駄文置き場のブログ 2nd season

□ Le bouquet 【2017 Anniversaire】 □

Le bouquet 第3話 -雅紀-

2017BD_3.jpg



第3話



海からのキスを受けながら、最後にキスをしたのはいつだったっけ、と思っていた。


 ―彼氏とのキスの最中に他の男としたキスのことを思い出すなんて…









 去年のクリスマスイブ―


つくしが最後にキスを交わしたのは、ある男にプロポーズされたときのことだった。


 道明寺司


倒れた父親の代わりにつくしを日本に残してNYへ発ち、約束通り4年で日本へ戻ってきた。
司とつくしは周囲に不可能と言われた4年を耐え抜いたのだ。

 だけど…

道明寺グループは司の母親である道明寺楓の無理な運営のしわ寄せで深刻な状態に陥っており、若き経営者の司は窮地に追い込まれ、アメリカの大財閥と提携をするしか生き残る道がないと騒がれた。

グループの経営が傾いたということに半信半疑なつくしだったが、司に政略結婚の話が持ち上がったことを後から写真週刊誌を見て初めて知ることになる。

司がNYにいる4年間、寂しいと思ったことはあったし幾度となく他の女性との交際話や婚約の話題が取り上げられて不快な気分に陥ったこともあったのだが、あまりにもそういった類いの話が多くて真実が何なのかさえわからなくなっていた。

約束の4年で司が日本に戻って来ても、そんな話題は事欠かずいつしか熱愛報道が持ち上がっても何も思わなくなっていた。


 ―慣れってすごいなぁ


クリスマスイブにふたりきりで過ごしたいと言われたつくしは、メイプルホテルのフレンチレストランにリザーブされた個室でいつ来るかわからない司を待っていた。


 ―きっと今夜もこのまま上に泊まるんだろうな


毎回同じようなデートでときめきを感じることもなく半ば諦めに近い気持ちで今夜も抱かれるんだろうと漠然と思っていたし、ときどき自分は性欲処理の為に存在するんだろうかと思ってしまったことさえあった。


 『少し遅れる』
 

司からのメールを確認すると、返信をすることなく携帯電話の画面を落として読みかけの本を開く。
約束の時間に遅れて来ることにも慣れてしまい、むしろ司が目の前に現れるまでに何をするかということに気を使う。
司との約束の前には図書館で本を借りるのが習慣になっていた。

個室のドアがノックされて誰かが入ってくる気配がするが、振り向かなくてもそれが司ではなくレストランの人間であることは明白だった。

そしてその人物は今日も


 「牧野様、大変申し訳ございませんが、司様の到着がだいぶ遅れそうです。先にお食事をお出しするようにと仰せつかっておりますので、運ばせていただきます」


と、言うのだろう。

運ばれてきた高級フレンチを前にしても、ひとりで食べたって美味しいともなんとも思えない。
目の前の料理に少しだけ手を付けると、ナイフとフォークを置いてまた本を読みはじめる。

これが司とつくしのデートなのだ。

少し前から『お前に話したいことがある』と何度か言われていたのだが、恐らく司が話したいというのはプロポーズだろうとな思っていた。

1時間ほど読み進めた頃、レストランスタッフがホテルの部屋へ行くように言いに来る。

ただ

数日前に美作さんから道明寺グループとアメリカの企業に業務提携話が持ち上がり、司が相手方の娘と結婚するらしいという情報を聞いていた。

周囲の意見を無視してつくしと結婚すれば、何千何万という人やその家族が路頭に迷う可能性もある。

スイートルームに案内され、重厚なドアが開かれる。
すでに司が中にいることも、司がひとりではないこともわかっていた。
難しい顔で司を取り囲む数人の男性たち。

そしてつくしは仕事の邪魔をしないようにと、部屋の隅にある椅子に腰掛けて本を読みながらじっと待つ。

この状況だっていつものことだし、これから30分以上待つことだってわかっている。

しばらくして秘書の面々が司から離れて部屋を出ていくと、司はつくしに向かって歩いてきた。
にこやかな笑顔ではあったが疲れているのが一目瞭然で、恐らく食事もろくに取れていないほど忙しくしていることが見て取れた。


 「牧野、わりぃ。待たせちまって」
 「ううん、大丈夫」


そう言うと司は優しく、包み込むようにつくしを抱きしめた。


 「疲れてるでしょ、ひどい顔だよ」
 「たいしたことねぇよ、それよか悪かったな」


次に必ず司はキスをする。
疲れが出ていても変わることのない美しい顔がどんどん近づいてくる。
つくしはなんの感情もなく条件反射のように目を閉じた。

長い長いキスがようやく終わると、ふたりはソファに座って言葉を交わすわけでもなくただ見つめていた。


 「なあ」


沈黙を破ったのは司

一瞬つくしから目を逸らし、ため息なのか深呼吸なのかはわからないが大きく息をついて話し始めた。


 「結婚…するか?」


つくしは黙ってその言葉を受け止め、返事をすることなく司を見つめる。


 ―もう…終わりなんだね、あたし達


これから幸せに暮らしていきたいという気持ちの感じられないプロポーズ。


 『結婚しよう』ではなく『するか?』


そこに司の気持ちのすべてが込められているように感じた。
何も応えないつくしにいたたまれなくなった司は、つくしを乱暴に抱きしめ再びキスをする。

そのとき

読んでいた本がつくしの手から床にドサリと落ちた。


 「あ…」


床に落ちた本を見たつくしの胸がチクリと痛む。
さかさまになった本から、チューリップを押し花にした栞が見えたからだ。

辛い時、いつも黙って傍にいてくれたのはこの花をくれた人だ。


 ―キスをされながら違う男のことを想うなんて…。


 「あんたの下で働く…何千、何万という人の…生活を守って…あたしはひとりでも生きていける…」
 「牧野…」
 「あたしは少しもあんたの役には立てなかった。せめてこれくらいはさせてほしいんだ」
 「そんなこと…言うなよ…」
 「いいの、あたしは大丈夫」


つくしの口から出た言葉はすべて本心だった。
自分が司と結婚することで社員や下請け孫請け会社やその家族の幸せを奪うのは明らか。
そこまでしてする結婚が果たして幸せなのだろうか?

