Battle

Battle 10話 やこ ※注意書きあり






※ご注意※
このお話は、R指定ではありますが、まったくエロくはありません。
しかし登場人物の死や、戦闘シーンなどがございます。
直接的な描写はできるだけ避けて書いてありますが、そういったものが苦手だという方にはオススメできない内容となっております。気分が悪くなる恐れもありますので慎重にお進みください。
尚、一切のクレームはご遠慮ください。










「ど…どう…みょう…じ…?」

つくしは目の前に横たわる司を呆然と眺めていた。
185センチの肉体はピクリとも動かず、ただの物体と化していた。

「やだ…嫌だよ…」

つくしがその大きな体を揺さぶり、心臓マッサージや人工呼吸を繰り返しても司の体は動かない。
司の表情は穏やかで、目に見える場所に傷は見当たらない。
まるで眠っているように見えるけど、確かに司の魂は肉体と離れてしまっていた。

「牧野…」

類に両肩を抑えられて心臓マッサージをする手を止めると、つくしの瞳からは大きな涙がこぼれて落ちる。

「どうして…どうしてこんなことに…」

あきらは崩れるように両膝をつき、司の肩を揺さぶる。
総二郎は立ったまま横を向き、端からは何食わぬ顔をしているように見えるが目も充血し鼻の頭も真っ赤になっている。

「花沢類!これはゲームよね?このゲームが終われば道明寺は生き返るんでしょ?」

そうつくしが類に詰め寄るが、類の表情は曇るばかり。

「…それは…俺にもわからないよ…」
「そんな…!こんなわけのわからないゲームを作ったのはあんたじゃない!なんとかしてよ、道明寺を…道明寺を返して!!」

類につかみかかるつくしの肩に総二郎がそっと手を置き、類からつくしをゆっくりと引き離した。

「なんて薄情なの?!あんたたち幼馴染でしょ?どうにかしたいと思わないわけ?」

つくしにもわかっている。
一度死んだ人間が生き返ることなどあり得ないということを。
それでも目の前に横たわる司の遺体を前に、やり場のない気持ちを他の3人にぶつけることしかできなかったのだ。

こんな風に類を責めれば彼が一生悔いることもわかっていたし、彼の残りの人生を闇に落とすこともつくしにはわかっている。
それでも司の命を落とす要因を作り出した類のことがつくしにはどうしても許せなかったのである。

「道明寺だけここに残していくなんてできない!あたしもここで死ぬ」
「おまっ、何言ってんだ!」

総二郎が慌ててつくしを見るが、その目は本気だった。

「あたし達だけ生き残って何になるっていうの?この先道明寺をこんな世界で死なせたことをずっと背負いながら生きていくなんてできない。ならここで死んだ方がマシよ!」
「牧野…」

するとつくしはあきらの持っていた拳銃を強引に奪い、右手に持って自分の蟀谷に当てた。

「「「牧野!!!」」」

つくしは類を睨みつけていた目をつぶり、右の人差し指に力をこめる。

「よせっ!早まるな!」
「お前が死んでも司は喜ばないぞ!」

総二郎とあきらがそれぞれつくしの行動を止めようと声を張り上げる一報で、類は下を向いたまま拳を握りしめることしかできずにいた。


ピコン♪ピコン♪ピコン♪ピコン♪


横たわる司のほうから今はもう聞きなれてしまった機械音がする。
つくしは指にこめた力を緩め、ゆっくりと目を開け司を見た。

司の左腕にはめられている端末が赤く点滅していて、何か操作をしろと訴えている。

「なんだ…これ?」

つくしは拳銃を放り投げ、司に駆け寄りあきらを突き飛ばして端末画面を見る。


『コンティニュー5ビョウマエ…4…3…』


「ちょっと!!何よコレ!」

「そういうことか!牧野っ、早くボタンを押して!」

類が何か閃いたようにつくしにそう叫ぶ。

「お、押せって…?」

アタフタしているうちに端末の画面には


『GAMEOVER』


と点滅表示されており、続けて


『コインナシノ フッカツハ コレデ デキナクナリマシタ フッカツスルニハ コイン1オクコト フッカツノ ジュモンガ ヒツヨウデス』


4人が顔を見合わせていると、ふいにあきらが

「生き返らせる方法があるってことか…」

と呟いた。

コイン1億、は司の財力なら余裕でクリアだろうが問題は復活の呪文である。
つくしが類にそんなものがあるのかと聞いても首を横に振るだけで呪文を手に入れる方法など見当もつかない。

