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駄文置き場のブログ 2nd season

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Le bouquet 第8話 -蜜柑一房-

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第8話


ここから先は大人向けの表現がございます。
18歳未満の方、苦手な方はご遠慮ください。






カランコロンーーー
来客を告げるベルがゴングを鳴らす。
ガッツポーズを作り乾坤一擲、一世一代の告白に向けていざ出陣。
毎日、つくしは静かな部屋の中で一人寂しく花瓶に活けられた黄色いチューリップを眺めてばかりいた。
1本ずつ贈られていたそれは、当然のごとく日に日に増えていき、花の山と言っていいほどの量になっていた。
小さな花瓶一つでは当然収まりきるはずもなく、家中のコップを占領し、つくしの部屋を黄色い花でいっぱいにした。
それでも、望みのない恋という切ない花言葉を持つこの花を、たとえ一輪でも捨てることなど出来なかった。
望みのない恋。
つくしの方こそ望みがない恋だと諦めていた。
道明寺の身に降ってわいた政略結婚の話。叶わなかったシンデレラストーリー。
もちろんそれはあいつのせいじゃなかった。お互いに納得した別れだった。
あいつの時は全身で恋して全力でぶつかった。だから、恋が終わった今でも思い出は美しく後悔は一つもない。
———なぜなら、あの時すでにつくしの心の中には間違いなく類がいたのだから。
「はぁ」
つくしは小さくため息をつく。
類への本気の想いがつくしを臆病にしてしまった。
いつか失わなければいけない恋ならば、初めからなければいい。そうすれば失う辛さを味わわなくてもいい…そう思ってしまった。
でも、それは間違いだった。
類を拒絶した瞬間から、知らず知らずのうちに少しずつ類を失っていったのだ。
波が岩場を削るように、時間をかけて少しずつ気持ちをすり減らし、二人の形はいびつに歪み始めていった。
誰にも顧みられることもなく人知れず枯れていく花のように、つくしと類の恋は花開く前に枯れようとしていた。
本当に好きだから臆病になった。本気の恋だから怖かった。
でも、その言い訳めいた考えは結局誰も幸福にせず、何の役にも立ちはしなかった。
類に襲われそうになったあの夜———
冷んやりとした手の人だと思っていた類の、思いもよらぬ指先の熱さを知ってしまった。
穏やかで優しい人だと思っていた彼の、切羽詰まった真剣な表情に、怖いと思う一方で、密かに心が打ち震えた。
本当は、他の誰でもない、つくしだけに見せたあの表情を、もっと見ていたいと思っていた。
あの時———
突然の出来事に気持ちがついて行かず拒絶する態度をとってしまった。
だが、本当は心の奥底で、類に愛される女になって、類の全てが知りたい、そんな風に思ってしまった自分が本当は恐ろしかったんだ。
「類……」
つくしは懊悩を振り払うように緩く首を振り、両腕で自身の体をギュッと抱きめる。
今動かなかったらきっと後悔する。
困難が立ちはだかった時、つくしはいつだって全力でぶつかってきた。どんなことがあっても逃げずに立ち向かってきたではないか。
「そうだよね……そうだよ。指を咥えて見ているだけなんて私らしくないよね。好きだったらぶつかるしかないっ!」
つくしは小さくそう叫ぶと、両頬をパンと打ち、気合いを入れ直した。
全く、いつの間にこんなに臆病になったんだろう。
つくしはぐずぐずと逡巡する心を振り切り、類が待つ店内につながる扉を勢いよく開いた。


