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駄文置き場のブログ 2nd season

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Le bouquet スピンオフ⑥ -雅紀-

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スピンオフ⑥


いつか愛する女性(ひと)と一緒に来てみたいと思っていた高級ホテルのバー。
大学生だってカッコイイところを見せたいと思って、実は少しだけ貯金していた。

一杯の値段がいくらかもわからないようなお酒だって、支払いできるお金は貯まったし、ついに一緒に行きたいと思える女性もできた。

だけど

俺は何故かこのバーにひとりでいる。

そう―
一緒に来たいと思った女性は他の男を選んで自分の元を去って行った。

完敗だ。
あんな男性に勝てるわけがない
いや―

勝とうと思うこと自体間違ってる。


 牧野つくし


俺の愛した女性


 花沢類


愛した女性を攫っていった男性。



今日は飲もう。
傷心とかそういうことじゃなく

リセットして次へ進むんだ。

そう、それでいい。



「いらっしゃいませ」



お酒は好きだけど安い居酒屋が精一杯でこんな高級なバーになんて入ったこともなかった。
お店でオロオロしないためにも入念に下調べをして臨んだこの日。

お酒を飲むだけだというのに人生で経験したことのない緊張感。

しっかりしろ!

未来に進むためのステップだと思え!


バーテンダーが

「何になさいますか」

と聞いてくるのだが、挙動不審気味だったのかさりげなく

「おすすめはコチラになります」

とブランデーのボトルを見せる。

「じゃあそれを」

手に汗握る、とはこういうシチュでもあるらしい。
なぜこの店に来てしまったのかと後悔すらし始めた。

でも―

とにかく今日はお酒の力で彼女をキッパリと忘れよう。
ひとりで泊まるには些か寂しいが、ダブルルームも取ってある。

正直スイートルームでも取ろうかと思ったが、さすがにそれは空しすぎる。

物静かなバーテンに

「今日はとことん飲みたいんです。酔いつぶれたら〇〇号室に連れていって下さる方を探してください」
「かしこまりました」

こんなことを頼んでいいのだろうかと思ったが、恐らく高級バー初心者であることはバレている。なら素直になったっていいだろう。

しばらくして琥珀色の液体が目の前に置かれた。
透明度の高い氷がカランっと音を立てて崩れる。

一口飲むとアルコール度数が相当高いのか喉が焼けるようだが、フルーティで飲みやすい。

正直種類も違いもわからない。
さすがプロだな、初心者の扱いをわかってる。


1杯目を飲み終わる頃にはちょっとだけ店内を見回す余裕もできていた。

カウンターには俺を含めてもうひとり、上質なスーツのよく似合う男前が慣れた手つきでグラスを傾けている。
癖の強い髪が印象的で、強烈なオーラを発していた。

彼を眺めていて思う。
ここは俺みたいな大学生の来る場所じゃない。

俺は何をしてるんだ?
気持ちをリセットしたいならほかに方法はいくらでもあったはずだ。
いい経験をしたと思って今夜は引き上げよう。

店を出ようと席を立とうとした時だった

目の前に新しいグラスが置かれる。


「頼んでませんが…」

「あちらの方からです」


バーテンはもうひとりの男を見る。

彼と俺との距離は2メートルといったところか。


「えっと…あの…」

「気にしないで飲んでくれ」


低い声で彼は呟く。

するとバーテンが


「当ホテルのオーナーです」


と小さな声で言う。

ここは「ザ・メイプルホテル」
そのオーナー…

では彼が道明寺司か!


「あ、ありがとうございます、それじゃ1杯だけいただきます…」


上ずった声になってしまった。
道明寺司と言えば世界的企業のトップとして知らない人はいない有名人。

テレビや新聞、雑誌でその姿を見ることはあったが、まさかこんな場所で酒を奢られることになるとは…。


「気にすんなよ」
「はぁ…」


静かに腰を下ろしてグラスに口をつけた。
最初の酒とは全く違う味だ。素人ながらそれが高級だということは香りだけでもわかる。


「なぜ俺に…」
「なんとなく仲間?って感じが漂ってたからな」
「仲間?」


俺は大学生だし単なる花屋のアルバイト。
世界的企業のトップとどう仲間になるのだというのだ。


「オマエ、『女に振られました』と背中に看板背負ってるぜ」


思わず左手で背中をさすってしまう。
当然何もあるわけがないのだが、それを見ていた彼はひと言


「揶揄ってわりぃな。オレもオンナにフラれたばっか」
「え…」


男の自分から見ても惚れ惚れするような人を振る女って…。


「まったく…オレみたいないいオトコを振るなんてどうかしてるぜ」
「本当ですね…信じられないです」


彼はグラスを前後に揺らしながら少しだけこちらに体を向けた。


「学生だろ?」
「ええ」
「羨ましいぜ、未来があるんだし」
「いやいや、貴方にだって…」
「オレに自由な未来なんてない。これからビジネスでオンナを抱くことになる」


ビジネスで女を抱くだって?
俺にはよくわからない世界だ。

ひとつの恋が終われば次の恋を始められるのが恋愛だろ?


「わかんねぇよな、こんな世界」
「そうですね…すみません」


謝ることねぇよ、と呟きながら悲しそうに微笑んだ。

きっと俺にはわからない何かがあるんだろう。
誰かに話してスッキリすることもあるが、彼の話を聞いたところで恐らく理解することはできないだろう。

話したくなれば彼から話すだろう。


「クソッ、ちっとも美味くねぇなこの酒!なんか他にねぇのかよ」


いえいえ十分美味しいですとツッコミたいのを必死で堪える。


「俺は好きですよ、おかげでいい思いができました。ありがとうございます。俺初心者なんで全然わかんないんですけど、これはなんていうお酒ですか?」
「ん?なんだったかな…ああ、『マッカラン・インペリアル「M」』だな。スコットランドの酒だ」
「ボトルが芸術作品みたいですね」
「ああ、よくは知らねぇけどガラス職人が手作りしてるみたいだぜ」


見るからに高級そうだし美味しい。

だけど
俺にはもっと安い酒が合ってる。安価だって美味しい酒はある。

そう思った瞬間牧野つくしの顔が浮かんだ。
確かに彼女は質素だが内面からにじみ出る美しさがあってそこに惹かれた。

なるほど、酒も女も好みは同じなんだな。


「今夜は安い酒でも飲みたい気分だぜ」


彼はそう呟いた。

住む世界は全く違うし、初対面だが俺は彼と通じるものを感じていた。







***






「イテテテ……」


大きな窓から差し込む光が眩しくて目が覚めた。
広すぎるベッドの寝心地は皮肉にも最高。

結局、彼とは夜中の3時近くまで一緒に飲んでいたのだが、彼は途中で安い酒を飲み始めて俺に『マッカラン・インペリアル「M」』を譲りボトルを空けろと言って断っても譲らない。
根負けしてボトル1本空けたのだが、どう部屋まで辿りついたのか全く記憶にない。

少し頭痛と気持ち悪さがある。

だが長く続くような気配もなさそうだし、一度吐けばスッキリするだろう。


部屋の洗面室に行き、胃の中を空っぽにした。

空きっ腹に酒なんて飲むもんじゃないな。

でも―
美味かったなあの酒。

道明寺司は『マッカラン・インペリアル「M」』と言っていたな。
二度と飲むことはないんだろうな。
花屋の給料何か月分だよ…。

ふと気になりスマホを手にする。



そして―



たぶん今の俺は青ざめ情けない顔をしているはずだ。
興味本位で検索なんてしなければよかった…。

さっきまでいた洗面室を眺め、長い時間呆然としていた。





fin






※マッカラン・インペリアル「M」
原産国:スコットランド 6000ml
数万個の樽の中から7つを厳選し、25年~75年モノの樽から原酒を調合して作り上げた最高級品。
ボトルは職人が手作りしたクリスタルで「コンスタンチン」(ローマ皇帝の名)と名付けられた芸術作品でもある。
価格:6500万円(まとめサイト参照)





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