Battle

Battle❤Extra edition たろさ






「え?」
「え?」
「あ"?」
「ん?」
「え?」

眩い光に包まれて思わず閉じた眼を開けたらそこは天国……ではなかったけれど、体力的にも精神的にもハードすぎる戦闘エリアに比べたら天国にも等しい場所、メープルのロビーだった。
気が付けばボロボロに傷ついていたはずの身体はすっかり癒え、体力も回復している。
それだけじゃない。着ていた服は新品同様、武器や装備品の補給整備も完璧になっていて、
「おっ、髪サラサラ♪」
何気なく髪をかきあげたあきらが嬉しそうに呟いたくらい、なぜか全身まるごとリニューアルしていた。

「牧野っ、お前身体は大丈夫なのかっ!?」
「道明寺こそ!ちゃんと生き返ったんだね。よかった。ほんとによかった……って、ちょっとあんたどこさわってんのよっ!」
つくしをぎゅっと抱きしめたかと思うと、腕や肩、頭に頬と身体のあちこちを心配そうに確かめはじめた司の手。
それが危うく胸まで触れそうになり、ハッとしたつくしが司の身体を全力で押しのける。
「お、おま…、そんなつもりじゃねぇし。」
「そんなつもりってどんなつもりよ!」
「どんなって……俺はただ、お前がどこか怪我してやいないかとすげぇ心配で……」
ひどく真面目に返されて、
「…え、えっとわかった、悪気がないのも心配してくれたのもよーくわかったから。でも大丈夫だからっ!どうしてかわかんないけどとにかく平気だからっ!ほらっ!」
つくしは慌てた顔で、"おいっちにおいっちに"とぎくしゃくとしたラジオ体操みたいな動きをはじめる。
その姿を眺めながら、
「……デモ、アンガイ…」」
自分の両手に視線を落とし、司はぽっと顔を赤らめたのだった。

と、そんなふたりをよそに、
「それにしてもなんでいきなりメープル?いや、それよりこの身体、この格好………いったい何が起きたんだ?」
不思議そうにつぶやいたあきらに応えるように聞こえてきた例の声。

『ハァーイ、みなさーん♪おつかれさま♡』
「「「「「出た……。」」」」」

図らずも揃ったうんざり声に、全員がしまったという表情で互いに顔を見合わせる。
余計なことを言ってこの得体のしれないホストシステムを怒らせてはならない。
誰もがそう思っているのは明らかだった。
たしか次がラストといっていたような気はするが、それとていつひっくり返されるかわからない。
これまでの経緯をみるからに、自分たち5人がマムシの"手のひらで踊らされている"のは間違いないのだから。
いやまあ、そもそもシステムがなぜそんな行動に走ったのかという疑問はあるけれど……。
いつどこに飛ばされ何をさせられるかわからない現状では、正直そこを追及している余裕はなかった。

『ちょっと失礼ねぇ。もっと喜んでよ。せっかくサービスしにきたんだから♪』
「ばかやろう!サービスとか調子にのってんじゃねえ!牧野をボロボロにしやがって。」

呑気なマムシの声に一気に沸点に達した司がこめかみを引き攣らせながら罵声を上げる。

「しかも俺を殺しやがって!許せねえ!」
『……ゴアンシンクダサイ。ドウミョウジサマハ 100カイシンデモ100カイイキカエルオトコ、ト データガハジキダシテオリマス。』
「んなわけねーだろっ!てか急に機械っぽくしゃべるんじゃねえっ!しらじらしいんだよ、てめ……んぐっんがんがんが」

怒りの拳を天に突き上げ、そのまま暴れ出……そうとした司を、すかさず伸びてきた四本の腕が取り押さえ、さらに2つの手のひらが口を塞ぐ。

「おいっ待て、司。下手なことしてマムシを怒らすんじゃねえ。帰れなくなったらどうするんだよ。」
「いいかげん限界だぜ。このままここに取り残されたら俺、ストレスマックスでバーチャルどころか本体ごと禿げそうだわ。」
「早く帰って寝たい……」
「道明寺、こんなのさっさと終わらせて早く一緒に帰ろ?ね?」
最後に上目遣いのつくしにそう言われ、ようやく静かになった司をよそに、ふたたびマムシの声が響いた。

