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駄文置き場のブログ 2nd season

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Le bouquet 第4話 -オダワラアキ-

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第4話


それはまさかという偶然だった。
たとえ類の会社がつくしの働く『cherie fleur(シェリーフルール)』の目の前だとしても、相手は世界中を飛び回り忙しくしている人だ、会う可能性など殆どないのだと思っていた。
例えばつくしと同じような環境で育ち価値観の合う相手であれば、簡単に約束を取り付けることも出来るのに、つくしにとって類はもうそういう相手ではなくなっていた。
たまに近況報告が入る程度の仲、細い糸のような繋がりをやっとのことで保っている。
もし会ってしまえば、認めてはならない自分の気持ちと向き合わなければならない……それが怖かったのかもしれない。

花沢物産から注文が入ったのは、三月の頭のことだった。
たまたまつくしが電話を受けると、受話器の向こうから類の声が聞こえたわけでもないのに、花沢物産という社名を聞いただけでドキッと胸が高い音を立てたのを覚えている。
電話の内容は、近くのホテルで行われる花沢物産創立五十周年のパーティ用アレンジメントフラワーの注文であり『cherie fleur(シェリーフルール)』にとっては随分大口の注文と言える。
そのためパーティ会場の規模や設置場所を事細かに打ち合わせる必要があり、つくしは明日花沢物産に赴くことになっていた。
店舗に立つ人員にも限りがあるため、たとえ研修中の身であってもつくし一人で発注までを行わなければならない。
その日夜遅くまで残りアレンジメントの見本誌、リボンや装飾品の見本を揃え明日の打ち合わせに備えた。

まさか、会うことはないと思うけど──。

ロビーで打ち合わせ中の社員たちが交わしている会話は日本語だけではない、英語であったりフランス語であったり……所々をつくしが聞き取れるのは司のおかげで、また類のおかげでもある。
司とのことを誰よりも応援してくれていた、つくしが困らないようにと時間のある限り勉強に付き合ってくれた。
やはり、自分の身体の一部と言ってもいいほど、類の存在は大きく切り離せない。
思い出そうとしなくとも、先日の動物園、弁当と類へと繋がる出来事はたくさんあり、至るところにつくしの想いも存在する。

つくしはロビーを通り受付へ行くと担当者の名前を告げ、打ち合わせ用のソファーに腰掛けた。
キッチリと糊の入った制服を着こなす受付嬢と比べて、自分はデニムにセーターという出で立ちだ……職業柄仕方ないとはいえ、こんな格好の時に類に会いたくはないと思ってしまう自分が悲しい。
たとえつくしがこの場所にいたとしても、会えるはずもない人だ。
そう考えること自体が、海に対しての裏切りに思える。

あたしには、海くんがいる──。

やはり……というべきか、結局ロビーで打ち合わせをしている間類を見かけることはなかった。
無理難題を言われることなく、見本誌の中にあるアレンジメントフラワーで注文が入ったこともあり、スムーズに打ち合わせは終了した。
受付にゲスト用のプレートを返却していると、俄かに入り口が騒ついた。
ロビーで打ち合わせを行っていた他社の人間も一瞬気を取られ、視線を向ける。
会いたくないと思っていた……いや、本当は、すでに類へと繋がる記憶を抑制出来ないほど会いたかったのだ──。
「る……い……」
社内の誰もが知る花沢物産専務である類の名前をつくしが呼んだことで、受付嬢が先ほどとは打って変わった訝しげな視線をつくしに向ける。
周りを秘書と思われる男性職員とSPに囲まれ、とても近付くことなど出来そうにもなかったしそのつもりもなかったが、つくしの小さな呟きが類へと届いたのか類の視線が一瞬つくしを捉えた。