「道明寺を生き返らせる方法がまだあるってことはわかった。どうにかしてその呪文とやらを手に入れてやろうじゃないの」

つくしは拳に力をこめ、立ち上がった。
総二郎とあきらも同じよう立ち上がるが、つくしのように何かを決意した表情とは少し異なっていた。

「どうやってその呪文を手に入れんだよ」
「そうだぞ牧野。闇雲に動いても体力を消耗するだけで意味がない。端末をいじってみるから少し待て」
「少しって…もう心肺停止からかなりの時間が経ってるんだよ?ここでジッとしてたって呪文を手に入れられるわけじゃない。あんたたちが行かないなら、あたしひとりで行く」

総二郎とあきらはお互いに目を合わせてどうしたものかと考えているようだった。
そうこうするうちにつくしは司の腕にはめられていた端末を自分の左腕にはめると、司の頬に手を当ててこういうのだった。

「待ってて道明寺、あたしがあんたを必ず生き返らせてみせるから」

そして先ほど自分の蟀谷に押し付けて引き金を引こうとした拳銃を拾うと、類達3人に背を向け歩き出した。


***


―なぜこんなことになってしまったんだろう

つくしは3人を残し歩きながら考える。

このステージのミッションは『迫りくる敵と戦え』であり、爆撃や砲撃などでめちゃくちゃになった住宅街で激戦を繰り広げるというこのゲームの中でも一番危険なミッションだった。

かつて朝鮮戦争で、劣勢となった朝鮮人民軍に加勢した中国共産党の歩兵のように人の波が次々につくし達に襲い掛かった。
司の持つ装備を5人で分け、それぞれ協力し合いながら戦っていたのに、こちらに向かって飛んできた砲弾が炸裂し、爆風に吹き飛ばされた司だけが犠牲になった。

自分の端末の上にはめている司の端末を眺めていると、これまでなんとか堪えていた涙がこぼれて落ちた。
どうにか復活の呪文を手に入れて、5人揃って現実世界に戻らなければならない。
流れた涙をぬぐうと、先へと進んだ。

ふと人の気配を感じたつくしは、あちこち剥がれてボロボロになり今にも崩れそうな建物を見つけて2階に上り、窓際に腰をおろした。
そして司の端末を起動させると役に立ちそうな武器を探す。
あきらから奪った拳銃にはまだ弾が6発残っている。いざという時の為に使用することを考え、下着の中に忍び込ませた。
司の端末から少し前の戦闘であきらが使用していた武器のアイコンを押すと、ボンッと三脚の付いた長い銃が出てきたのだが、つくしの力では持ち上げるのが精いっぱいで扱うには無理がありそうだ。
何とか持ち上げてガラスのなくなった窓に設置すると、それらしいところに弾をこめようとするのだが、今度は装填が上手くいかない。

「おかしいな…確か美作さんはこうやってたはずなんだけど…」

ガチャガチャと弄っていると

「ずいぶん扱いづらいの出したね。それ重機関銃、マシンガンだよ?あんたじゃ無理だよ」

背後から声がした。
ハッとなったつくしは先ほど下着の中にしまい込んだ拳銃を手に取ると声のする方に向けた。

「は、花沢類…」

つくしはひとまず拳銃を下ろし、類を見た。

「雑誌とかで女の人が持ってるのはカッコよく見せるためのアイテムで、実戦に使うわけじゃない。司の装備からフルオートライフルっていうのを出しといて」

言われるがままに司の端末を操作すると、ガシャンと音を立てて大きなライフルと弾が出てきた。
床に落ちたライフルの重量はかなりあり、つくしが力をこめて持ち上げてもヨタヨタしてしまう。

「あんたはこっち」

そう言って類は自動小銃を手渡した。恐らく類が持っていたものだろう。

「あの…花沢類…」
「ん?」
「さっきは…ひどいこと言ってごめんなさい。花沢類が悪いわけじゃないの…わかってたはずなのに」
「いや、俺が悪いんだ。面白半分でこんなゲーム作ってみんなを引きずり込んだわけだし」
「ううん、それは仕方ないことだってこともわかるの。でもまさか道明寺が死んじゃうなんてあたし…」
「司は必ず生き返らせるよ。だから…みんなで一緒に帰ろう、現実世界に」
「うん…」
「さあ、来たよ。牧野は火炎瓶と手榴弾で援護して!」
「わかった!」

