駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 43

第43話



「なに…これ?」
首を傾げつつ、目の前に差し出された封筒を受け取る。

「1月後にある、社長就任パーティの招待状」
「社長就任…? 誰の…?」
「俺の」
「ああ…そうか……。って…ええ!!」
つくしが素っ頓狂な声を上げる。

「……牧野……五月蠅い…」
「あ…ごめん……って言うか…なに…? 何で…?」
「何で…?って、牧野は俺の顧問弁護士でしょ?」

慌てつつ不思議そうに尋ねるつくしに対し、類の方は冷静なまま。
至極当然のように答える。

「それは…そうだけど……」
「当日、それ着て来ればいい。
『服がない』は断る理由にはならないだろ?」

類が、受け取った封筒を突き返そうとするつくしの先回りをする。

「…そんな…大体がこんな高いの」
「この前牧野に掛けた迷惑料、って思えばいいよ」
「迷惑料…? ………あ……あれはだって…」

思い出す、類が仕組んだ、アーク法律事務所による営業妨害。
確かに一時、半数近く減った顧問先。
だが類と顧問契約を結んだ後、その殆どが戻って来ていた。
類が何か言った、というより、つくし達の対応とアークの弁護士の対応が違っていた事が主な理由らしい。
そのため『被害を受けた』と言っても、無いに等しい
-寧ろ、類の顧問が増えた分、プラスの状況。

「もう…大丈夫だから…それに……」
つくしが俯き口籠もる。

花沢物産の社長就任パーティに、類の父親…会長が来ない筈が無い。
5年の歳月が流れ、つくしも一端の社会人になったとはいえ、いち弁護士にすぎない者に対する態度が、大きく変わったとも思えない。
万が一、また何か…自分の周りのものに何かあれば…
そう思うと、仕事以外で類とこれ以上関わるのは辛い。

-その他にも、色々な意味で。

俯くつくしの姿を淋しげに見つめていた類だったが、次の瞬間、つくしの頬に触れる。
つくしが驚く間も無く、類が手に力を入れ、グイッとつくしの顔を上げさせた。

驚くつくしの瞳と、力強い類の瞳。
絡み合う2人の視線。

「は…花沢…」「牧野」
批判の言葉を言うのを遮るように、類が言葉を被せる。

「牧野の仕事はなに?」
「し…仕事…?」
「そう、牧野の仕事は?」
「……弁護士…よ…」
突然の質問に訳も判らないまま、素直に答える。

「そう。ならば、大切なのは『横の繋がり』だろ?
企業社長就任パーティなんて、打って付け以外の何者でも無い」
「それは……」


そのことは志朗を始め、周りから常々言われていた。
弁護士に限らず言える事だが、仕事は決して『独り』ですべては出来ない。
周りの協力者
-弁護士であれば、登記手続に関わる事では司法書士や行政書士、税務にかかる事では公認会計士や税理士、
他にも特許に関わる案件には弁理士が、労働基準に関わる案件には社会保険労務士が
数限りない程の協力を必要とする。

-その為には、横の繋がりを大切にした方がいい。
天秤バッジを付けるようになり、志朗に真っ先に言われた言葉だった。

元々社交的なつくしには、人のツテは少ない方ではない。
司法修習生として共に学んだ仲間とは、未だに連絡を取り合ってもいる。
だが、高校時代
-英徳に関わる人物達とは、ぽっかりと間が抜けていた。

-所詮、自分とは違う世界の人達なのだから…
何処かにその気持ちがあったことは、否定できない。


類の手によって顔を固定されたつくしが、類の視線から逃れようと、目線を落とそうとしたとき、静かな声が耳に届く。

「顔を上げろ。牧野」
「…花沢…類…?」
「顔を上げているんだ。牧野。
あんたが俯く理由なんか、なにひとつ無い」

類の穏やかな声は、つくしの奥底に染み渡っていくようだった。







つくしが着ていたもの一式は、ドレスに微調整があったため、直し次第、つくしの自宅に届けられるという。
否定の声を上げる間も無く店を出ると、田村が待ち構えたように立っており類とはそこで別れる。
目を惹く外車に乗る類を、ぼんやりと見送った。


-どうしよう…これから…?

とりあえず、時計に目を落とすと、先程茶房を出たときから更に1時間程経過している。
携帯を取り出すと、美和よりメールが入っており、今日は急ぎの案件はないとのこと。
戻って仕事をしてもいいのだが、そんな気分にはなれなかった。
かといって、このまま一人きりの自宅に戻る気分とも違う。

-少し、時間を潰して帰るか…
そう思い、足を進めようとしたつくしの耳に、呼び止める声がする。

「…あれ? 牧野? 何してんだ?」
「え…?」

振り返った先には、ビジネススーツに身を包んだあきらと、そのあきらにそっと手を添える女性の姿があった。


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