駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 37

第37話



総会と登記(※)が終わり、類は名義上、社長となったものの、未だその実権は変わらず悟にある状態。
本格的に代表者として動くのは、2月後のパーティの席からとなる。
社内はその準備に何かと慌ただしい中、総二郎からの呼び出しがあった。

「忙しい」と、とりつく島のない類の言葉に、いつもなら引き下がる総二郎だが、この日に限っては異なっていた。
何時に無い、淡々とした口調。
指定された場所に行けば、居るのは総二郎一人。

「……よう……」
「なに? 総二郎だって忙しい筈だろ?」
「……まあな……」

問いに曖昧に返事を返す。
尋ねた類も、挨拶代わりで返事を求めるものでは無い。
海外を飛び回る、類やあきら、それに司と異なり、茶道次期家元である総二郎の拠点は日本。
だが幾ら移動距離が少ないとは言え、それが他の3人に比べ暇なのか?
と尋ねられれば、決して是、とは言えない。
寧ろ、類あたりに言わせれば
「面倒な相手をしなければならない分、面倒でイヤ」という処か。

頼んだ酒が運ばれ、VIPルームには2人の他に誰もいなくなった処で、総二郎が口を開く。

「類。お前、牧野の事、どうするつもりだ?」




総二郎の言葉に、類は正直、驚いていた。
その尋ねられた内容に対してでは無い。

学生時代、司やつくしに対し言っていた、からかうような口調でも無く、自分に対し叱咤する口調でも無い。
只、淡々と、そこにある事実を確認するが如く尋ねる。
それはつまり、総二郎が『本気』であるという事に他ならない。


「……そんな野暮な事聞くの、総二郎の流儀に反するんじゃないの?」
「……かもな……」
問いに対し問いで返すのを、軽く流し、それ以上口を開こうとはしない。
類が軽くため息をつく。

『お祭りコンビ』と呼ばれる総二郎とあきら。
普段のように、口数多く、類に対しああだこうだ言う時なら、煙に巻くのは容易い。

なのに、今あるのは沈黙。

滅多に見せる事はないが、こういった時の総二郎は手強いことを類はよく知っている。
それは総二郎だけで無く、あきらや司、他ならぬ類自身にも言える事。
こういうときの総二郎に、下手な策を労しても意味が無い。

「何が聞きたい…? 俺に?」
「…………この前集まったとき……」
考えるようにゆっくりと総二郎が話し始める。

「お前が総会で、来られなかった時だ。
類。お前が女と一緒の処を見た。
あれは…鷹栖の娘だな」

鷹栖家は政治家に太いパイプがあると同時に、古典芸能にも通じている。
西門流の後援会にこそ入っては居ないが、茶会の折には何度か顔も会わせた。
勿論、類
-花沢家との関わり、姻族であるこということも承知している。
その総二郎が尋ねるのに対し、『義理の従姉妹だ』という言い訳が通じる筈も無い。

「………総二郎の思う通りだよ。あれは仕組まれてた。恐らくは父に。
何処かで三流週刊誌が張ってたかもね」
「…そこまで判ってて、何故動かない?」
静かだが、総二郎の声には怒りが満ちている。

「お前と牧野との間に、過去、何があったのかは詮索しない。
…それこそ野暮だからな。
問題は『今』なんだよ」
低い総二郎の声が響く。

「お前の家の事情は判る。
それでも…お前が動けない筈が無いだろ?
力が足りないって言うなら、何故、俺等を利用しない?」
「………………」

つくしが高校を卒業し、英徳の仲間の前から姿を消したとき。
只一人、つくしの存在を見つけ出した類。
フランスに行った当初はまだ、力が無かったと言うのは判る。

あれから5年。
日本に居る総二郎の耳にも、類の活躍は届いていた。
そして今回の代表取締役就任。
父親の力が未だ巨大であっても、簡単に2人の妨害は出来ないはずだ。
仮に妨害され、どうしようもなくなったら…
類の性格なら、あっけなく会社も親も捨て、つくしを選ぶ。
その程度のこと、幼なじみである総二郎には容易に想像がついた。

類が一言、協力をしてくれと言うなら…
自分も、あきらも出来る限りのこと、
-否、それ以上の事だっとしても協力をする。
言に今、一般社員として入社したあきらも、既に美作商事の役員になり、
家元襲名間近の総二郎も、財界、政界をはじめとする様々なコネがある。
いち企業人として、悟がそれらを全く無視するほど、総二郎やあきらの力は脆弱ではなく、悟も愚鈍ではない。

すべては、類の行動次第。
なのに…

「……鷹栖の娘、牧野も見てるぞ」
総二郎の言葉に、類の眉が僅かに動く。
それでも類は口を閉じたまま、何も言おうとしない。

「……黙りかよ……。まぁいい。
今の状況を…類。お前が何ともできないと言うなら…
俺が牧野を奪っても良いんだな」



※ 役員変更は登記事項のため、改選後2週間以内に法務局に変更登記の手続きを行う必要がある。


関連記事
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする