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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 30

第30話


つくしの抵抗空しく総二郎に連れて来られたのは、最近出来たばかりのイタリアン。
味に定評のあるシェフが新たにオープンした店で、然程格式張った店ではないことから、なかなか予約が取れないと話題になっていた。
総二郎が何かを告げると、奥の部屋に通される。

中のインテリアは女性が好みそうなものばかり。
流石は総二郎、と妙な処で関心しつつ、メニューを開く。
お手軽とは言いがたいが、そこそこ
-それこそ今のつくしなら手が出せる価格帯。
内心ほっと息をついていると、それが顔に出たのか総二郎が声を掛けてきた。

「余計な心配しないで、好きなの頼めよ」
「余計な…ってね」
「…実はここ、この前対談したシェフの店でな。一度来てくれと言われていたんだ」

丁度良かったと言わんばかりの口調。
言う内容に嘘は無いだろうが、半ば強引に誘い出したつくしへの気遣いもそこには見える。
総二郎らしいさらりとした対応に感心しつつ、ここは一端、つくしが引く。

やがて運ばれてきた前菜やパスタに、つくしが目を輝かせる。
幸せそうに食べるつくしを前に、思わず総二郎も口元を緩めた。

「………なに…? 西門さん」
「否。俺の前で大口開けて食べるのは、牧野、お前くらいだろうなー
…って思ったら可笑しくてよ」
「しっ…失礼ねー!」

思わずむくれキッと総二郎を睨むが、当の相手には効き目無し。
寧ろ尚一層面白そうな目を向ける。

「ホラ。んな怖い顔すんなって。デザートも食べるんだろ?」
「…………………」

睨んだ上目使いはそのままに、真っ赤になりながらこくりと頷く。
無意識なつくしのその態度に、一瞬、総二郎の目が奪われた。

「? …西門さん?」
「…ん…ああ、否、何でも無い」

突然表情が変わった総二郎を不思議に見つめながらも、目の前の皿の方に視線は戻り、美味しそうに料理を口に運ぶ。
そうしたつくしの様子は、英徳に居た頃と何ら変わらず、色気の『い』の字も見えない。

なのに時折見せる表情、ちょっとした仕草から見えるのは、昔のつくしからは考えられないような色香。
つくしに気付かれぬよう、その姿を見つめていた総二郎が徐に口を開く。

「なぁ…牧野」
「え? なに? 西門さん」

声を掛けられたつくしは、メインをすべて平らげ満足げの様子。
つくしの前にデザートが運ばれ、その頬が緩んでいる。
スプーンでひと匙、それを掬い口に運ぼうとして手が止まる。

「お前さ。脱、勤労処女したのか?」
「…………は………!?」

ぽとり。
掬ったものが匙から落ちたが、つくしは固まったまま。

「………落ちたぞ」
「…あ…そ、そうね……。じゃなくってっ…!!」

固まりから解けたつくしは、慌ててテーブルを拭きつつ、耳まで真っ赤にして抗議し始める。

「なっ…何言ってるのよ! そ…そんなこと聞く!? 普通!?」
「阿保か。んなの聞かれて慌てるような年かよ」
アタフタするつくしに対し、総二郎は余裕でそれをかわす。

「けど、その様子じゃ図星か?」
「う……しっ知らない!」

顔を真っ赤にしたまま言い放ち、手にしたスプーンをもの凄い勢いで口に運ぶ。
その様子を可笑しそうに笑っていた総二郎だったが、ふと真面目な表情でぽつりと呟く。

「………相手は……」
-類か?

そう言い掛けて止める。
態度で判るとは言え、つくしが素直に答える筈もない。
それ以前に、他人の色恋沙汰に口を挟む真似をするのは総二郎の質ではない。
所詮、男女関係など、なるようにしかならないものだから。
噤んだ口元から洩れるのは、自嘲的な笑み。

「西門さん…?」

つくしが急に黙り込んだ総二郎を覗き込むように声をかける。
その刹那、総二郎の表情が、いつものものに変わる。

「なんだ、牧野。いつの間に『オトナ』になってた訳?」
「お…オトナって…私はとっくに大人です!」
「ほー、そうか。お兄さんは嬉しいよ。つくしチャン」
「つくしチャン言うな。エロ門」

かつて交わしていたような軽い会話に、総二郎も声を上げて笑った。




「ごめんね。西門さん。結局送って貰っちゃって。何だかんだで、ご馳走になっちゃったし」
「いいって。こっちが誘ったんだからよ」

その後、シェフが2人の元を訪れ、挨拶方々話をしている間に、つくしが気付いた時には既に会計は済まされていた。
財布片手にウロウロしていたつくしだが、最後は素直に礼を述べる。
更にはまだ然程遅い時間でも無いことから、当然のように駅へ向かおうとするつくしの腕を掴み、半ば強引に自宅まで送られ、現在に至る。
つくしが自宅ハイツの階段を上り、部屋に入るのを確認してから、総二郎もその場を後にした。

車の後部座席に一人座り、流れる景色を眺める。
ふと隣の席に目を向けるが、無論そこには誰も居ない。
だが先程までここに居た人物を思い出し、隣に誰か居るということが、自分が思い描いていたほど悪くないことに気付く。

「………酔ったか…? 珍しく……」

それがアルコール等にではないことに、気付いていたのかいないのか。
ぽつりと呟くとゆっくり目を閉じた。


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Category - 本編 『In The Forest』(完結)

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