と一切れ渡され『水菓子よりつくしの方が食べたいです』とも言えず、素直にそれを受け取る。
口に入れると何とも言えない甘さ。総二郎好みの歯ごたえのある柿の味が広がる。

「…うん。上手い。…ほら、つくしも食え」
「え…? いいよ。総が食べて」
「いいから」
小さく空けた口にぽいとそれを放り込むと、途端に幸せそうな顔になる。
総二郎が大好きな、つくしの笑顔。

-…ま、いいか。今日は…。
食べ終わった総二郎は大きく伸びをすると、そのまま横になり、つくしの膝の上に頭を乗せた。

「ちょ…。そ…総! 何…」
「食ったら眠くなった。…少し寝る」
「そっ…それならちゃんとお布団で…」
「ここがいい」
ぱちりと眼を開け「駄目か?」と尋ねる。
普段見上げて見る総二郎から見上げられ、思わずつくしの顔が真っ赤になり、首を横に振る。

「ちょ…ちょっとの間だけですからね」
「はいはい…」
「きょ…今日は特別ですからね」
「はいはい…」

総二郎が微笑み瞼を閉じると、つくしが、自身の太ももに広がる総二郎の艶やかな黒髪を撫でる。
柔らかいつくし手で髪を梳かれるのが、何とも言えず心地良い。
うつらうつら…。
陽の暖かさも手伝って、総二郎に睡魔が訪れる。
つくしの耳に聞こえて来る、微かな寝息。

「…総…?」
「…………」
幸せそうに眠る総二郎の姿に、つくしの口元も緩む。


「……色々ありがとう。……総……」
そっとその頬に接吻を落とした。





-お江戸でござる! 了 -





おまけの新作&言い訳その他の更新は、亥三つ時(22:00)でござる~


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