窓の外を見ると無表情の兵士たちが敵を探しているのが見えた。
ここに留まっているのが自殺行為ということは素人のつくしでもわかる。

「さあ、行くよ」

類はライフルを左の脇に抱え右手でつくしの手を取った。

「おい、俺たちも忘れるなよ」
「4人揃ってF4でしょ。誰も欠けちゃいけないわけ、わかる?」

建物の階段を降りようとするとあきらと総二郎が姿を現した。

「ふたりとも…ごめんなさい、ありがとう」
「最初に戦ってみてわかったけど、あいつら俺たちに向かって撃ってくることはないみたいだ。ただ司みたいに砲弾の衝撃でやられることはあるから十分気を付けろ。俺は総二郎と行くから牧野は類について行けよ。とにかく連中の数は半端ない。人間だと思わず躊躇せず撃て。あいつ等はゲームの中の敵だ、迷うな」
「あきら、隊長みたいだね」
「ほんとだね」
「ほいじゃ、いきますか?あきら隊長」

総二郎はつくしに向かって軽くウインクすると、あきらに続いて建物を出ていった。
すぐに銃声が聞こえ、類もつくしも建物内が危険であることを察知する。

「それじゃ、行こう」
「うん、気を付けて」

お互いの拳を軽くぶつけあい、駆け足で階段を降りた。

「ちょっとこれは大変そうだね。寝ている間に終わって…ってのは無理みたいだ」
「戦うんでしょ?頑張って撃って!雑魚は吹き飛ばすからっ!」
「やっと牧野らしくなってきたね。頼りにしてるよ」

そんなやり取りをしていると前方から大量の敵が押し寄せてくるのが見えた。

「行くよ!」

類が射撃を始めると前列の敵がバタバタと倒れていく。
しかし弾を避ける敵も多くキリがない。
つくしは手榴弾のピンを抜くと力いっぱい投げつけた。
手榴弾は敵兵士の足元にコロコロと転がり、しばらくして爆発。一気に数名の敵が倒れた。

その様子を少し離れた場所から見ていた総二郎が

「なかなかやるね、つくしちゃん」

そう言ってヒュウと口笛を吹いた。
そして自分の端末を操作して

「これ、使ってみたかったんだよね」

とアイコンを押し右手を高く上げた。

「気円斬!!!!」

そう叫んで巨大な円盤状のカッターを、建物を破壊しようと準備していた戦車目がけて投げつけた。
ビュンッと音を立てて飛んで行った円盤は、なんと戦車を真っ二つに切断し、その動きを完全に止めた。

「これ、いいね」
「俺を斬るなよ?総二郎」
「あきらがどけよ!」

総二郎の必殺技を見ていたつくしだが、類の射撃と手榴弾での攻撃に限界を感じていた。
建物の柱に隠れて司の端末を操作すると『爆破系』というアイコンをタップする。
右に数回スクロールした後、その一つをタップし現われたものを右手に持った。
すると司の端末の先端に小さなキャップのようなもの見つけ、それを外す。

「花沢類っ!逃げてっ!!」

花沢類が後退するのを見届けると、端末の先端から出ている小さな火を、出てきた武器に近づけた。
ジュッという音とともに導火線に火が付き、武器に向かって火がチリチリと燃えて行く。
それを思いっきり敵に投げつけると、つくしは逆方向へ走り出し地面に向かってダイブしたあとうつ伏せのまま後頭部に腕を回して『その時』を待った。

ドカァーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

つくしが武器を投げつけた付近の敵はもちろん、周囲の建物も木っ端微塵に吹き飛んでその粉塵が周囲を覆う。
伏せていたつくしが頭を上げ体を起こすと類が近寄ってつくしの背中にもたれかかった。