つくしは拳をギュッと握りしめ、


 「今までありがとう、道明寺。あたしあんたと出会えたこと…後悔してないよ」
 「ごめん…」
 「謝らないでよ…」


それだけ言うとつくしはドアノブに手をかけ、一度だけ振り返った。


 「さよなら道明寺…幸せに…なってね…」









ついこの間の出来事なのに、ずいぶん昔のことのように感じていた。


 ―最低だ…なんでいつもあたしはキスされながら違う男のことを思い浮かべちゃうんだろう…。


 「つくしさん…?」
 「あ、ごめん。なんでもない…」
 「少しは…落ち着きました…?」


耳元で優しくそう呟かれてハッとする。


 「ごめん、なんかボーっとしちゃって…。海くんが変なこと言うからだよ!」
 「俺は…本当のこと言っただけです。どんなつくしさんでも好きです」


あまりにもまっすぐな告白に照れくさくなったつくしは、今日海に渡すつもりでバッグに入れてきたバレンタインチョコを取り出そうとした。

 その時―

肌身離さず持ち歩くことが当たり前になっている『チューリップの栞』がハラハラと地面に落ちていった。



 ―花沢類…!





Rendez-vous demain...


↓おまけつきです♪
web拍手 by FC2
関連記事
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2017/03/25
Comment:6

Comment

*

雅紀様
おはようございます。
はじめまして。………ですよね?
「チューリップの栞」は類くんの心そのもの。肌身離さず持ち歩くほど心の支えになっていたんですね。司くんといても海くんといても思い出してしまう…。
類くんは今何を思っているのでしょう?類くんの声が聞ける日を心待ちにしています(*^_^*)
拍手ページ面白かったです!「どういうわけか司のDNAが入っているような気持ちの悪さ」には笑ってしまいました。
拍手ページまで楽しませて下さり有難うございます。
次はどなたでしょう?明日の更新も楽しみにしています(*^^*)
2017/03/25 【ノエノエ】 URL #- 

* 初めまして🙇

雅紀様🎵
初めましてキムと言います🙇
つくしちゃんと司君はプラトニックな関係ではなかったんですね⁉
でも、類君の名前は出て来るけどまだつくしちゃんと類君の関係が出て来ないので…
皆さん焦らすのが上手過ぎです⤴😣
雅紀さんのお話しのお部屋にはどうやったらたどり着けるのでしょう?
是非お話しを読んでみたいです🙏
2017/03/26 【キム】 URL #- 

* ノエノエ様

返信が遅くなり大変申し訳ありませんでした。
そしてはじめまして…ですね…ハイ(笑)
超絶場違いなチームに参戦。とっても難しかったですが非常に勉強になりました。
拍手ページ、楽しんでいただけたようで大変嬉しく思います。
坊ちゃんにもちょっとは活躍してもらいたい…でも本編では厳しいのでDNA(もどき)だけでも…
お話はもう少し続きます。どうぞお楽しみくださいませ。
2017/03/27 【雅紀】 URL #- 

* キム様

返信が遅くなり大変申し訳ありません。
そしてはじめまして!(?)
私の担当した3話からは時間が経ってしまいましたが、諸事情もあり私の出番では類君を登場させることができませんでした。
坊ちゃんとつくしを別れさせるという重要なシーンを担当しましたがアキさんにバトンを渡すことで必死でした。
そうですね、坊ちゃんとつくしには関係があったという設定です。約束の4年で司が戻り大人になったふたりを描くわけですからそれが自然かな…と。
そして私のお部屋ですね(笑)
「雅紀を探せ!」でもうだいぶお察しかと思いますが、「はじめまして」よりは「お久しぶりです」というご挨拶のほうがしっくりくる感じです(爆)
間もなく愛する類君のお誕生日!
引き続きどうぞお楽しみくださいませ(^▽^)
2017/03/27 【雅紀】 URL #- 

*

雅紀さんこんにちは。
ご無沙汰しております。
結婚するか?という言葉は司の苦渋がよく現れてますね…
このシーンを書かれるのはとても辛かったのでは…と思ってしまいます(><)
でもこの別れがないと類君の出番無いし…と(笑)
雅紀さんと言うことは、あと3回(あのメンバーは5人ですもんね!)はチームルイルイに参加させるのかな~💚なんて期待しております!
2017/04/03 【ずき】 URL #- 

* ずき様

この度はワタクシイベントに併走いただきありがとうございます。
お仲間に入れていただくのはとても楽しく、嬉しいのですがキーボードを打つ手はなかなか進みません。
途中で何度坊ちゃんとつくしを結婚させてしまおうかと思ったくらいです(笑)
そうですね、いつか機会があれば、智や翔、和也も登場させてみたいものです。
最後までお付き合いくださり感謝いたします❤
2017/04/04 【雅紀(やこ)】 URL #- 

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする