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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 42

第42話


つくしが類を見つめ、その言葉の続きを待つ。

「頼みたいのは、ゲオルグが行おうとしていたこと…
明和製薬が、これまで隠していた事実の公表と謝罪。
交換条件は、ゲオルグ側からも謝罪をすると同時に、未認可新薬の製造データを一般的に公開をする」
「…ひとつ…聞いてもいい…?
その…ゲオルグさんは…?」
「…………昨年末に亡くなった……」

類の答えは予想した通り。
つくしが僅かに目を伏せる。

「謝罪は…どうするの? 
それに新薬の製造データって…勝手には出来ないでしょ?」
「謝罪文はゲオルグから預かっている。
新薬の製造データは、俺がゲオルグから遺贈を受けた」
「花沢類が…?」
類が頷く。

「それならば…花沢類が…
製薬会社の方でこれを発売すればいいんじゃないの…?
厚生労働省とのパイプは…その…変な言い方だけど、花沢製薬にだってあるんでしょ?」
「…それは確かに…否定はしない」
「だったら…」
「でも、この新薬も完全なものではない。今の薬より延命されるだけ。
まだ…研究しなければならない事が多い。
言っただろ? 投資に対する利益の確保の問題があるって。
でも…世論を動かせば話は別だ」

一端呼吸を置き、類が続ける。

「大手である明和製薬が謝罪をすれば、少なからず世論は動く。
あまり知られていない難病に対する関心も高まる。
そのうえで、研究途中のこのデータが公開されれば、ゲオルグの意思を継ぐ者が現れる筈だ」
「……それは……花沢製薬でなくてもいいの…?」
「…この件に関して、俺はあくまで『代理人』のつもりだからね」
「もう一つ…聞いても良い」
再び問い掛けるつくしに、類が視線で先を促す。

「何で…そこまでするの…?」
「去年、花沢製薬から出た新型インフルエンザワクチン。
あれの開発をゲオルグに手伝って貰った礼がある。
それに……俺の…母方の祖母とゲオルグの奥さんは、昔からの知人でね」
「…………」

類の口調から、その理由は前者より後者の方が強いのが判る。
母方の祖母。それは『あの』別荘の持ち主に他ならない。

「依頼はしたけど、牧野が嫌だったら断ってもいい。
明和製薬は法令違反をした訳では無い。
あくまで『自社』で製造した薬品を『認可』の元、販売しただけのこと。
非は無いと言われてしまえばそれまで。
仮に裁判になったとしても、勝てる見込みは少ない」

類の言葉に僅かに考え混む様子を見せていたつくしが顔を上げ、真っ直ぐな視線を類に向ける。

「…………………花沢類さん。
貴方の意思は、ゲオルグ氏がなさろうとしたことを代理で行う事。
これで宜しいのですね?」

つくしが静かに、だが強い意志を持って類に尋ねる。
これはつくしが依頼を受ける際、必ず依頼人にする行為。
弁護士は依頼人の意思を確認し、それをはき違えてはならないのだから。

そんなつくしの様子に、類の目が一瞬緩む。
目の前に居るつくしは、もう立派な弁護士になっていた。
-自分が知らない間に…。

「…………ああ………」
「判りました。ご依頼を承ります」

つくしが姿勢を正し、類にそう告げた。





2人して外に出ると、長くなった夏の日差しはまだ西の空に傾いてはいない。
つくしが腕時計に目を落とすと16時前。
一端事務所に戻り資料の整理を…と、思った矢先、類に腕を掴まれる。

「え…?」
「…ちょっと付き合って」
それだけ言うと、つくしが向かおうとした方向と反対の方へ歩き出す。

「ちょ…ちょっと…花沢類…」

つくしの批判を聞くつもりもないのだろう。
思いのほか強い力で手を握られ、つくしは振りほどく事が出来ない。
-本当はそれだけが理由ではないのだが。
半ば引っ張られるようにして連れて来られたのは、つくしでも耳にしたことのある、有名ブランドのブティック前。
呆然とするつくしを余所に、当然のように中に入って行く。

店内に入ると店員が恭しく礼をし、2人を奥の部屋へ誘う。
慣れた様子で足を向ける類に対し、つくしはどうにもこうにも落ち着かない。
にこやかに会釈する店員に、何とも言えない引きつった笑いを向ける。
奥の部屋に付くと、年配の女性店員
-恐らくは店長らしき者にフィッティングルームに連れて行かれ、あれよあれよと身ぐるみ剥がされる。
抵抗する間も無く、気付いた時にはドレス姿で類の前に立っていた。

「あの…っ!」
「………………」

ゆったりとソファに座っていた類が、5秒ほどつくしの姿を眺め、徐に口を開く。

「服はそれでいい。靴はもう少しヒールの高いので、歩きやすいものを。
胸元と耳元は…大きいだけで品が無い。もっと質の良いのはないの?」
「は…はいっ。只今…」

側に控えていた店長が慌てて店員に指示を出す。
つくしの抗議も空しく再びフィッティングルームに逆戻り。
再び類の前に現れた時にはぐったりとしていて、抗議の声を上げる気力も無かった。
対照的に類は満足気に頷くと、立ち上がりつくしに近付く。

「どう? 着心地は?」
「…スゴクイイデス…」

肌触りの良い布地で出来たパーティドレスは淡い紫色。
色白のつくしの肌に映え、シンプルなデザインなので甘すぎず、見る人に知的な印象を与える。
膝より僅かに長い丈のため、動きにくいという事も無い。
履き替えられたパンプスは、ヒールが高い割に足にフィットし、普段履いているパンプスよりも遙かに歩きやすい。
最初ゴテゴテと着けられたペンダントとピアスは、シンプルな1粒のダイヤモンドに変えられ、すっきりとしている。

「そ…。なら良かった」
言って店長に顔を向け、僅かに頷くと、恭しく店員達が一礼する。

「ちょ…! あのね…!」
「はい」

気を取り直したつくしが、再び抗議の声を上げようとした目の前に、類が一通の封筒を差し出した。


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Category - 本編 『In The Forest』(完結)

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