駄文置き場のブログ 2nd season

□ Le bouquet 【2017 Anniversaire】 □

Le bouquet スピンオフ⑤ -蜜柑一房-

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スピンオフ⑤



「いらっしゃいま……せ……あっ、類……!」
「お疲れさま。ちょっと早かったかな?」
「ううん、大丈夫。すぐに支度するから少しだけ待ってくれる?」
そう言うと、つくしは汚れてもいない手をエプロンで拭うような仕草をした。
手持ち無沙汰を取り繕うような仕草に見えるけれど本当は違う。
きっと恥ずかしいのだ。照れ隠しに手元の布を手繰り寄せ、握り締めただけであろう恋する女の子らしい初々しい仕草に、ホロ苦い失恋の痛手から立ち直り、平常運行に戻りつつある海の胸の奥がツキリと鈍く痛んだ。
「待ってるからゆっくり準備しておいで」と花沢類がにっこりと笑うとつくしは白い頬を真っ赤に染めて瞳を輝かせた。
「あ、ありがと……」
小さな声で礼を言い、そそくさと身を翻しバックスペースに向かう痩せた背中を見送りながら海は小さくため息をついた。
海と付き合っていた時のつくしは、いつも元気で溌剌としていたけれど、頬を染めて恥ずかしそうに笑ったことなど一度もなかった。
彼女から感じていた好意は、友達のそれであって、恋人に向けるものではなかったのだから仕方がない。
一度くらいはあんな風に頬を染めて自分を見る姿を見てみたかったな…なんて未練がましい気持ちが突然湧いてきて苦く笑う。
「…俺じゃ無理だったんだけどね」
口からこぼれ落ちた言葉が、妙に的を射ていてますますつまらない気持ちになった。
まあ、今更だけどな。
心の中で一つ呟くと、バックスペースに吸い込まれていく背中から視線を引きはがし、閉店準備を急いだ。

「お疲れ様でしたぁ〜。お先にごめんね」
「全然、気にしないでください、掃除したら俺も直ぐ帰りますから。じゃあ、また明日!」
ほんの数分もしないうちに身支度を整えて出てきたつくしは、花沢類にお持ち帰りされていった。
ブランドスーツのバッチリキマった長い腕に、ほっそりとした指を絡めて、ピンク色のほっぺたを輝かせて微笑むつくしの横顔を複雑な気持ちで見送り、凍えた指を擦り合わせて暖をとる。
「さっみぃ〜」
幾ら指を擦ってもいつまでたっても暖かくなってこないのは指先だけだろうか。海は凍えた指先に息を吹きかけながら二人の背中を小さくなるまで見送った。


自ら進んでキューピッド役を買って出たこともあり、海の中でつくしとの事は早くも良い思い出になり始めている。
そもそも付き合っている期間も短かったし、その短い期間のほとんどは類との関係に悩むつくしの横顔ばかりを見ていたのだから。
横顔———
そう、海の記憶にあるのは、斜め45度低い位置にある物憂げな横顔ばかりなのだ。
優しく笑うつくしが好きだった。自分の彼女になれば、あの笑顔を独り占めできる。単純にそう思ってスタートした付き合いだったというのに、結局その願いは叶わず、寂しそうな横顔ばかりを見る恋だった。
バケツの中の冷たい水を床に吐き、込み上げてくる憂鬱を振り切るように、手にしたデッキブラシでゴシゴシと床を磨きたてる。
思えば、海がつくしを好きになったきっかけはなんだったのだろう。
忙しなく動かしていた手を休め考えてみる。
フッと浮かんできたのは、いつかの笑顔。
今年初の春の花が入荷した日———
色取り取りの明るいチューリップの入ったバケツを見つけた時見せた、つくしの蕩けるような笑顔に一目惚れしたことを思い出して忌々しげに舌を打った。
「……くっそぉ〜。結局あいつかよ!」
海はガシガシと乱暴に髪をかき混ぜると、もう何も思い出さないようにと、一心不乱に床を擦る作業に没頭する事にした。





Fin


↓おまけつきです♪
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Date:2017/03/31
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