駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 35

第35話



小洒落た店の前に立ち、つくしは軽くため息を付く。
今日の誘いは滋からだった。
これまで疎遠にしてきた隙間を埋めるが如く、滋と桜子からは連絡が来る。
2人ともつくし以上に忙しい筈なのだが、何かに付けて誘いがあった。
今日の集まりは、先日ついぽろりとこぼしてしまった、優紀の転職先が決まったという、つくしの言葉によるもの。
滋の『それならば、お祝いしなくちゃ♪』の一声で決まった。

決して滋達に会うのが嫌な訳では無い。
実際、先日の集まりは、最初はどうかと思っていたが楽しかった。
だが、彼等と関われば、嫌でも類と関わることにもなる。
顧問契約が在る以上、類との関わりは避けられないが、ビジネス以上に近付けば、つくしも『仕事』と割り切るのが難しくなる。
それに、下手に類の父親の耳に入り、また第三者を巻き込んだ妨害をされるのもたまらない。

今回は優紀のお祝い。
親友の新しい門出
-しかも、自らの言葉から出たもの-をパスするのも気が引ける。
今日だけよ、今日だけ、と自らに言い聞かせ、店のドアを開けた。




通された個室の中に居たのは女性陣3人のみ。その姿に少しほっとする。

「ニッシーとあきらくんは遅れて来るって。忙しいのかねぇ…」
「もう『Jr.』という看板が通用する年でもないですからね。色々とあるんじゃないですか?」

桜子の答えに、そんなものかなー? と、グラス片手にのんびり答える。
そういう滋自身、大河原系列で新しく立ち上げた会社の社長に就任しており、多忙な毎日を送っている。
桜子も起業し、今では有望株のアパレルメーカー女性社長。
本日の主役である優紀は、看護短大に3年間通った後、系列の病院に就職。
3年前から救急病棟の看護師として経験を積んでおり、今回はそれを生かしてのキャリアアップ転職となる。

初めて会ったときから既に10年。
つくし自身、駆け足で通り過ぎた感はあったが、正にその通り。
確実に時は経過している。

「あ、今日はルイルイは無理かも…?
確か、花沢物産は今日、株主総会なんだよね」
「え…あ…そう…なの…?」
突然、滋の口から出た『類』の言葉に、内心どきりとする。

「滋さん、何でそんな事ご存じなんですの?」
つくしや優紀は勿論、桜子も知らなかったようで、滋に尋ねる。

「花沢物産、昔は100%の同族会社だったんだけど、それだと色々問題あって…(※)
何年か前に、少しずつ関係会社に譲渡したんだよね~
で、うちの親も一応、株主なんだ」

ま、うちは委任状出して終わりだけどね、と、答える。
上場している道明寺、美作、大河原などは株主総会が何かと話題になる。
5年前の美作商事の株主総会など、まだ役員ではなかったあきらが『株主』として姿を現し、話題を掠っていた。
その点、非上場会社の花沢物産の総会は、株主以外判らず、詳細はベールに包まれている。

「今回は役員の改選だし、もしかしたらルイルイが社長になったりして」
「まさか。幾ら何でも早過ぎやしませんか…?」
「……あ……」

滋と桜子の会話に、先日あや乃から聞いた言葉が甦る。
株式贈与のためには、類が代表者になる必要があるという話。

「え…? つくし。何か知ってるの?」
尋ねる滋に、慌てて頭を振る。
弁護士として知り得た個人情報を、幾ら友人とはいえ第三者に知らせるのは業務違反だ。

「ううん。何でも…。
…それよりさ。何かお腹空いちゃった。
何が美味しいの? ここ?」
慌ててつくしが話題を変える。

「もう、先輩。相変わらずですね。
女ばかりというのが…まぁ…何とも不本意ですが、殿方が来るまでは女性陣で楽しむと致しましょう」

相変わらずの桜子の辛口に、つくしと優紀が顔を見合わせくすりと笑った。





-かったるい…

高級料亭のお座敷で芸者の舞を堪能する役員達を前に、類は不機嫌な顔を隠すことなく、上座に座る。

いつもは形だけの株主総会だったが、今回は流石に役員と主な株主が集められた。
決算報告は予定通りさらりと終わったが、その後の役員改選。
悟が退く旨は、主立った役員には伝えられていたものの、いざその時になると、その場がざわつくのは否めない。
それを治めたのは、現社長である悟。
結局、悟が名義のみ会長職に退くことで、類の代表取締役への就任が可決された。

思い知らされる、父親の力。
それでも、今回は屈するわけにはいかない。

総会後の役員懇親会に出席し、様子を伺う。
未だ父親の息が掛かった者が殆ど。
類に言い寄ってくる輩も、父のご機嫌取りか、類の隣に立つのに丁度良い、妙齢の娘が居る者か。
そのどちからだ。


-これ以上、余計な時間を割くわけにはいかない…
注がれた杯を無言で空ける。

極上な筈の酒は、重く苦かった。




※ 平成18年~21年の期間、同族株主の株式保有割合が90%以上の場合
『特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入』という規定がありました。
現在は廃止されております。


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