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駄文置き場のブログ 2nd season

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Le bouquet スピンオフ① -オダワラアキ-

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スピンオフ①


「cherie fleur(シェリーフルール)を? いくら類に言われても、それは無理だよ」

いつも通り閉店間際に店を訪れた類が、ずっと考えてたんだけど……と切り出した話につくしは眉を顰める。

店の外に置いていた花を店内へと運び込みながら、つくしは類の気持ちが分からずに心が波立ち落ち着かない気分で手を動かし続けた。

牧野つくしを花沢物産にと重役自らが言えば、人事などどうにでもなることなのかもしれないが、つくしがそれを望んでいないことを分からない男ではない。 なのに、どうして──。

──花屋辞めて、うちで働かない?

決して高くはない給料と土日休みではないことを考えれば、花沢物産で働いた方が余程高待遇だということは理解出来る。

しかし、もしつくしが恋人でなかったならそんな誘いはしないであろうと考えれば、到底受け入れられるものではないと知っているはずなのに。

「道明寺と別れて……確かに必死に就活してやっと見つけた仕事だけど……今は好きでやってることだから」

「ん……知ってる」

知っていて何故と類を仰ぎ見れば、落胆したように息を吐いた類が告げる。

「公私混同って言われても仕方ないけど、もっと一緒にいたいっていうのが本心……でも、企業人として使えない人材を引き抜こうとしたりはしない」

きっぱりと言い切る類が本心から言ってくれているのだと分かる。

「類……」

嬉しくなかったはずがない──類が自分を認めてくれることも、恋人として一緒にいたいと言ってくれることも。

それでもつくしは頷くことが出来なかった。

頑固で可愛くない女だと思う、そんな自分をどうしてこんなにも愛してくれるのか不思議でならない。

つくしは水で濡れた手をタオルで拭き取ると、類のひんやりと冷たい頬を両手で包み込んだ。

「あたしね……ここで働き始めてから、花沢物産のビルを見上げるのが辛かった……こんなに近くにいるのに、あの高い場所が凄く遠い場所に感じちゃって……」

つくしが触れた両手を、外側から類の大きな手のひらが包む。

その手は頬と同じように少し冷たいが、つくしの心はほっこりと温まり幸福感で笑顔が溢れた。

「今はね、それが凄く好きになったよ。 あそこの三十階で類が働いてるんだなとか、お昼は何食べたかなとか、ビルを見上げるたびに類のこと考えられるし……」

つくしが自身の言葉に頬を紅潮させ照れ笑いを浮かべると、続きを促すように類が言葉を重ねた。

「考えられるし、何?」

「仕事終わった後……走ってお店まで来てくれるの、嬉しいな……とか、思ったり……ってもう! すっごく恥ずかしい!」

店の位置的につくしが外で作業をしていれば、花沢物産のビル正面玄関が見える。

つくしは八時少し前になると、閉店準備もあるが外で作業をしていることが多い。

数十メートル離れたビルの入り口を横目で見ながら、やや落ち着かない表情でいることを海には知られていた。

──デートで俺のこと待ってる牧野さん、そんな顔したことなかったのになぁ。

類と付き合うことになったと報告した後、何度海にそう揶揄われたか知れない。

けれど、腕時計を見ながら足早に信号を渡る類がつくしに会いたいと思ってくれている、そう愛情を感じられる瞬間がつくしは何より待ち遠しかった。

一緒に働くことで類からの愛情が冷めるかもしれないなどと思っているわけではないが、ちょっと普通とはかけ離れている男と、普通のカップルのような付き合いを楽しむ期間があってもいいのではないかと思う。

「急いで来るの当たり前でしょ……? あんたの元彼と長く一緒にいさせたくないし……」

「へっ?」

一瞬何を言われているのか理解が出来ず、つくしは口を開けたまま固まった。

それをどう判断したのか、類が疲れたようにため息をつくのは本日二度目だ。

そういえば、有耶無耶になってしまっていたが海と付き合っていたことを類にきちんと話をしてはいない。

類も詳細を聞きたくはないのか、海とのことを会話に出すことはしなかったが、もしかしたらとつくしが類をチラリと上目遣いに視線を向ければ、居た堪れないといった表情で口元を覆う類の姿があった。

「俺も……嫉妬ぐらいするよ……」

声を潜めてつくしの耳元に唇を寄せた類が、囁くように告げる。

羞恥に耐えながらといった様子で告げられた言葉に胸がキュッと詰まり、ドクドクとうるさい程に心臓の音が身体の中に鳴り響いた。

類の手がつくしの顎に触れ、上を向かせる。

それが合図であるかのように、つくしは徐々に近づいて来る類の長い睫毛の奥にある瞳を目を細めて見つめていた。

花屋のライトで照らされた類の肌は、不摂生な面があるにも関わらずきめ細やかだと思う。

異性として羨ましく感じる前に、その肌に触れたい触れて欲しいと全身に甘く痺れるような感覚が走った。





「あの……お二人さん、申し訳ないんですけど……仕事終わってからにしてくれませんか? しかも俺、一応元彼氏……」

背後から聞こえた声につくしは肩をビクリと震わせる。

もしかして、もしかしなくと聞こえて来る声は仕事仲間であり、元彼氏の海のものだ。

つくしは穴があったら入りたいと両頬を抑え俯きがちに叫んだ。

「いやぁぁぁぁっ! やだっ!海くんごめん! 今すぐ閉店準備するから! 類、ちょっと待ってて!」

その瞬間チッと軽い舌打ちが聞こえたような気がするのは、きっと気のせいだろう。

バタバタと鉢植えを持ちながら、つくしが真っ赤に染まった顔を隠すように店内へと入った。

夜の八時とはいえ、人通りの多い界隈だ。

よくよく見れば周囲には類を見つめ頬を染めている女性たちの姿もある。

そんな場所で自分は一体何をしていたのだろうと考えれば当然のことだが、店の外で両腕を組みモデルのような立ち姿をしている類を見れば平然と群がる視線を受け止めている。

そしてつくしと目が合うと、薄く口元を緩ませて微笑む姿に歓声が上がった。

「牧野、急がなくていいよ。 明日休みでしょ? 近くのホテル取ったから泊まろ?」

今度こそ爆発寸前……なんてことを言うのだと、つくしが赤く潤んだ瞳で類を睨むが、先ほどとは打って変わった飄々とした態度で躱される。

まるで完成された絵画のように整った顔で、なに?と首を傾げる姿にはもう羞恥よりも愛しさしかない。

周囲からは羨ましいぃと嫉妬と羨望の入り混じった声が上がるが、つくしはそれどころではなくさっさと仕事を終わらせるべく手を動かした。







「うわぁ……あれ絶対わざとだろ……性格悪……」



海のポツリと漏らした呟きは、続々と集まり続けるギャラリーの熱のこもった吐息に埋もれつくしの耳には届かなかった。

どこからどこまでが計算なのかと背筋が寒くなるような気さえするのは、海を見る類の瞳が決して笑っていなかったからに他ならない。

つくしを見れば頬を赤らめてウットリと視線は類へ注がれているし、それにまんざらでもなさそうな男は、自身の外見がつくしに効果があることを分かってやっているのだと、海からしたら客観的だからこそ見えてくるものがある。

海は黙々と手を動かしながら、出来るだけ早くバイトを辞めようと決意した。





fin


↓おまけつきです♪
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