「すごいの使ったね、あれ何?」
「へへ。ダイナマイト。道明寺の端末で偶然見つけたの」
「なるほどね。助かった」

類はつくしの頭をポンポンと軽くたたき、つくしと同じ方向を向くと

「牧野!さっきのマシンガン、もう一度出して!」

つくしが端末を操作してマシンガンを出すと、類が手早くセットし残った兵士をどんどん撃つ。
別の場所から攻撃していたあきらと総二郎も合流し、残った敵を片付けていく。

「ねえ、あれ…」

つくしが指差す方向には巨大な戦車の主砲がこちらに向いていて、照準を合わせているように見えた。

「おい、人に直接攻撃はしてこないって言ったの誰だよっ!」
「あきら」
「なんでもかんでも俺のせいにするなっ!!」
「ちょっ…今それどころじゃないでしょ!」
「気円斬も間に合わねぇ!どうすんだあきらっ!」

つくしは司の端末を急いで操作し、何かいい方法はないかと探してみた。

「これよ!みんな、危ないから逃げてっ!!」
「なにする気だ牧野っ!」
「美作さん、ふたりを連れて逃げてっ!」
「よし、無茶するなよ!」

あきらはそう言うと総二郎と類を連れて後退した。

― 一か八か。これでダメなら道明寺のところへ行くしかない

つくしは覚悟を決め、重心を低く落としスイッチを押した。


***


「まったく…お前ほど無茶する女子は見たことないぞ」

つくしの受けたダメージは予想以上に大きく、あきらと総二郎に支えられてやっと立ち上がっていられる程度まで疲弊していた。

「まさかあんなもんブッ放すとは思わなかったぜ」

続けて総二郎も苦笑いしながら言う。
つくしの放ったバズーカ砲は巨大な戦車のド真ん中に命中し、主砲から砲弾を撃つ機会を与えなかった。
その反動でつくしは吹き飛ばされて全身を強く打ち、かなりのダメージを受けたというわけである。

「ねえ、あれって…」

類が指さす方を見ると、壊れた戦車に赤いペンキで描かれたような文字が見え、よく見ると『レイズ』とある。

「…そうだと思うぜ」
「それじゃ…この言葉を言えば道明寺は生き返る?」
「たぶんね…」

類はつくしの頭を数回ポンポンと叩くと

「戻ろう、司のところに」

そう言って司の元へ向かって歩き出した。


***


「…ン…」

ゆっくりと目を開けると、そこには心配そうに自分を見下ろす3人の姿があった。
体は思うように動かず、全身がバラバラになるんじゃないかというような強い痛みがある。

「起きられるか?司…」

あきらがそう言って司の体を支えながら引き起こす。

「おい司、牧野に感謝しろよ。あのちっせー体でお前が生き返るためにダイナマイトをブン投げたりバズーカぶっ放したりしたんだぜ?」
「バ、バズーカだと?!」

総二郎が目配せする場所には地面に横たわるつくしがいた。
至るところに切り傷擦り傷があり、まるで埃の中から出てきたかのように汚れてボロボロの状態だ。

「お前はこの世界で一度死んだんだよ。生き返る唯一の方法がコイン1億個と生き返りの呪文を手に入れることだったんだ。コインは楽勝だったけど、呪文を手に入れるために牧野はあの体でお前の装備を見事に使いこなしたってわけ」

全身の痛みをなんとか堪えてつくしに近寄ると、左腕にはつくしが元々持っていた端末と司のものと思われる端末のふたつが巻かれているのが目に入る。

「ま、まさか俺の身代わりになって牧野が死んだ…とかじゃねぇよな?」
「心配すんな、生きてるよ。体力消耗しすぎて気を失ってるだけ。牧野のことだ、少し休めば復活すんだろ」


テテテテ♪テッテッ♪テッテレェ~♪


『オメデトウゴザイマス ナカマヲ イキカエラセル ミッションクリアデス ミナサンノレベルガ 9ニアガリマシタ』
『ツイニツギハ ラストステージデス サイゴマデ アキラメズニ ガンバリマショウ』


「向かってくる敵を倒すのミッションっていうのはダミーで、死んだ仲間を生き返させることが本当のミッションだったんだね」

類は気を失っているつくしを抱き上げると、あきらと総二郎に抱えられてなんとか立ち上がった司にそう言った。

「守ってやってるつもりが守られてる…か。情けねぇな天下のF4がよ」

司がそう呟くと、5人の体は白い光に吸い込まれた。
拍手ありがとうございます♪
関連記事