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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 2

第2話


「「貴子先生、ご馳走様でした~」」

美和と香取はちゃっかり貴子に礼を述べる。
事務員の2人と異なりつくしは同じ『先生』であることから、そろりと財布を手にしたが、それを貴子が制する。

「いいのいいの。今日はつくしちゃんが主役なんだから」
職場では『牧野先生』と呼ぶ貴子も、一端仕事場を離れれば『つくしちゃん』に変わる。
母親、というより、年の離れた頼りになる姉的な存在である貴子の事は、弁護士の先輩である志朗と同様に慕っていた。
ウィンクする貴子に、ぺこりと礼をする。

「ほらぁー、つくしちゃんはちゃんとしてるのに、オマケの2人。あんた達はなぁに~」

多少酒が入り饒舌になる貴子の、ある種愛情のこもった言葉に
オマケの2人と称された2人が「いいじゃないですかぁ~」と反撃に出る。
楽しい会話を聞いていたつくしだったが、ふと気付き、カウンターへ顔を向けた。

「金さんもご馳走様。大将、美味しかったです」
つくしの言葉に、大将はほんの少し表情を緩め礼をする。

「つくしも、たまには店に来いよ。あや乃も話をしたがってたしよ」
「あ、あや乃さん。どう?」
「おう。今はうちの怪獣と毎日格闘中」

つくしの問いに清之介が笑顔で答える。
清之介とあや乃は3年前に結婚し、2人の長男は間もなく2歳になる。

「怪獣って…はは…まるでTOJの時みたい…」
言ってつくしの顔がほんの少しだけ陰る。
もう10年も前の事だというのに、鮮明に残る記憶。

「……つくし……」
つくしの様子に気付いた清之介が言葉を続けようとしたのだが、何かを察した志朗が、清之介の頭をごちんと叩いた。

「清之介。牧野さんはもう『先生』なんだから、呼び捨ては失礼だぞ」
「…ッテ…ずっと呼び捨てだったのに、今更無理だって。
叔父さんは五月蠅いなぁ…」

2人の息の合った会話に、しんみりしかけた空気が和む。
つくしは志朗に心の中で感謝し、貴子にもう一度礼を述べると家路へと向かった。




地下鉄を降り、最寄り駅から自宅までの道のりを歩く。
久しぶりに英徳のことを思い出したからだろう。
ふと自分の右隣を見るが、そこには誰も居ない。
いつもは何も思わないのだが、今日はそれが淋しく感じる。




腹部を刺され記憶障害に陥った司は、その後、つくしの記憶を取り戻すことはなかった。
そうなってしまえば、楓との1年の約束などないも同然。
司は引き摺られるようにニューヨークへと連れて行かれる。

何とか英徳学園を卒業したつくしは、自力で国立大学の法学部に入学。
両親は田舎で畑仕事を手伝う仕事に就き、つくしは高校生になった進と都内で2人暮らし。
英徳での仲間とは、それを境に疎遠になっていた。

-ただ一人を除いては。


まだ大学に通っていた数年前。

いつものように授業を終え、バイトに行こうとしたつくしの目の前には山のような女子生徒の人だかり。
何事か? と野次馬根性が頭を擡げて、そちらを覗いて見ると…

入り口近くの壁に寄り掛かり、長い足を無造作に投げ出す長身の男性。
顔を見た途端、思わず浮かぶクエスチョンマーク。
当の本人は、無表情だった淡い瞳につくしの姿を映し出すと、それを少し緩め、つくしに近付く。
まるで『モーゼの十戒』の如く人だかりの群れが割れ、その姿がつくしの目の前に来る。

「は…花沢類…なんで…?」
「…………待ってたら喉渇いた。お茶飲みたい」
「は!?」
「行こ」

それだけ言うとつくしの手を取り歩き出す。
思いのほか力強い腕は、つくしの手を掴んだきり離さない。
訳も判らぬまま、気付いた時には類の前でお茶を飲んでいる自分が居た。

「あ…あのね…花沢類。どうしてここに…?」
「……牧野、この後は? 帰るの?」
「へ? ば…バイトよバイト」
「そ。何時まで?」
「え…っと8時まで」
「ふーん。じゃあ待ってる」
「え? 何を?」
「牧野のこと」

つくしからの質問には答えず、自分の尋ねたいことだけを尋ねる類。
それを律儀に答えるつくしだったが、ハタと気付き声を上げる。

「あのね…! そうじゃなくて、花沢類は…」
「時間、大丈夫? バイトなんでしょ?」
「え…あ…そうだった…」
「じゃあ行こ。送っていくから」
「送る…?」
「車。乗ってきたし」
「え…いいよ。そんな…運転手さんに悪い…」
「俺が運転して来たけど…?」

類の爆弾発言に、つくしの中での疑問符がすべて吹っ飛ぶ。
結局そのまま類の車の助手席に座り、疑問は更に星屑の彼方へと吹き飛ばされた。
ぐってり疲れたままバイトを終え、出てきた処に居るのは疲れの元凶。

「お疲れ様」

笑みを浮かべる姿に、もう抗う気力もないまま右手を引かれる。
だが、辛うじて残った理性(?)で、類の運転する車に乗ることだけは避けた。
結局2人並んでつくしの家まで歩き、そのまま進と3人、食卓を囲む。
不思議がる進を余所に、つくしの出す料理を不思議なものを見る目で眺め
それを口にし「ん、おいし」と笑顔になる。
食事を終え、食後のお茶も終えると類は立ち上がり
「じゃあ、またね。牧野」の一言を残し、去って行く。
つられたつくしも「うん、また…」と返し、玄関先まで類を見送る。

結局、類が現れた理由も聞けないまま過ぎた一日。
それが、類と新たな関係の始まりだった。


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Category - 本編 『In The Forest』(完結)

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