『あいかわらず口も態度も乱暴ねぇ。んもうっ、大人しくしないとまたお仕置きしちゃうわよ?お・し・お・き♡』

「なんだか今日のマムシ………やけにハイだな。」
「ノリノリすぎねーか。」
「いつのまにかむちゃくちゃ馴れ馴れしくなってるし。」
「機械とは思えねー。」
「おい類、マムシの性格設定ってそもそもどうなってるんだよ?」
「俺もよくわかんない。」
「わかんないってお前……。」
「マムシは学習型AIだからね。こうしてテストプレイしている俺たちの行動、会話、もろもろすべてを情報として蓄積し、初期設定からどんどん進化していってるはずなんだ。言葉遣いが変わったのは、俺たちの会話が主なデータ元になっているせいかもしれない。それにマムシは人工感性知能も搭載しているから……」
「人工感性知能?人工知能じゃなく?」
「そう。人工知能は情報や知識を学習すること。それに対し人工感性知能は感性や感情、感覚といったものをデータ学習していく機能なんだ。」
「「「「へえ…………。」」」」
「ああ、そうか。だからこんな風になったのかも。」
「だから?」

首を傾げたつくしに類が間近から微笑むと、つくしの目元が瞬く間に朱に染まる。
それを見た司の眉がさっき以上にピクピクと引き攣ったけれど、類は気にもせずつくしの頭にそっと手を触れ、ぽんぽんとその場所をたたいた。

「おいっ、る…「ほら今回はテストだろ?だからとにかく全員のデータを取捨選別せず取り込ませてるんだ。単純な情報や知識、行動原理なんかはまあ別に問題ないだろうけど、感情生成機能のほうは、ね。母数の少なさもあってこんな風になっちゃったのかもしれない。」」
「類っ、俺の話を聞…「こんな風?」」
「そ。俺たちと牧野………つまり男4人+女1人がごちゃまぜになった人格。」
「「「「ああ、それで………(おかまか)。」」」」

なんとか口を挟もうとする司にはおかまいなしに、4人が大きく頷いた。
そこに再び例の声が割り込んでくる。

『もうっ!話を続けるわよ!………サテ、イヨイヨツギハラストステージデス。トウゼンラスボスノツヨサハ、カクゴシテイルコトトオモイマス。ホンライナラココデ、カイフクエリアニタドリツキ、ブキソウビヲトトノエルノモ、ジュウヨウナミッションノヒトツナノデスガ………今回はあきらくんに免じて、特別に無条件で全員全回復してあげちゃった♪』

「あきらに免じて?」
「なんだそれ、お前いつのまにマムシを手なずけたんだよ。」
「何かした?」
「は?何もしてねーよ。」
「でも、マムシが……」

『だってあきらくんが年上の女心をそそるモノを持ってるか・ら♥』

(何を持ってるって?俺様になくてあきらにあるものなんてあるのか?)
(はあ?モノ!?モノってまさか……まさか”モノ”のことか?)
(………zzz)
(さすが最強のマダムキラー。ん?でもマムシってマダム?マダムなの?)

まじまじと自分を見つめる3つの視線を前に、あきらはブンブン手を振った。
「ほんとに何にもしてねえっつーの。」
それでも視線は変わらない。

『ウフフ。好きになっちゃったかも♥』
「「「「………好き!?」」」

「おい、あきら(いったいどうやったらアレを手なずけられるんだ。俺にも教えろ)」
「おい、あきら(お前まさかヤッタのか?システム相手にどうやって?)」
「あきら……(ねむ………)。」
「美作さん………(いくらマダムキラーでも見境なさすぎじゃ……)」

変わらないどころか一層疑念が強くなった視線の山に、あきらが慌てて声を上げた。

「おいっマムシッ。お前、いったい何を見た!?俺にいったい何をしたんだ?正直に言えっ!言わねーとただじゃおかねえぞ。」
『んもうっ、そんなに怒らなくてもいいじゃない。怒った顔も可愛いケド♪たいしたことじゃないワ。たまったまシャワータイム中のあきらくんを見たら、あまりに好みのスタイルだったからときめいちゃっただけ。』
「……覗きかよ。」
『いやだ、覗きだなんて人聞きの悪い。だってあきらくん、普段はほかの三人に比べるといろいろちょっと地味なんだもの。母性を刺激されちゃったのかしら。せめて衣装くらいキラキラさせてあげようと思ってサイズチェックしただけよ……。ほらっ』
「俺は……地味じゃ、ねえ!」

