駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 32

第32話



「専務。社長がお呼びです」

自室で書類に目を通していた類の元に、第二秘書の川島がやってきて声を掛ける。
類は声を掛けた秘書に目を向けたが、面倒くさそうに無言で立ち上がると、社長室へと足を向けた。

主に欧州を中心に飛び回っている父親が日本に居るのは、今月末に行われる株主総会の為だろう。
総会とは言っても、殆ど形だけ。
大半を父親が取得しており、残りも親族が固めている。
ごくごく一部、第三者
-主に取引先が数名、取得しているが、それらの者は委任状が出され
総会に顔を出すことはまず無い。(※)

完全なる出来レース。
だが今年は多少色合いが異なる。

ノックの後社長室に入ると、父である悟が第一秘書と予定を確認している処だった。
類の姿を見ると秘書が一礼し、部屋を出る。
残されたのは、父と子の2人。

「お呼びですか?」

悟は類に、目の前のソファに座るよう、目で進める。
類がそのとおりにした目の前に自らも腰を下ろすと、1冊の雑誌を置いた。
普段、悟が目を通すはずも無いゴシップ誌。
内容は見ずとも、何が書いてあるのか判らぬ類ではない。

「……何でしょう?」
雑誌を手に取る事もなく、類が尋ねる。

「久我山とは手を切る。…お前の望み通りにな」
「…心外ですね。俺がやらせたと…?」
「そうでなければあの程度の癒着、態々マスコミが取り上げる筈もなかろう」

悟の言葉に、流石にその程度は見えているか…
と、内心思うが表情には出さない。
それは目の前に座る男も同じ。

「その記事をリークしなければ、久我山の娘との写真が載るところでした。
うちからの正式発表前に、そんなことが許される筈もないでしょう?
それに…その記事は久我山側からのリークのようでしたので」
「…………………」
「………尤も……」
類が一端言葉を句切る。

「その場に俺が居たこと。
そのことは一体、何処から洩れたんでしょうね……?」

口調こそ疑問系だが、類の言葉は悟への問いではない。
そのことに気付いている悟も、それには答えず逆に問いで返す。

「代表者への就任と株の贈与は、配偶者を得てからという約束だろう?」
「『花沢』にとって有益な相手が居れば、という条件の筈です。
残念ながら、条件に合う人間が居ないのですから、仕方在りません」

『残念』等と数ミリも思っていないのだが、類の言葉は流れるように出てくる。
相手の出方を探るようなやりとり。これが親子の会話。
近年、こと仕事をするようになってから悟と話すときは、大抵こんな感じになる。
他人が端から聴いていれば、とても父子の会話とは思えないだろう。
類の中に何ともやるせない気持ちが浮かび上がり、自嘲的な笑みが洩れる。


「第一、株の贈与は俺が望んだことではありません。
今期以降のプロジェクトで、株価が上がるのを見込んだ弁護士と会計士が贈与を勧めたことでしょう?」

類の言うことは事実。
花沢物産は今期、大がかりなプロジェクトの契約に漕ぎ着けた。
類が渡仏した当初から掛かっていた案件。
その案件が今期より実行される。

非上場である花沢物産の株式は、純資産が株価に影響を及ぼす。(※)
利益が上がればそれだけ株価も上がる。
そのため決算直後の総会で、類を代表者に任命し、プロジェクト始動前に株式を贈与しようという計画案を提示された。
悟は今すぐ相続が心配される年齢ではないが、『納税猶予』という規定を利用すべきとの助言が出ていたのだ。

それを利用し、何時までものらりくらりと独り身でいる息子に引導を渡すため
『結婚又は婚約』を条件に株式を贈与すると言いだしたのは、悟自身である。
類もその考えを知りつつ、それを呑んだ類。
たったひとつ『有益な相手が居れば』という条件を付けて。

「…あの程度なら、目を瞑っても良かろうに…
…まぁ良い。
どう足掻いた処で、何時までも独り身で居られるとは思っていないだろう」
「……………そうですね…………。
話はこれだけですか? それでしたら失礼致します」
「待て。まだ話はある」
悟の言葉が立ち上がり掛けた類を制すると、類が怪訝そうな視線を向けた。

「何でしょうか? まだ仕事は残っておりますので、手短にお願い致します」
「新しい弁護士を雇ったそうだな。……牧野つくし……。
性懲りも無く、まだあの娘に執着しているのか?」


淡々と、だが冷ややかに悟の口が言葉を紡ぎ出した。



※ 株主総会と株価につきましては、『駄文置き場のブログ』の 『「この森」の裏っ側』 をご参考下さい。


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