駄文置き場のブログ 2nd season

□ Le bouquet 【2017 Anniversaire】 □

Le bouquet 第6話 -星香-

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第6話



「…ありがとう…ございました…」

つくしがお客の眼を見ずに花を手渡す。
接客業にあるまじき姿だが、受け取る相手もそれを咎めることなく黙ってそれを手にする。
ここ数日間、決まって行われる一連の動作。


あの日以来、類は以前と変わらず花屋にやって来る。
買うのは必ず黄色いチューリップ。
それはその日、つくしの部屋のポストに入れられている。


もう、いいよ。
怒っていないから。
だから…もう……来ないで……。
花も、贈らないで……。

そう言わなくてはと思うのに、いざ類を目の前にすると舌が凍る。
黄色いチューリップを受け取る類の眼は、つくしが以前から知るビー玉のような色。
なのにつくしが見た途端、その柔らかな眼があの夜に見た闇色に変わりそうで、つい顔を背けてしまう。

「つくしさん。カスミソウが足りないので、奥から持って来て貰えますか?」
重苦しい空気を察した海がバックヤードへ行く用事を頼むと、弾かれたように奥へと向かう。
そんなつくしの様子に、類は僅かにため息をつく。

-当然か…。

昔、つくしが襲われたとき、「こういうの嫌いなんだ」と言った。
なのにその「嫌いなこと」をしてしまったのだから。
くるりと背を向け、表通りで待つ車に乗り込む。
後部座席に身を置いた類の眼に、鮮やかな黄色が飛び込んでくる。

黄色いチューリップの花言葉は『名声』
そして『望みの無い恋』

世間一般ではそこそこ人並みの名声を得ているらしいが、自らが最も望む恋は得られない。
まるで今の自分と同じ。
それでもつくしを思い切れない。
いつも通りの行き先を告げると眼を閉じる。
せめて瞼の裏でくらい、笑っているつくしの顔が見たかった。




「……つくしさん。大丈夫ですか……?」
「…………うふっ……。だいじょおぶぅ~」
海の問いにトロンとした眼でそう告げるつくし。
『こりゃ駄目だ』とばかりに支えるようにして立ち上がる。

今日は店の送別会。
花屋の仕事は意味専門的なことが多いので、アルバイトも長期の人が多い。
なので人の出入りは卒業シーズンであるこの頃が多かった。
つくしが勤める『『cherie fleur(シェリーフルール)』でも卒業を機に1人が辞める。
そしてつくしもアルバイトから社員になるため、配属先が変わる。
主賓のひとりであったことからいい感じに酒を勧められ、気付けばかなりの量を飲んでいた。
タクシーを捕まえ、つくしの住む住所を告げる。


-少しは危機感を持って欲しいんだけどな…。

乗り込んだ途端、うとうとし始めるつくしに思わず苦笑を浮かべる。
危機感が足りないのか、信頼されているのか……?
ここは後者だと割り切り、グラグラ動くつくしに肩を貸すと、首が安定したつくしから聞こえる、微かな寝息。

ここ数日間、つくしの様子がおかしかった。
もともとあの美青年が花を買いに来ると、落ち着かない様子だったのだが、それとは明らかに違う。
何かあったのか…?
聞こう聞こうと思いつつ、その件には触れられたくないとの空気感を醸し出すつくしの様子に、ここまで聞けずにいた。


「つくしさん。着きました。はい、降りますよ。」
「う…う…ん…」
半分以上寝惚けながらも、どうにかタクシーを降りる。
ひと寝入りして幾分か落ち着いたようだが、相変わらず「大丈夫、大丈夫」を呆けた口調で繰り返すつくしに肩を貸し、階段を上がる。

「つくしさん。鍵は…?」
「あ…えっとぉ……」
街灯の薄暗い灯りの中、鞄を探る。

「ああ…あったあったぁ…。海くん。ありがとう~。
あ、そうだ。お茶でも飲んでいく…?」
「あ…否、俺は…」
内心、思わぬ誘いにドキリとしたものの、『酔った勢い』というのは…と、固辞する。

「ここまで送ってくれたのに、このままま帰すなんて悪いよ~」
相変わらず警戒心の欠片もない言葉を口にしながら、習慣で
-そう、ついいつもの習慣で、ドア横のポストを開ける。

ぱさり。

幾つかのダイレクトメールと共に落ちた黄色の花弁。
途端につくしの顔色が変わる。

動けぬつくしに代わり海がそれらを拾い集め気付く、ラッピングフィルムに貼られている見慣れたシール。

「……これ……」
「あっ! ごっ…ごめん! 海くん、ありがとう!」
弾かれたようにしゃがみ込み、それらを受け取る。

その場に訪れる沈黙。

「………じゃあ………。俺、帰りますね……」
「あ…あの……」
「もう、遅いですから…。戸締まり、ちゃんとして下さいね」
小さく笑い外階段を降りて行く海。
チューリップを握りしめたまま、つくしはそれを見送ることしか出来なかった。