「牧野……」

類の声はつくしには届かなかった、しかし類の唇の動きが確かに名前を呼んだ。
ただそれだけのことで、つくしの心を覆っていた脆い壁は崩れ去ってしまった。

あたしは……やっぱり──。



「専務……?どうかなさいましたか?」
一瞬時間が止まったかに思えた。
彼女に会うだけで、顔を見るだけで自分が生きているのだと感じられる。
自分と同じように頑張っているのだと思うだけで、楽しくもない仕事も重鎮たちに小言を言われながらもやってきた。
「いや……十分……五分でいいから、時間取れない?」
類と同じように、立ったまま動けないでいるつくしのそばに行こうと秘書に目配せするも、分かってはいるが許されない。
「無理です。すでに相葉商事の社長が応接室でお待ちです。急いでいただきませんと……」
仕方がないかと類にしては珍しく相手に敬意を払うように軽く頭を下げた。
こんな場所で手を振るわけにはいかないし、相手がつくしならば無視をすることは自分が許さない……だが、驚いたのは類のそばにいた秘書の田村で、類の視線の方向を釣られる形で見ることになる。
類がエレベーターへと足を進めたことで、慌てたように田村も後を追うが、類の視線の先にいたのが牧野つくしであるとその瞳は認識していた。
「専務……先ほどの方は、牧野様ですか?」
「ああ、俺に会いに会社に来るタイプじゃないから仕事だろうけど……ちょっと調べておいてくれる?」
つくしの気持ちが類にあったことなどとうの昔のことだ。
大学の頃、つくしの親友という立ち位置にいることが出来たのは、司とつくしが恋人同士とは思えないほど離れ離れに過ごさねばならなかったからで、日本支社に就任した司とはそれなりに愛を深めているのだと思っていた。
事実そうだったのだろう……司が婚約するまでは。
道明寺財閥の経営が窮地に陥っているという噂を聞いたのは昨年の十二月のことだ。
アメリカの財閥が買収に向けて動いていると噂されていたが、何故かそれ以降の情報はぱったりと届かなくなった。
どう解決したかを司に聞くまでもなかった、連絡はなかったけれどつくしが身を引いたに違いない……それ以外にきっと方法などなかっただろう。
どうしてその時そばにいてやらなかったのかと自分でした決断に後悔すると共に、類の胸がツキリと痛んだ。
その痛みの原因を知っていても、まだ暫くは解決出来そうにもない。
本当は仕事など幾らでも調整することが出来るのに、そうしなかったのは怖かったからかもしれない──。
会ってしまえば……胸に燻るこの想いを全て吐き出して、つくしを抱き締めてしまいそうな自分が、怖かったのだ。

「え……?ちょっと、それどういうこと?」
ただ報告をしてきただけの田村に当たるのは間違っている、しかしどういうことだと詰め寄るのはこの場合致し方ないだろう。
類がようやく一息つけたのは夜八時をとうにまわる頃だった。
大学の頃は家でテレビでも見ながら、ベッドに寝転んでいたなと今となって懐かしく思うのは、そこにつくしに繋がる思い出があるからだ。
つくしのバイトの終わる時間まで酒を一滴も飲まずにテレビを見て過ごし、夜十時を過ぎる頃車でバイト先まで迎えに行った。
その後、ファミレスでつくしの勉強を見ることもしばしばで、働いた後に勉強をするというパワフルさは類にとって尊敬に値するものであった。

それも司のためであったのだろうが──。

「牧野様が来社した理由は、花沢の創立五十周年パーティの件のようです。担当者に確認したところ、向かいの花屋『cherie fleur(シェリーフルール)』の社員だということでした」
「……まさか、道明寺への就職も断ったってこと?二人が別れたの……十二月だよ……」
そんな時期から新たな就職先を探したとでもいうのか。
類は呆然とした様子で呟くが、つくしの決断に驚いてのことではない。
つくしがそういう人間であることは自分が一番よく分かっているではないかと、自身の至らなさを今更悔やみ出た言葉だった。
「一応……道明寺ホールディングスに確認を取ったところ、牧野つくしという社員はいない、という回答が返って来ました」
田村の言葉は予想していたとはいえ、類に衝撃を与えた。
どうして別れた後つくしを放り出すようなことをするのかと、司に対して怒りがこみ上げる。
無意識に噛み締めた奥歯がギリっと音を立て、類は荒々しく息を吐き出した。
司が悪いわけではないのは、同じ大企業を継ぐ者として分かってはいるけれど、一言でも自分に言ってくれていたらと考えてしまう。
「悪いけど田村……明日からの仕事、調整頼める?」
「かしこまりました。専務『cherie fleur(シェリーフルール)』の閉店時間は八時だそうです」
「分かった」



あんなに会いたいと思っていた人が、今つくしの目の前にいる。
昨日類を見かけてからというもの、つくしの心の中には類への想いが募るばかりだ。
もしかして、類から何か連絡があるかもしれないとスマートフォンばかりを気にして、海にも店に戻った後何かあったのかと心配されるほどだった。
類からの連絡はなかったが、まさかその翌日閉店前に類が店に現れることになるなど思いもしなかった。
「久しぶり……類」
自分の声は掠れていなかっただろうか、震えていなかっただろうか。
「うん……まさかこんなに近くにいたとは思わなかった」
類のその言葉だけで、つくしが司と別れ道明寺への就職を断ったことを知ったのだと推測出来た。
「今日はどうしたの……?まさか花でも買いに来たの……?」
「花、か……そうだね……買おうかな、花。……チューリップある?黄色の」
「うん、あるよ。何本?あ、花束にする?」
誰かにあげるのかと、自分の指先が酷く冷たくなっていく。
三月とはいえ、夜八時近くにもなればかなり冷え込むが、水仕事が多くともつくしの手はいつも温かい。
寒さから指先が冷えているわけではない、自分にもう一度出来るだろうかと考えてしまうからだ。

