駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 29

第29話


【注意書き】
医療に関する記載がございますが、すべてフィクションとなります。
ご了承下さい。

「花沢類…この話は…」
断ろうとするつくしより先に、類が尋ねる。

「牧野は会計士か税理士の知り合いは居る?」
「え? あ…うん。一応」

思わず素直に答え、しまった、と思い直す。
それを理由に断れたのだが、後の祭り。

「評価計算に専門家が必要なら、牧野の知り合いでいい。
具体的な方法はそっちに任せる。費用が掛かったら、別途請求して」
「……判った……」
不承不承、手にした書類を封筒に戻す。

「これ…急いでる? 期日は…」
「臨床に関する資料は、いつ裁判になるか判らないから、早めに目を通しておいて欲しい。
もう一つの方は…2月くらい…かな?」

つくしが頷き、書類を鞄にしまうと部屋を後にする。
そのつくしの背中を追う類の瞳が、淋しげに揺らめいた。







事務所に戻ったつくしは、類から預かった資料に目を通す。
とりあえず先に、言われていた方の封を開けた。
SDカードを開くと、書かれているのはすべて独語。
画面に文字が出た途端青ざめたが、後半はその翻訳が書かれている。
書面になっていたのはすべて日本語だったので、SDカードと内容の差異がないかを確認してから、書類を読み進めた。


書かれている内容は、数少ない難病に対する効能に関するもの。
日本だけでなく、まだ世界でもそう判例が見付かっていない病気。
発症原因がウィルスによるものなのか、遺伝なのか?
それが特定できないため、決定的な特効薬が未だ製造されていない。
臨床データは、流通されている薬の他、研究段階のものもあった。
数値、発症から死亡までの期間を見ると、研究段階の試薬の方が効果があるように見える。
臨床データには、Georg Riethmuller(ゲオルグ・リートミュラー)と書かれていた。
恐らくはこれを書いた医師か教授。
勿論、つくしはその名前に聞き覚えはない。

「治験(※)に関する裁判かな…?
…新薬に関する特許じゃ無いって言っていたし…」

書類を見ながらつくしが呟く。
大体の内容は判ったが、そもそもの前知識が少ないので不安はある。

「…少し…優紀に聞いてみようかな?」

この書類を見せるのは流石にまずいが、病名を告げ、優紀が知っていることを聞くのは違反には当たらない。
内容確認が一段落したところで、もうひとつの封筒に目を落とす。

類の個人財産に関する資料。
つくし
-弁護士にに依頼するということは、遺言は公正証書だろう。
態々別の弁護士に頼むをいうことは、それ相応の理由があると考えるのが妥当。

封筒に手を掛け、大きくため息をつく。
既に日は落ち、残っているのはつくし一人。
急ぎではないことから、それを引き出しにしまい鍵を掛けると事務所を出た。




外に出ると昼の暖かさから一転寒くなっている。
もうコートは要らない季節になっていたが、今晩は珍しく肌寒い。
つくしは薄手のシャツに背抜きのジャケットという出で立ち。

「ストール、持ってくれば良かった…」
ジャケットの前ボタンを閉め、足早に駅の方向へ歩いていると、不意に、目の前の大きな建物から出てきた男性に声を掛けられる。
つい最近、聞いたばかりの声。

「何だ? 牧野か…?」
「………げ……西門さん………?」
総二郎はカジュアルジャケットという、割とラフな格好をしているものの、その艶やかな印象は相変わらず。
つくしから思わず出た言葉に、何とも言えない苦笑を浮かべた。

「……お前、こんな良い男捕まえて『げ』はないだろ?」
「う…ごめん。でも、どうしたの? こんな処で?」
「ああ、そこの出版社で打ち合わせだ。雑誌にコラムが載るんだと」
総二郎の指差した先には、出版社ビルが建っている。

「へぇ…西門さん、ちゃんと仕事してるって、少し意外…」
「随分な言い草だな。おい。
…そういや牧野の職場はこの辺だったっけ?」
「うん、そのちょっと先…」
貰った名刺の住所を思い出しながら尋ねると、つくしが事務所の方を指差す。

「仕事帰りか。…飯、まだだろ? ちょっと食って行こうぜ」
「え…? い…いいよ…」
慌てて首をブンブン振るのだが、総二郎には全く効果が無い。

「大丈夫だ。別に取って食いやしねぇから」
「と…取って食うって…!?」

アタフタしている間に、目の間に現れた車に押し込められるつくしだった。



※治験
医薬品当の製造販売に関して、医薬品医療機器等法上の承認を得るために行われる臨床試験


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