駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 3

第3話



その日を境に、類はつくしの前にちょくちょく姿を現すようになった。
大学の校内は勿論のこと、バイト先にまで。
つくしが幾ら言っても、見た目に反して強情な類はするりとかわし、聞く耳持たず。
結局、つくしの方が折れた。

とはいえ、流石に毎回、校門の前で毎回待たれるのは、あまりにも目立ち過ぎる。
つくしが待ち合わせに選んだのは、大学の学食。


講義を終え学食に向かうと、昼食の時間からは大きくかけ離れているため
中に居る学生や、業者らしき者は茶を飲みつつ談話をしている。
近年、改装されたとはいえ、ここは一介の国立大学。
英徳学園のようなラウンジ
-それこそ、F4専用ラウンジとは似ても似つかない。

明らかにその場にはそぐわないのだが、当の本人は全く気にする事なく
テーブルに肘を付きながら、持ってきた経済誌に目を落とす。

まるでそこだけが切り取られた別世界のようで、お茶をする学生
-特に女性が、遠巻きに眺め、ひそひそ囁く。


「お待たせ。花沢類」
つくしが声を掛けると、類が読んでいた経済誌から顔を上げた。

「お疲れ。今日、講義は終わり?」
「うん。もう少ししたらバイト」
「そ。珈琲でいい?」

かたんと椅子を引き立ち上がると、つくしの飲み物を買いに行く。
最初ここに連れてきた時は、学食のシステムが判らず、いきなりカードを出そうとした類だったが、
食券やセルフサービスを見るなり『面白い』と言いだし、今ではすっかり慣れた。
ここは学食マスターの企業努力(?)により
『安い豆でも美味しく入れる』ことが、学生の間でも評判な場所。
そのせいか類も「焙煎と、入れ方はいいよね」と、割と気に入っているようだ。

類が珈琲を持ってくると、礼を述べその隣に座り、教材を開く。
大学へ行くだけで精一杯のつくしは、弁護士になりたいからと言って、法科大学院へ行く余裕はない。(※)
在学中に司法試験予備試験と司法試験、両方に合格しておきたいのが本音だった。

類もそれを知っているからか、つくしの勉強中は口を出さない。
時折『進がいないなら、うちでご飯食べて行けば』とか
『参考書ならうちにあるよ』などと言いながら、つくしの負担にならないようにつくしを連れ出す。

2人で居るのが自然になっていっても、大きな変化が訪れた訳で無い。
会って、話をして
-否、話すらしないときもある。
つくしは勉強をし、その隣で類が本を読むか微睡んでいる。
緩やかに流れる時間。


変化が訪れたのは、つくしが3年になった時だった。
司法試験予備試験に合格したつくしを誘い出す。
普段なら断るレストランでの食事も、お祝いだから…と、説き伏せる。

類のねだるような視線に弱いのがつくし。
食事の美味しさも手伝って、デザートが出てくる頃にはすっかり笑顔になっていた。
幸せそうに食べるつくしを、柔らかく見つめる類。
その視線に少し気恥ずかしくなり、大きく開けていた口を閉じる。

「………なに……?」
つくしの変化に気付いた類が声を掛ける。

「…そんなに見つめられると、幾ら私だって大口開けるのが恥ずかしいよ…」
「いいじゃん。牧野が食べてるの見るの、好きだし」
「食べてるのを見るのが好きって…」
「好きだよ」
「………へ?」
「好きだよ。牧野が」

類の爆弾発言に、口に運ぼうとしていたクレープシュゼットが
フォークから滑り落ちる。

「……落ちたよ」
「あ…うん。……じゃなくて…! なに?」
「なに? って、何が?」
「何が? じゃなくて、何て言ったの?」
「牧野の事が好きだって言ったんだけど?」

にっこり。
さも当たり前の事のように言い放ち笑みを浮かべる類に対し、
つくしの方は、フォークを持ったまま口をパクパクさせている。

「す…好きって…何で…」
「…とりあえず、食べちゃえば? それ」

つくしの目の前の更に残ったデザートに視線を向ける。
勧められるままもくもくと食べるつくしの目の前では、
類が相変わらず楽しげな表情を浮かべ、優雅に珈琲を飲んでいる。
最後の方は味も良く判らぬまま、胃の中に納める。
食べ終わった所で、類が再び口を開いた。

「牧野はさ。嫌い? 俺のこと」
「え…? き…嫌いじゃないよ…」
「じゃあ、好き?」
「え……と……」

思わずつくしが言い淀む。
類の事は嫌いではない。好きと言えば好きなのだろう。
だがそれは、類が尋ねている意味の通りか? と問われれば、答えは自分でも良く判らない。
出口のないまま終わった、司との恋。
もう3年も経つというのに、まだ何処かで引き摺っているのだろうか?

そんなつくしの様子に、類の目元が緩む。

「ま、いいよ。無理に今言わなくて。
只俺は、牧野の側に居たいだけだから」
「え…っと…」
「前にも言ったろ? 付き合うとか、そういうのは別にどうでもいいって」

以前に聞いた類の言葉。
司を追って、ニューヨークへ行った帰りのこと。

「……変だよ……」
つくしがくすりと笑う。あの時のように。



この日から、少しずつ何かが動き出していた。



※旧司法試験は受験資格なしだったが、新司法試験は受験資格があり
法科大学院課程を修了、又は司法試験予備試験の合格、いずれかが必要となる。
(旧司法試験の場合、短大以上だと一次試験の一般教養が免除となる)


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