扉を開けると、季節の花である色とりどりのチューリップが束で刺さったアルミのバケツを覗き込むように類は立っていた。
気配に気がついた類がつくしを振り返った。その手には黄色いチューリップが一輪。
ドクンと、心臓が大きく音をたてた。
会いに行こうと思っていたけれど、こうして本人を目の前にすると途端に頭が真っ白になってしまう。
さっきまで思い描いていたあれこれは一瞬にして遥かかなたに吹っ飛んでしまった。
「あ、あのっ、その……っ」
「牧野?」
複雑な表情。喜びと悲しみ、遠慮と焦燥の入り混じった複雑な顔をした類がつくしをおもねるように見つめている。
胸が苦しい。
類がこんな表情をしていたなんて今の今まで思いもしなかった。
何度も顔を合わせる機会はあった。けれど、自分の気持ちを押し殺すことに必死で類がどんな表情をしていたかなんて全く意識してこなかったのだ。
類がどんな想いで黄色いチューリップをつくしに贈っていたのか、今更ながら気がついて胸が締め付けられていく。
「る、い…あのね……」
どうしよう、何か言わなければ。
焦りがますますつくしの頭から言葉を奪っていくようだ。
つくしが救いを求めるように周囲に視線を這わせると、海がチューリップを指差しながら口パクで「頑張れ!」と言っているのが見えた。
そうだ、チューリップ。
つくしは自身の足元に視線を落とす。そこには「赤いチューリップ」が一輪、つくしの気持ちを表すように揺れていた。
赤いチューリップの花言葉は愛の告白。
類から贈られた、山のような「望みのない恋」の黄色に、赤信号を灯す為の赤。真実のつくしの気持ちをこの花に添えて伝えたいと思った。
これも運命なのかもしれない。素敵な言葉は何一つ浮かばないけれど、すれ違うことなく気持ちを伝えられる機会を与えられた今は、神様がつくしにくれた最後のチャンスのように思えた。
この機会を逃したら、もう二度と伝えられないような気がする。
———っ、ままよ!
意を決したつくしは一輪のチューリップをバケツから抜き取り類に向かって差し出した。
「こ、これ…!あたしの気持ちなの。あたし類が好き。ずっと好きだったの。受け取って下さい!」
勢いよくそう叫ぶと、昔テレビで見たカップリング番組の告白シーンのようにガバリと頭を下げて反応を待つ。
気が遠くなるような緊張の中、差し出した赤いチューリップがふっとつくしの手を離れる感触がした。類が受け取ってくれたのだ。
心の中を気の早い天使とファンファーレが鳴り響き、痛いほど鼓動が走った。
受け入れてくれたんだよね?
どうして何も言ってくれないの…?
不安と期待の入り混じった複雑な胸中で、恐る恐る類を見上げるつくしの目に飛び込んできたのは蕩けるような笑顔。
優しくカーブを描く唇から零れた言葉はつくしを有頂天にさせた。
「俺はもう、ずっと前からあんただけが好きなんだ。知っているんだろう?」
「類………あたし……っ」
類の率直過ぎる言葉に赤面してしまい、気の利いた言葉の一つも出てこない。
あたしも好き。
ずっと前から好きだったの。
類を愛している。
心の中で轟々と木霊する想いは口をついてでてきてはくれない。…けれど、言わなくても通じたようだ。
大きすぎる心の声は物言わぬつくしの声帯を裏切って類の鼓膜に直に突き刺さった。
言葉にできない想いを、その視線が、その表情がつくしの気持ち全てを類に伝えた。
類はそっと手を伸ばし、つくしの髪を一房掬い上げる。
「…俺たち随分遠回りしたけど、やっと気持ちが通じ合ったね。今まで時間をかけた分これからの展開はちょっと早送りでもいい?」
「えっ?それって…」
どういうことだろう?言葉の意味がわからず類を見上げると、照れ臭そうに頬を染めた類の瞳が怪しげに色めき、長い腕をつくしに巻きつけるように引き寄せる。呆然としているつくしはあっという間に類の腕の中に収められてしまった。
動揺するつくしの耳元で吐息のような言葉が囁かれた。
「今すぐあんたが欲しいってこと」
「……っ」
つくしは返事をする代わりに、そろりと広い背中に手を回して、小さく頷いた。
———いいよ。