言いかけたあきらの身体をマムシの掛け声とともに現れた白い煙がモクモクと包む。
そうしてそれが薄れてくると……。

肩章の付いたミリタリースタイルのジャケットに細身の赤いスラックス。ジャガードのサッシュを斜めに掛けて、胸もとには勲章がキラリ。
現われたあきらはまさに、ディズニーランドにいるシンデレラの王子様"プリンス・チャーミング"そのものだった。

「げっ」
「うわっ」
「あ…」
「うわぁー♡」

ひとつだけ少しうっとりした響きの歓声があがり、みんなが一斉につくしを見る。

「シンデレラの王子様だ♪まるで絵本から抜け出してきたみたい。」
『でしょ?チャーミングなあきらくんにはぜったい似合うと思ったのよ。』
「ほんと似合ってる。素敵♡」
『つくし、わかってるじゃない~。かぼちゃズボンもいいかなと思ったんだけどね。』
『わぁ、それも見てみたい♪』

なぜか楽しげに女子会モードで話を続ける2人?に呆れたようにあきらが口を挟んだ。

「いいかげんにしてくれ、マムシ。第一こんなヒラヒラした格好じゃろくに戦えないだろ。次はラスボスとの戦いなんだ。もとに戻してくれ。」
『あら、せっかく似合ってるのにもったいない。』
「それにこっちも何とかしろ。」

あきらが指さす方には、白ならぬ黒毛の凛々しい牡馬が一頭いなないていた。
長くたなびく艶やかなたてがみと尾、ひと目見た瞬間から誰もが圧倒される引き締まった筋肉ボディ。
"世界一イケメンな馬ザ・グレート・フレデリック"をも上回る勇壮華麗な姿は、そこいらのイケメン(人間)よりもずっと雄々しく美しい。
―――馬だけど。

「なんだ、あれ?」
「馬?」
「いきなり、どこから?」
「うわぁ、すっごくカッコいい!」
すっかり目を奪われた様子で思わず足を踏み出したつくしの隣で、総二郎があっと小さく声を上げた。

「まさかと思うけど、あれ司じゃねーか?いや、司だろ。間違いなく……っていうか、マムシ。いくらバーチャルだからってふざけすぎだ。元に戻せ。あれじゃ戦力にもならねぇ。」
『んもうっ、王子さまにはやっぱり馬が必要だって思っただけなのに。仕方ないわね。ほいっ』

パチンと指を鳴らす音がしたかと思うと、二人の姿がさっと元に戻る。
「て、てめぇ、マムシ……」
「とにかく戻ったんだからよかったじゃない。落ち着きなってば。」
いななきすぎて疲れたのか怒り顔でぜぇぜぇ息を吐く司となだめるつくし。
その様子を横目で眺めながら、あきらと総二郎が小声で言葉を交わす。

「マムシを怒らせるとマジ厄介だな。馬にされるとか洒落になってねぇ。」
「ああ、ヒラヒラ衣装着せられるくらい、どってことなかったわ。こえぇ。」


『あーあ、あきらくんの為に用意したせっかくの"選ばれし王子の服"だったのに、ほんとざ・ん・ね・ん。……じゃあ、代わりにこっちをサービスね、はいっ。』

再びパチンと音がしたかと思うと、周囲が急にがやがやしはじめた。
見回せば、さきほどまで誰もいなかったロビーのあちこちに人影が見える。
それをぼんやり眺めていたつくしが、突然あっと声をあげた。

「桜子!桜子がいる!大変!もしかして桜子もここに迷い込んじゃったのかも。ちょっと行ってくるね!」
「あっ待って、牧野!あれはたぶん本物じゃなくてバーチャルキャ………あーあ、行っちゃった。ま、いっか。」
このホテルにいるかぎり、とりあえずは安全そうだし、と思いつつ類がF3に向き直った瞬間。

「ハァ~イ♡」
「ハァーイ♡」

突然2人の美女が現れた。
1人は、メガネを片手にウインクを決める紫色のロングヘアーにショートパンツの巨乳美女。
もうひとりは、黒髪ショートをさらりとかき上げ微笑む、ボンキュッボンッな長身美女。

