駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 31

第31話



「ご免なさい。散らかっていて…」
「あ、大丈夫ですよ。うちの方がもっと酷いから…。孝太郎くんは…?」
「居ると落ち着いて話ができないから、清之介に頼んじゃったわ」

つくしは通されたリビングに座ると、あや乃がキッチンからお茶を目の前に置く。
訪れた部屋は、小さな子供が居る割に整頓されているのは、几帳面なあや乃の性格故だろう。


類から遺言に関する資料を預かり1週間。
迷ったつくしはあや乃の元を訪れていた。
あや乃は大学在学中に会計士の資格を取得し、卒業後は会計事務所に就職。
2年の実務経験を経て、現在は会計士として仕事をしており、清之介の勤める寿司屋や天草法律事務所の会計は、あや乃に任せていた。
現在は清之介との愛息、孝太郎が居ることから、通常は子育てをしつつ自宅で仕事をしている。

あや乃はつくしの前に自らも座ると、渡された資料に目を通し、思わず唸る。

「うーん。凄いわね…。流石、花沢さん。
なかなかこれだけの資産家、居ないわよ」
「時間、掛かりそうですか…?」
つくしが尋ねると、そうね…と、資料を捲る。

「数は多いけど、評価が面倒なのは少ないわ。
土地建物の資料は揃っていて前のデータもあるから、今年の数値に置き換えるだけだし。
後は上場株と預金だけだから…問題はないけど…。
面倒なのは、やっぱりこれね」

つくしの前に、ひと揃いになった書類を置く。
右上には『花沢物産』と書かれていた。

「そういえば花沢物産は非上場だったものね。それに…何これ…?
資本金に対して資本の部の『厚さ』が全然違うもの。
一体1株幾らになるのか…」
言いながらページを捲っていたあや乃の手が止まる。

「牧野さん。これ…?」
「あ…それは…今度株式の贈与を受けるって…」

前の評価をした資料に、手書きで書き足されていたもの。
つくしも気になり、類に確認をしていた。
類の会社株式持ち分は3%程だったが、近々父親が所有している株式のうち65%の贈与を受けるという。

「65%? そんなに受けたら贈与税、一体幾ら掛かると………
…あ………待って………」

言い掛けて再びあや乃の手が、目まぐるしくページを捲る。
と、思ったら立ち上がり、書斎から何やら参考書籍を持ち出し、必死にページを捲る。

「あ…やっぱり…」
「あや乃さん…? 何か問題が…?」
「いいえ。問題とかじゃなくて…。花沢さんって、代表者じゃなかったわよね…?」
「…ええ。確かまだ…専務だったと…」

はっきりと聞いた訳ではないが、田村は類を『専務』と呼んでいたし
類の部屋に行ったときには『専務室』の表札があった。

「じゃあまだなのかしら? 社長になるのは」
「社長? 花沢類が…?」
つくしの言葉にあや乃が頷く。

「この株式贈与があるなら、近いうちに必ずある筈よ」
「…それは…いずれはそうなんだろうけど…。でも、何で…?」

つくしの問いにあや乃が概要を説明し始めた。
現在類の父親が会社株式を75%所有している。
非上場の為株価がないのだが、これを只単に類に贈与したのでは、間違いなく贈与税の課税対象になるというのだ。

「評価額はこの2年前の資料でも相当なものだから、特例税率(※)だとしても間違いなく55%(※)は掛かるわね…」
「そう…なんですね……」
「それを回避するために『非上場株式等についての贈与税の納税猶予(※)』っていう規定があるんだけど…。
それを受ける為には、花沢さんは代表者…つまり社長の地位に居ないといけないのよ」
「花沢類が…社長…?」

-今度、社長か会長職に退いて、専務が社長になるって。
その時に一緒に婚約発表があるっていう噂なんですよ。

ふと以前山口から聞いた言葉が甦る。
そして手元の資料。依頼された遺言書の書き直し。
すべてがひとつの結論へと向かっているとしか思えない。

-今更じゃない…。最初から判っていたことでしょ?
別れを言ったあの時から…

つくしは膝の上にのせた手をぎゅっと握りしめた。



※贈与税他に関する説明は、本館『駄文置き場のブログ』 の 『「この森」の裏っ側』 をご参考下さい。


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