*****


類に手を引かれ連れてこられたのは、cherie fleurからほど近い場所にある、The Maple Hotelよりはやや格式は下だが、都内でも有数の高級Hotelのエグゼクティブスウィートルームだった。
照明を落とした広いリビングルームは、広いガラス窓一面に東京の夜景が煌々と広がり、薄暗い室内を華やかに照らしている。
その眩いばかりの光景もこの部屋に入るなり、互いの姿しか目に入らないとでも言うように、向かい合って見つめ合う二人の瞳にはどんな効果も及ぼさない。
「牧野…いい?」
欲望をたたえた瞳を真っ直ぐにつくしに向け、類は掠れたような声で問いかけた。
つくしは操られたように一歩類に近づき、ちゅっと軽い音を立てて触れるようなキスをした。
離れようとする唇を類が追いかけ、それにつくしが応える。感触を確かめるように何度も唇を寄せて離す行為を繰り返し、いつの間にか深く唇が重なり合う。舌を絡めあう感触が気持ちよくて夢中で応えているうちに取り返しがつかないほどキスが深まっていく。
「…んんっ」
息継ぎもままならないほどの激しいキスに、頭がクラクラする。
縋るように類のシャツ握りしめ、それでもやめて欲しいとは思わない。永遠にキスをしていたい。
後頭部を支える大きな手がそろりと動き出した。
髪を撫で、肩を抱き、背骨が軋むほどの力でつくしを抱きしめる。
軽い酸欠と、胸を圧迫する強い腕の力に目眩がした刹那、類は顔を離した。
「あんたが俺の腕の中にいるなんてまるで夢みたいだ」
「夢じゃないけど……夢なら覚めないで欲しい」
息を弾ませ、類の熱い眼差しを間近で受けるつくしこそ夢の中にいるようだった。
夢などではない生身の類を確かめたい。
欲望の赴くまま目の前のシャツのボタンに手をかけた。つくしの大胆な行動に、類は一瞬だけ瞠目したが、すぐに類もつくしのブラウスのボタンに手を伸ばす。
静かな部屋の中、夜景をバックに向かい合うように立ち、互いの服を脱がせ合う二人。
好き、嫌い、好き、嫌い、好き……
花占いでもするように、互いの心の在りかを覆う邪魔な衣を、一枚一枚丁寧に剥ぎ取っていく。
衣擦れの音を立てて最後の一枚の布を残して全ての衣類を取り払われると、
「…綺麗だ」
類が小さく感嘆を漏らした。
綺麗なんかじゃない。
あたしなんかよりも類のほうがずっと綺麗だよ。
そう言い返したかったけれど、類の真剣すぎる表情に何も言えなくなった。
ただはにかむように笑うと、不意に身体が宙に浮いた。
類がつくしを抱き上げたのだ。そのまま寝室のドアに向かって歩く類の逞しい肩に手を回しギュッとしがみ付いてその首筋に顔を埋めた。
仄かに香る柑橘系のコロンの香り。つくしが大好きな類の香りを胸いっぱいに吸い込んで、「あたしを類でいっぱいにして」と囁くと、類はふっと歩みを止めた。
見上げると、類は薄茶色の目を細め、口角をキュッと上げた今まで見たこともないようなセクシーな表情で、「言われなくてもそのつもりだよ」と笑った。



あんたの全部が知りたいと、類が言った。つくしも同じ気持ちだった。
だから二人で気の済むまで互いの身体を探り合った。
髪、肩、背、腕……触れていないところがあることなど許せないというほど熱心な愛撫、ゆるゆると絆されていく身体。
類の手がつくしの肌を撫でるたびに、皮膚がざわめき、落ち着かない。
もっと、もっと、もっとーーー
もっと深いところに触れて欲しい。
「…はぁ、類、早く……っ」
わざと肝心な部分を外す、類の焦らすような仕草に、急かすようなはしたない言葉が口を突いて出てしまう。
貪欲な自分に呆れてしまう。けれど、欲しがる心を隠す余裕なんてなかった。
「焦らないで。時間はたくさんある」
そんなつくしの余裕のなさを見てとった筈なのに、類は熱っぽい視線をひたとつくしに当て、わざと意地悪をいい、今まで焦らすように放っておいた胸の先端をかりりと噛んだ。
「……う、んっ」
類の意地悪に身悶えする。
優しい人だと思っていたのに、こんな意地の悪いところがあるなんて思いもしなかった。
恋の誤算は付き物だと言うけれど…
「ゆっくり愛したいんだ。俺があんたをどれほど好きか、どれほど欲しがっているか、余すところなく伝えたい」
「る、い…」
つくしは甘くため息をつき、類の好きなようにさせる。抵抗を諦めたつくしはすっかり類の意のままになった。
擦れ合う肌の摩擦で体温が上がる。吐息は乱れ、嬌声を聞かせた。
恥じらいも、見栄も、恐怖も全部手放した。
真っ白になったつくしを、類は眩しそうに見つめ、低く唸る。
「…もう限界だ。あんたが欲しい」
溺れる人が救いを求めるように、つくしの両手が空を掻く。
目に見えない何か縋り付くように、必死に手を伸ばす。その手を類の大きな手が覆い被さるように取り、顔中にキスの雨を降らせた。
愛してる。愛してる。愛してる。
小さなキス一つ一つにそんな想いが感じられて泣きたいほど幸福だ。
「あたし凄く幸せ」
類の口元が幸福を形どった。
「まだまだ始まったばかりだよ。…俺たちはこれからもっと幸せになるんだ」
預言者のような言葉を耳元で熱っぽく囁き、類は身動きをした。
「ああっ」
硬い感触がつくしの中をいっぱいにした。
やっと一つになれた。初めて感じる類の感触に全身が喜びに打ち震える。
身動きする度、パタパタと汗の秘末が降り注いだ。
温かな愛の雨を全身に浴びながら、長い時間をかけて二人は一つに溶け合っていく。
愛し合う二人の間を優しい時間だけが躊躇いがちに通り過ぎていった。