「「お兄さんたち、私たちとひと勝負しない?」」

さっき王子様にされたときの剣幕はどこへやら。
あきらがさっと笑みを浮かべ、巨乳美女に寄り添った。
もちろん総二郎も負けじともう一人に歩み寄る。

「ヒト勝負って……君たちと?」
「「そう♡どうかしら?ヒ・ト・勝・負♥」」

「なんかあやしい……。」
小さく呟いた類の声に、すかさずマムシが反応する。

『オメデトウゴザイマス。アダルトオプションハッセイデス。コチラハ、セイジンダンセイプレイヤーゲンテイノイベントトナリマス。ナオ、ショウリシタプレイヤーニハ、レアアイテムガプレゼントサレマス。』

「アダルトオプション?」
「成人男性?」
「それでヒト勝負?」
「つまり……」
「「当然そういうことだよな?」」(ニヤリ)
「「俺たち、やるわ」」(ニヤニヤ)

2人が力強くそう宣言した次の瞬間。
周囲の景色がぐにゃりと歪み、突然目の前に2台の小さなテーブルが現れた。

「「はあ???これってまさか………」」
「アームレスリングの競技台だね。」
しれっと返す類の言葉に、あきらと総二郎二人の顔が能面のように無表情に変わる。

「「ヒト勝負ってこれかよ!!」」

「あははは、あきらも総二郎も騙されたな。ま、女相手なら楽勝だろ。さっさと勝ってレアアイテムゲットしろよ。」
司の笑い声が高らかに響くなか、引きずられるように2人の身体が動き、腕が勝手に台にセットされた。

「ちょ、待て。待てってば。おいっマムシ!話がちが……」
『イベントキャンセルハデキマセン。ソレデハ、スタートシマス。』

「あたし、アラレ。よろしくね。あきらくん♪」
「私は香。総二郎くん、負けないわよ!」

「アラレ?」
「香?」

その名前とこの容姿。記憶の狭間に合致する何かを覚え、一瞬2人の背筋を震えが走る。
だがその理由がはっきり形になる前に……。

『Fight!』カーンッ!

突然聞こえたゴングとともにそれぞれの右手が、相手の女性にがしりと握られた。
「ちくしょー、しゃあねえ。」
ここで負けたら沽券にかかわるとばかりに、気合を入れた二人だったが……。

コテッ
「おいっ、あきら。なにやってんだよ。ひと捻りってどういうことだよ!」
「いや、待て。司。こいつ女とは思えねーすげー力なんだよ。……ん?待てよ。まさかアラレって……」
「んちゃ!」
「Dr.スランプのアラレちゃんかよっ!」

ググッググーッ ググググーッ
「あ、総二郎はいけそう。」
「おおお、いけっ!総二郎!お前なら余裕だ。」
「任せろ。俺はあきらとは違う。」
応援する2人に向かいフフッと不敵に笑い、総二郎は目の前の”香”にウインクを投げた。
「悪いけど、この勝負はいただくね。子猫ちゃん。」
そうして握った相手の手の甲に、余裕の笑みでチュッとキスを贈る。
その瞬間!
「何するんだぁ~!ソウ!!!これでも味わえ~~!!」
いったいどこから現れたのか。
大きく"100t"と書かれたハンマーが空に浮かび、総二郎の脳天に直撃した。
カンカーーン!
同時に鳴り響く試合終了の鐘の音。
「香って………シティハンターの槇村…香……か…よ………。」パタッ

『オツカレサマデシタ。ワンリョクショウブノアダルトオプション、イベントシュウリョウデス。』

そして聞こえてきた声と共に、テーブルも女性たちもさっとかき消えた。
残されたのは、疲弊しきった男が2人。
F4のくせに情けないと地団太踏む男が1人。
アダルトイベント?なにそれ、そんな設定したっけと首を傾げる男が1人。

そこにようやくつくしが駆け戻ってきた。

「ねえねえ、なんか桜子の様子が変だったのー。全然話が噛みあわないのよー。」
(だからあれはバーチャルキャラで………)
「でねっ、何度話しかけてもおんなじことしか言わなくて。」
(こいつ、聞いちゃいねえ。)
「"殿方は宿の女性にお気をつけあそばせ。鼻の下を伸ばしているととんだ勘違いで大火傷しますわよ"だって!いったいどういう意味なんだろうね。………ってあれ?どうしたの?西門さん、美作さん。さっきとずいぶん様子が違うけど。」


「「………お前、情報持ってくるのがおせーよ!!!」」
拍手ありがとうございます♪
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