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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 36

第36話


「お父様」

料亭を出た類達一行の元に、若い女性の声が届く。
反応したのは、悟の隣に居た人物。
取締役の一人である鷹栖は、類にとっては母方の伯父に当たる人物。
駆け寄ってきたのはその娘、鷹栖久子(たかすひさこ)である。
とは言っても、鷹栖は母の姉である伯母の配偶者であり、久子はその連れ子であるため、類と2人の間に血縁関係はない。

「叔父様。類様。お久しぶりです。
近くを通り掛かりましたものですから…」
悠然と微笑む久子に、類は僅かに眉を顰める。

鷹栖と伯母が再婚をしたのは10年ほど前。
これまで数度顔を合わせた、名前だけの従姉のことは最初から好んではいなかった。
それは悟も同じこと。
時折、野心を見せるこの親子を牽制しつつ、手元に置いているのは、外戚とはいえ親族であることと、政治家関係に顔が効く事に他ならない。

昔、類がフランスに行った当初に行われたパーティでも態とらしく現れ、その写真がゴシップ誌に掲載された。
幸か不幸か、静と似た色のドレスを着ていた事と、不鮮明な写り具合で相手が静と誤解され、その後、静の結婚で立ち消えになったのだが。

その後は目立った動きをしないことから放っておいた。
僅かに目線を悟の方へ向けると、表情を変えず久子の挨拶を受けている。


-遂にここまで引っ張り出してきたか…
類が内心、毒付く。

持ちかけられる見合いを片っ端から難癖を付けて壊している類。
悟の望むような、大人しいだけの令嬢では、類が仕掛ける策
-決して難解なものではないそれ-
に敵うはずもない。

いい加減、役不足と判断したのだろう。
鷹栖久子は強かではあるが、決して愚鈍ではない。
類より1つ年上だが、花沢系列に就職することもなく、『家事手伝い』として、家に収まる事もせず、大手外資系企業に勤めている。

以前、ほんの数ヶ月前であれば、追い払うのが面倒、と、婚約でも結婚でもしていたかもしれない。
だが今は…


『ルイ。君が本当に望む未来を歩んで欲しい』
知らず、自らの左胸に手が伸びる。


-…大丈夫だ。約束は守るよ。ゲオルグ。
類の表情は貼り付けられたように変わらないため、その心情を窺い知る者は、この場所には居ない。
類は僅かに目を伏せた。








つくし達が店を出た時間はまだ早いため、外の人通りも多い。

「ホラ、牧野。行くぞ」

いつの間にか店の前に付けられた車。
滋や桜子は当然のように乗り込む姿勢を見せており、次の店に行く気満々だ。
優紀は少し迷った素振りを見せながらも、あきらや滋に引っ張られている。

「優紀、明日仕事は…?」
「うん、明日は準夜勤だから午前中はゆっくり出来るけど…。つくしは?」
「う…明日はアポがあって……」
つくしの仕事柄、週末しか都合か付かないクライアントも多い。
言い淀むつくしに、総二郎が声を掛ける。

「帰りはちゃんと家まで送り届けてやるよ。送り狼にはならねぇから、心配するな」
「あのね、西門さん。そういうんじゃなくてね…!」

結局この店の支払いは、一番遅れてきた総二郎が支払った。
流れからしても、次の店も総二郎かあきら、どちらかが払うのだろう。
その前に会った時も、その後総二郎と食事をしたときも、ご馳走になっているつくしにしてみれば、何とも居心地が悪い。
それは隣に立つ優紀も同様のようだ。

「…ああ、次の店。うちの関連なんだ。この前俺が手掛けた仕事でね。
出来たら店の感想、聞きたいんだけど?」

2人の様子を気にしたあきらが、さらりと言う。
それじゃあ…と、車に乗り込もうとしたつくしは、ある一箇所に目が止まる。

週末ということもあり、通りには飲みに訪れるビジネスマンも多い。
その中で、特に目を引く一団。
車の往来が多い、大通りの向こうにある、高級料亭らしき門構え。
目の前に止まる高級車。何処かの役員のような面々。

中で最も人目を引く、長身の男性。
隣に立つのは、品の良い服を着る女性の後ろ姿。


「……ご…めん。ちょっと用事思い出しちゃった。
優紀、楽しんで来て。じゃあ…」
「おい…? 牧野?」

先に乗っていた総二郎が慌てて引き留めるが、つくしの行動は思いのほか早く、車から降りたときには、既にその後ろ姿が小さくなっていた。

「ったく…一体何が…」
あった、と言い掛けた総二郎も、通りの向こうに居る人物に気付く。
丁度類が車に乗り、数名の男と共に、一人の女性が一礼しそれを見送る。


「…いい加減にしろよ…類」
低く呟く総二郎を、車内から優紀が不安げに見つめていた。


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