Fin





↓おまけつきです♪
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Category - 【2017 Anniversaire】

6 Comments

ノエノエ  

みかんちゃん
こんにちは。
みかんちゃんの作品が拝見できるこの日をずーっと楽しみにしていました♪
最初の「来客を告げるベルがゴングをを鳴らす」この表現からみかんちゃんワールドだ!とワクワクしてしまいました(≧∇≦)
「類を拒絶した瞬間から、知らず知らずのうちに少しづつ類を失っていた」「人知れず枯れていく花」…つくしちゃんと類くんの関係を凄くよく表していて、このタイミングを逃したらもう二人の人生は重なることはなかったんですね。海くんに感謝です!
つくしちゃんの告白はつくしちゃんらしく思い切りよく!そして頭の中の天使とファンファーレと類くんの蕩けるような笑顔に私もにやけてしまいました(笑)
拍手ページの類くんの幸せそうな姿と頬を力一杯抓る可愛らしさ、本編の楽しい表現満載と類くんとつくしちゃんの幸せそうな姿を堪能して私も幸せです!
素敵な作品を有難うございました(*^^*)

2017/03/30 (Thu) 17:44 | REPLY |   

蜜柑  

こんばんは!お話しを楽しみにして下さりありがとうございますm(_ _)m
最近はまともに文章を書いていないのでじぶ的にかなり不安な感じだったのですが…
ノエちゃんに喜んで頂けて嬉しかったです)^o^(
最終話だったので凝縮というか駆け足で行ってしまったのですが、伝えたい事は伝えられたかなぁ〜と言う感じです^o^
今度は東京駅ですね!すごく楽しみにしています(^○^)

2017/03/31 (Fri) 02:10 | REPLY |   

キム  

お久しぶりです⤴

みかん様💓
お久しぶりです⤴
やっとみかんさんのお話しが読めました🎵
久しぶりなのにRとか😲
類君が頬っぺたつねっちゃうなんて超〜レア物ですね✨
類君がスッゴク幸せ😆🍀で良かった😁
類君の幸せ😃💕はつくしちゃん無しでは、
あり得ない❗
お疲れ様でした🙇

2017/03/31 (Fri) 16:35 | REPLY |   

蜜柑一房  

キムさん
お久しぶりです〜(o^^o)
本当に、、すっごく久しぶりなのにRでした〜。もう大変でした💦
今回はあみだくじだったのですが、まさかアンカーを引き当てるとは夢にも思いませんでしたまじでw
拍手小話の感想までありがとうございます!
ほっぺをつねって再び眠る……かわいいですよねっ
最近は全く創作してませんが、また、再開の折はよろしくお願いします(^人^)

2017/03/31 (Fri) 17:13 | REPLY |   

ずき  

みかんさんこんにちは!
ご無沙汰してます。
やっと、類君の蕩けるような笑顔がみれましたね。
この言葉だけで私もニヤけてしまうのは、やはり類君効果なんですね(笑)
ラストのRお疲れ様です。
こちらのチームにはR担当⚪キさんがいらっしゃったのでプレッシャーもあったのでは?なんて考えてしまいました(笑)
柔らかいタッチのRで、ラストに相応しい素敵なお話でした。

2017/04/03 (Mon) 09:28 | REPLY |   

蜜柑  

ずきさん
お久しぶりです〜!お返事遅くなってすいません(>_<)
そーなんです〜!Rの重鎮アキさんがいらっしゃるのにマジか!って感じですっごくプレッシャーでした💦
とにかくくっつけなくては!と頑張りました。何処をとは聞かないでねw
ずきさんが喜んで下さって嬉しかったです(^○^)
今月お会い出来るのを楽しみにしています!

2017/04/06 (Thu) 16:52 | REPLY |   

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