コンサートホールにフラワースタンドを届け終えた海が車に戻り、予定表と地図を確認する。
次の届け先は一般家庭。誕生日のフラワーギフト。
住所を見て、それがつくしのアパートに近いことに気付く。


翌日仕事に来たつくしは、簡単に前日の礼を述べただけ。
あの花のことには一切触れなかった。

そして、以後も店を訪れる長身の男。黄色いチューリップを手にする後ろ姿。複雑な表情で見送るつくし。
それを眼にすれば、『店員』と『客』という間柄だけではない
-それも只の知人以上であることには嫌でも気付く。
その男が来るたびに陰できゃあきゃあ騒ぐ女子店員達によれば、彼は目の前にそびえ立つ花沢物産の後継者だという。
そんな人が何故? とは思ったものの、つくしの出身大学を考えれば納得できる。

-今日こそはちゃんと話を聞こう。
つくしとはいい加減な気持ちなどではなく、きちんと付き合って行きたいから。

そんな決意を秘めながらハンドルを握っていると、前方に大きな車が1台、停車しているのが見えた。
簡素な家が立ち並ぶ住宅街には不釣り合いな黒塗りの外車。
すれ違うとき擦ったら厄介だな…と思案していると、よく見ればそこはつくしのアパート前。
少し目線を上げると、丁度海がブレーキを踏んだ辺りからつくしの部屋の扉が映る。
その前に佇む、一人の影。その後ろ姿には見覚えがある。


車のギアをパーキングに入れエンジンを切ると、勢いよく車を飛び出していた。





Rendez-vous demain...


↓おまけつきです♪
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Information

Date:2017/03/28
Comment:6

Comment

* 何かある❗

星香(師匠)様💓
お疲れ様でした🎵
今日のお話し何か以前に、類君とつくしちゃんにあったのかな⁉
ニュアンス的にそんな感じがして…
ふと考えて、黄色チューリップの花言葉❗
もしかして類君結婚しているとか😱
あっならつくしちゃんも知ってるか〜
う〜ん二人の間にには何があったのだろう😥
だんだん佳境に入って行きますね🎵
次のお話しと作家さん楽しみにしてま〜す🙌
2017/03/28 【キム】 URL #- 

*

星香様
こんにちは。
拍手ページ!とても素敵でした~~~~(≧∇≦)
つくしちゃんが「水素」、類くんが「酸素」納得です!しかも命の源の水が生まれる…ベストカップルですね~♪
つくしちゃんの複雑な心境を分かりながらもつくしちゃんからチューリップを買い、チューリップをプレゼントせずにいられない類くんの心情…。膠着状態ですね💦チューリップの行方と類くんとつくしちゃんの関係がおぼろげながらも分かった海くんが類くんに何を言うのか。これで動きだしますね。ドキドキします~~!
この後はあのお方とあのお方ですね♪
ワクワク♪♪
とてもとても楽しみにしています(*^^*)
2017/03/28 【ノエノエ】 URL #- 

* キム様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪
辛い状況でのバトン…
悩んでこんな感じに仕上がりました。
花言葉、柄にもなく調べました。
↑ええ、全くあっていませんよね…(^^;)
そして最後は…うふふ、どうでしょう??
類Birthdayまでもう少し!
次も素敵なお話が待っております♪
最後までどうぞお付き合い下さいませ…<(_ _)>
2017/03/28 【星香】 URL #- 

* ノエノエ様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪
丁度ここは気持ちのすれ違いターン。
書いていて辛かったのですが…
最後のハッピーは後の皆様にお任せしました。
うふ、次は遂にあの方ですよ(^^)♪
化学方程式、実は結構好きだったのですが
H2Oの方程式は2人っぽいなーと思い、書いてみました。
酢酸(CH3COOH)なんかは『F4T4ワラワラ状態』っぽいですよね(^^;)
残りあと僅か。
最後までどうぞお付き合い下さいませ…<(_ _)>
2017/03/28 【星香】 URL #- 

*

星香さんこんにちは。
この回も作家さんも読者も辛い回ですね💦
お互いに想い合っているのに悩む…
それにしても最後につくしの家に来ていたのは誰でしょう💦
化学方程式…苦手すぎで全く覚えられませんでした
2ン年前こうやって覚えれば良かったです(^^;
なんてw花男まだやってないし!
2017/04/03 【ずき】 URL #- 

* ずき様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪
今回は…はい、くじ運良いんだか、悪いんだか…?
トップやラストの重圧は無かったものの、心理描写がうーん…??
おまけに後半でしたので、順番来るまでドキドキが…
という感じでした(><)
ですが、ラストは本当! 素敵ですよね~♡
化学方程式はふと思いつきまして…
フワフワ安定しないつくしと、生きるのに必要な類で
「あーそれっぽい…?」で書いてみました。
学生時代…はは…遠い昔です(^^;)
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。<(_ _)>
2017/04/03 【星香】 URL #- 

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