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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 27

第27話


「あの…類様…?」

電話が掛かってきたため、一端席を外した後戻ろうとした類の耳に、若い女性の声が届く。
視線を向けると、その容姿には見覚えがあった。
久我山京子。現在花沢物産が取引をしている相手先の娘。

「……………」
「奇遇ですね。私も今日、家族で参っておりましたの。
宜しければご一緒に如何でしょうか? 先日のこともございますし…」

口調は控えめだが、何も話さない類に必死に話しかける。
だが類は一瞥し、僅かに眉を顰める。
途端に、京子の顔色が変わった。

「あ…申し訳ございません。類様にもお約束がございますものね。
またの機会に…」

会釈をし、自分たちの部屋と慌てて戻って行く。
その雰囲気が、類の母、望恵を思い出させる。
控えめで、貞淑な妻。
世間一般ではそう通っている母。
類に言わせれば、常に父の顔色を伺い、一人では何も出来ない女。
子供の頃の類を庇うでもなく、父を諫めるでもなく、只、父の言うなりに黙って頷いていた姿。
類が大きくため息をつく。

「………歪んでいるよな………家も…俺も……」
ため息と共に洩れた声は低く、その場に響いていた。







「類の顧問は、色々と特殊だから大変だろ?」
類が電話と言って席を外したとき、徐にあきらが尋ねて来る。

「……? 特殊…?」
「ま、まだ顧問になって間もないから、そうでもないか…」

間もない処か今日契約を結んだばかりなのだが、それは口にはしない。
だが感のいいあきらは、つくしのきょとんとした態度で何かを察する。

「まさか…牧野、気付いてないか?」
「え? だから何が…?」
つくしの態度にあきらだけでなく、その場に居た全員がつくしに視線を向ける。

「………牧野。お前、日経新聞読んでるか?」
「しっ…失礼ねー! 読んでるよ。…一応」

総二郎の問いに軽く怒りつつ、最後の方は声が小さくなる。
それは、日経新聞は読んでいるものの、それは自分で買ったものではなく、事務所で取っているものだから。
年功序列という訳ではないが、先に志朗や貴子が読むため、つくしが読むのは半日、1日遅れのことが多い。
今日の分は、まだざっと目を通しただけだったりもする。

「ああ、そういうんじゃなくてだな…。
まぁ、牧野が投資なんぞをやっている筈もないか。
あのな、牧野。今の株価、判るか?」
「え? 日経平均? …えと…幾らだっけ? 最近下がっていたような…?」
「違う違う。花沢物産のだよ」
「花沢物産…? そ…そんなの知らないよー!」

突然の株価の話に、慌てて首を振る。
弁護士になり多少の蓄えは出来たものの、つくしは株式投資には手を出していない。
流石にそこまで金銭的にも時間的にも余裕はなかった。

「そりゃそうだろうな。俺だって知らない」
「へ? 何言って…」
「東京、大阪、名古屋、福岡。
何処の市場にも『花沢物産』の名はないからな。
花沢物産は、非上場会社(※)で、同族会社(※)なんだよ」
あきらの言葉につくしが首を傾げた。



あきら達の話によると、花沢物産の筆頭株主は類の父親とその親族。
特に類の父親が75%程を所有しており、親族も含めると所有割合は85%にもなるという。

「まぁ…名が通った会社で非上場ってのは、さして珍しくもないけどな。
あれだけの企業で同族会社ってのは、そうはないな」
「え…でも…何か名前…新聞に載っていたような…」
「それは子会社(※)か関連会社(※)だろ。
上場していなかったり資本金が少ないと出来ない仕事は、そっちでしているんだろうよ」
「でも…何で…?」
「さぁな? その辺は俺等にもよく判らん」
つくしの問いに、あきらも首を傾げる。

「ある意味、類んとこは『企業』っていうより、うちに似てるな」
総二郎がぽつりつ呟く。

美作も大河原も、そして道明寺も、当然の如く本社は上場をしている。
彼等の両親は社長、会長として相当の力を持ってはいるが、会社に不利益をもたらした場合には、株主から経営責任を問われ、
その座から追われる。
それが上場会社の常。
実際、株主総会で役員総入れ替えとなった会社も少なくは無い。
とはいえ彼等の両親は、他にも個人的に会社を幾つも所有していることから、仮に首になったところで、そう生活が一変するものでもないのだが。

だが、花沢物産は非上場の同族会社。
完全に類の父親のワンマン会社と言っても過言では無い。

「おまけに類には兄弟がいないだろ?
親父さんは男一人で、従兄弟は外戚って事だろうし…。
嫌でも類の肩に全部がのし掛かって来ているからな」
「…そう…なんだ……」
「でも、それを言ったらニッシーだって同じでしょ?」
滋が尋ねる。

「ま…な。でも俺んとこは兄弟が居る。
兄貴んとこにも、弟んとこにも子供が居てな。しかも全員男。
孫可愛さで、親父は勘当を解いてるしよ…。
俺が未だに独身を謳歌できるのは、そういう理由があるからだよ」
「…西門さんは、もう少し重い物を背負った方がいい気がしますけど…」

桜子の口調は辛辣だが、それは本心からのものではないことはその場の全員が知っている。
彼等F4や滋は、学生時代から背負う物が大きく、自分の将来に相応の覚悟は持っていた。


-考えていることがある。戻ったら話せると思うんだけど。

不意に甦る昔の言葉。
あの時の類は、一体何を伝えようとしていたのだろう?
今言っても詮無いことだとは判っていたが、
つくしはそう思わずにはいられなかった。



※ 同族会社他の説明は、本館『駄文置き場のブログ』 の 『「この森」の裏っ側』 をご参考下さい。


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