もう一度──。
大好きな誰かが……他の人と結婚するのを笑って祝ってあげられるだろうか。

エプロンのポケットに入ったチューリップの栞を、気持ちを落ち着かせるようにそっと触れた。
「いや、一本でいい……簡単に包んでくれる?」
「はい……ちょっと待っててね」
黄色いチューリップを一輪透明のラッピングフィルムで包んでいく。
震えそうになる手で何とかリボンを巻き包み終わると類へ手渡した。
「ありがと」
類はもう知っているはずだ……でも、何も言わない、きっとそれが彼の答えなのだと思う。
そう思わなければ、期待してしまう自分がいるから。
今、海という恋人がいるのに……認めてはならないのに、気持ちがブレそうになってしまう。
店を出る類を見送って、つくしも閉店準備をし帰路に着いた。
海が今日休みで良かったと思う……動物園で泣き顔を見せたことで、きっと思うところがある彼を、これ以上悩ませ傷付けたくはない。
どうやってアパートに帰ったかも思い出せないまま、つくしは古びた階段を上っていく。
いつもと同じようにポストを開けようと手を伸ばすと、触れた感触で何かがポストに刺さり透明窓から飛び出ていることに気付く。
外灯がなく暗いため、それが何かを知るまでには時間を要したが目が慣れるにつれつくしの瞳に涙が浮かんだ。

どうして────?

「類……」
ポストから取り出したそれは、間違いなくつくしが先ほど包んだばかりの黄色いチューリップだった。
類にとっては深い意味などないかもしれないが、つくしにとっては何より大事な思い出の花。
つくしは部屋に入ると、水を入れた花瓶にラッピングを解いたチューリップを挿しテーブルに飾った。

翌日も、その翌日も『cherie fleur(シェリーフルール)』の閉店間際に類はやって来た。
何故と理由を聞くことも出来ず、互いに会話もなかったけれど、黄色いチューリップは今日もまたつくしのアパートに届けられている。


***





Rendez-vous demain...


↓おまけつきです♪
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6 Comments

キム  

やった〜🎉

アキ様🎵
今晩は🌃👋
今夜はアキ様でしたか〜😆
やっと類君が登場で類スキーの私は🙌です😁
お互いに何も言わず、類君はつくしちゃんにチューリップを送り続け、つくしちゃんも何も聞かずに受け取り…
類君が出て来て嬉しい😃💕けど想像力のない私にはこの後の展開がわからない😢
でも、明日の作家さんは誰か?
どんな展開になって行くのかワクワク😃💕ドキドキ😍💓です😆

2017/03/26 (Sun) 01:40 | REPLY |   

ノエノエ  

オダワラアキ様
こんにちは。
オダワラアキ様のお名前を拝見しただけで、久しぶりにアキ様の類くんが見られると嬉しくて顔がにやけてしまいました!
どんなに周りに人がいても、どんなに小さな声でもお互いを呼んでいる声が聞こえる…。ステキです~~~~(≧∇≦)♡会釈であろうとつくしちゃんに誠意を尽くす類くん。つくしちゃんにだけ向けるこういうちょっとした優しさに気持ちが温かくなります。
つくしちゃんも類くんの顔を見ただけで気持ちが完全に類くんへ向かっていますね。海くんという恋人がいるという事実がストッパーになっているとしても、思い出の花を毎日届けられて類くんへの想いは募るばかり…。ドキドキです♡
明日の更新も楽しみにしています(*^^*)

2017/03/26 (Sun) 16:34 | REPLY |   

オダワラアキ  

キム様

コメントありがとうございます♬
ご無沙汰致しております。
やっとこさ類くんが出てきましたね
この後の展開がどうなるのか…って思っていただければ書き手冥利につきますね!
リレーは明日は誰かが分からないところが、楽しいです♬いや、もちろん書き手は分かってるんですけど、読み手さんからしたらそれも一つの楽しみですね♬
類くんの誕生日までギッシリと話が詰まっておりますので、最後までお楽しみください(^∇^)

2017/03/26 (Sun) 20:15 | REPLY |   

オダワラアキ  

ノエノエ様

コメントありがとうございます♬
うふふ、本当に久しぶりに類つくを書いたんです(笑)
楽しんでいただけたようで嬉しいです!
やっぱり類くんにはつくしちゃんじゃないとね!って海と付き合っていながらも惹かれ合う二人……ナイス展開♡
この後のお話も愛のある話になっております!楽しんでいただけると嬉しいです♬

2017/03/26 (Sun) 20:18 | REPLY |   

ずき  

アキさんこんにちは。
類君書くの久しぶりですね~
気持ちを押し付けない類。
それが類君だとわかっていてもヤキモキしちゃう…
この類とつくしの焦れったさ、がお話の醍醐味でもあるのですが(笑)
それにしてもキスマークどうやって自分でつけるのでしょうか?
ぜひとも教えていただきたい!!
決して自分に付けるわけではないですが…(笑)

2017/04/03 (Mon) 08:28 | REPLY |   

オダワラアキ  

ずき様

コメントありがとうございます♬
そうそう、キスマーク自分でやってみようと思ったけど(笑)漫画のようにはうまくつかなかったよ!
頭?肩?が固いのか二の腕が限界でした(笑)
その辺りをりおりおさんや空さんとも出来ないよね〜なんて話をしてたけど、きっと元ネタが漫画だからなのね!だって鎖骨のほうがそれっぽいもんね(笑)
一人一人にコメントくれたみたいで、忙しいのにありがとう!
ではまたね♬
久しぶりの類つくは楽しかったよ( ^ω^ )

2017/04/03 (Mon) 10:58 | REPLY |   

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