駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 28

第28話



『再会』から数日の後…

類は渡された用紙に目を通す。
写っているのは不鮮明な写真と記事
-ゴシップ誌に掲載される予定のゲラ。
そこに写るのは自分、そして女性、久我山京子の姿。
結婚間近だの、両親との会食だのと、面白可笑しく書かれている。
記事には、記者が食事をしていて偶然見掛けた、とあった。

日本に来て彼女と会ったのは、総二郎達と会ったあの夜一度きり。
ゴシップ誌記者が『偶然』食事をしていて撮れる場所では無い。
あの場に来ていた仲間から洩れる可能性は、零とは言えないが限りなく少ない。

おまけに、あの短時間に写真を撮られたことになる。
となれば、リークの出所は限られて来る。
こうなるとあの日会った『偶然』も、何処まで本当か判らなくなる。

黒幕は娘か、父親か、あるいはもっと別の者か?
どちらも、誰でも構わない。
だが、出過ぎた真似をした人間を許すほど、類は寛容では無い。
田村を呼び出すと、用紙を目の前に置いた。

「この内容は? どうなってる?」
「既に発表は差し押さえております」
「そ。じゃあ代わりに、久我山と代議士の癒着をリークしておいて」
「ですが…」

類の言葉に躊躇する。
企業と議員の違法献金は、そう目新しいものでもない。
内容は決して褒められたものではないが、今回は額も少なく、インパクトは少ない。
それでも久我山は現在進めている事業で、重要なポストを占めている。
今のままでは少なからず花沢にも被害が及ぶ。
田村の考えを見越した類が口を開いた。

「久我山の代わりは太刀原に任せる段取りになっている。
あそこなら『余計』な勘ぐりはないからね」

太刀原の規模は久我山と比較しても遜色は無い。
おまけに太刀原の娘はまだ小学生にもならない年齢。
これが下手に妙齢の娘が居る家だと、類の結婚相手としてまた話が上がってくる。
これ以上、余計な力を裂くつもりもない。
田村が了解の旨を伝え、一礼し部屋を出る。
類一人になった処で、懐からスマートフォンを取り出した。






つくしが見上げるのは、二度と来ることはないと思っていた、花沢物産の高層ビル。
名前を告げると直ぐ、以前と同じ専務室に通された。
中に類は居なかったが、珈琲が運ばれてくる頃に現れる。

「…悪い。今日は時間が無くてこっちに来て貰った」
「いいえ…」

社内はつくしが指定した場所のひとつである以上、文句はない。
居心地がいいとは決して言えないのだが。
類は机の中から角2サイズの封筒を2つ取り出すと、テーブルに置く。

「これ…?」
「牧野に頼みたい件」
「??」

首を傾げつつ、前にある方の封筒に目を通す。
中にあるのは何かの書類。
専門ではないためはっきりとは判らないが、恐らくは臨床データや薬物に関するものだ。
中にはSDカードも入っている


「これは…」
「とりあえず、目を通しておいて欲しい。近々、この件で裁判になる可能性が高い」
「裁判…? 新薬の権利に関するもの…?」
「…………それとは…少し違うけどね………」
珍しく類の口調は歯切れが悪い。

「これって…花沢製薬に関するものではないの? そうなると…」

花沢物産の系列会社には、製薬会社もある。
こちらの顧問もアークが行っているため、つくしが関与すればそれは完全に権利侵害だ。
おまけに薬学に関しては、つくしも志朗も専攻ではない。

「製薬は関係ない。…ある知人に頼まれていてね。
まだ裁判になると決まった訳では無いけど、なってから調べたのだと遅いから、渡しておく」

類が『知人』というのが誰なのか。
気にはなるが、類の様子からそれを語る可能性は低い。

「……判った。これはコピー? 貰って良いのね?」
つくしの問いに類が頷く。

つくしは手にした書類を封筒に戻し、もうひとつの封筒も開ける。
その中に入っているのは、財産目録と相続税シミュレーション。
作成日は2年ほど前の日付になっており、所々書き足したり消したりした跡が見られる。

「あの…? これ…?」
「俺の所有財産すべて。
遺言書の書き直しに再確認とシミュレーションを頼みたい」
「ゆ…遺言書!?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。

「…別にそう珍しいことじゃないよ。
社会人になってから定期的に作り直しているし」

何でも無いことのようにさらりと言う。
確かにつくしの顧客の中にも、まだ若いというのに遺言書を作成している資産家は居る。
ざっと見ただけでも類の資産は相当である。
ある意味、当然と言えるのかもしれない。
だが遺言書の書き直しの理由で思いつくのは、つくしにとってひとつ。
以前から幾度となく耳にした、類の結婚の噂。


-やっぱり、噂は本当…?
何とも言えぬ気持ちで、真正面に座る類を見た。


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