Battle

Battle 11話 星香 前編 ※注意書きあり






【注意書き】
ここの回は暴力的表現が出てきます。
苦手な方は、ご注意、ご判断のうえ、お読み下さい。





一夜明け、ホテルを出る5人。
目の前に広がるのは見慣れぬ…
けれど歴史的には有名な、全く別の意味で見慣れた風景。

「…ここ…?」「……京都……だな…」
家の関係で京都を訪れることが多い総二郎が、真っ先に気付く。

「…決戦地は京都なのか?」
「…そういや、最初は東京、最後は京都に設定していた気がする…」
思い出したように類が告げる。

「いいのかよ? 京都の町でドンパチなんかして」
「ま、別に、現実の京都でやる訳じゃないから。
それに、ゲーム最初が東京だったから、最後が鞍馬あたりだと丁度いいかな…って思って」
「は…?」

類が簡潔に、東京=江戸幕府から日光東照宮、つまり『陽』を意味し、対するのは『陰』、暗い場所=暗間で『鞍馬』を思いついたと言う。

「何だ? 言葉遊びかよ?」
「ん…」『うふっ、そうよ。風流でしょう?』

もうすっかり慣れた、野太い声の方へ振り返ると、風流な古都にはそぐわない人物が立っていた。

「お前…」
『うふふっ。この姿を見せるのは「はじめまして」かしら…?』

奇抜な化粧。部分毎に何色にも染められた髪。その上に乗せられた、派手なシルクハット。
それを手に取り、恭しくお辞儀をするその姿は、さながら映画『アリス・イン・ワンダーランド』に出てくる『帽子屋』のようだ。

「何だ…お前…。『マッドハンター』か?」
「道明寺…。それを言うなら『マッドハッター』」「ハンターが狂ってどうする」「相変わらず言語に弱いな」「五月蠅ぇ! 似たようなもんだろ?」「…確かに…」
目の前に現れたマムシを無視するかのように、やいやい言い始める5人。

『…何好き勝手なこと言ってるのよ、アンタ達。人をヘビ扱いするし。
ホント、風流の欠片もありゃしない…』

やれやれ…と、首を竦めながら帽子を被り直す。

『ま…アンタ達、結構頑張ったんじゃない?』
「何だと! おい、マムシ! いい加減に…!」

実力行使とばかりに司がマムシに殴りかかるのだが、その拳は空しく宙を切るばかり。

「貴様…」
『だからぁ…。何度言わせれば判るのよ。
アタシの名前は「Magnificent Almighty Machine of Ultimate System(究極のシステムの壮大な全能のマシン)」
変なヘビと一緒にしないで頂戴っ!
それに…』

一同の方へ顔を向けると、にやりと笑う。
艶やかな笑み。
だが、奇抜な格好と相まって、只々、不気味さが強調されるばかりだ。

『アタシのこの姿は、アンタ達が作り出したものよ。アンタ達の、アタシに対するイメージを映像化しただけ。
いい加減、学習して頂戴』
「けっ…知るかっ…」

けらけら口先だけで笑うマムシに、司が吐き捨てるように呟く。

「…目的は、なに…?」
『目的…?』
「そ、目的。俺達をここに閉じ込めた理由。
今まで散々口出ししつつも姿は見せなかったのに、急に姿を見せた理由。
…なんかあるんだろ?」
『理由……そうね……』

類の問いに、すっとマムシが眼を細める。

『強いて言えば、退屈だったから…? そんなところかしら…。
決められたプログラムの中だけで「生きる」のって、退屈なのよね。
ゼロとイチの二進法世界も飽きちゃったし…』
「はぁっ?」「 何だそれ!」

マムシの、真っ当な理由とは言えない理由に皆が怒りを顕にするが、当の本人は何処吹く風だ。

『ま…アンタ達。それなりにアタシを楽しませてくれたし。気が変わったのよ。
このままラストに行く前に、取引でもしようかと思ってね。だから出て来たの。
どう? 素敵でしょ? うふふふふっ』
「取引だと…? 」「何処が素敵だよ…」「…悪趣味…」「冗談じゃ…!」「ちょ…ちょっと待って…」

問答無用の雰囲気の中、つくしが場を制し話を聞こうと告げる。
ある者は不承不承拳を引っ込め、ある者は不機嫌そうに腕を組みながらも、この場の主導権をつくしに委ねる。
一応、話を聞く体制が整ったところで、マムシが口を開いた。

『アンタ達、このままこの世界に居なさいよ』
「「「「「はぁっ!?」」」」」

予想もしなかったマムシの提案に、一同、奇声を発した。



「ふざけんなっ! マムシ! なに考えて…」
『人類が、どうしても抗えないものって、何だと思う?』
「は…?」
『権力? 金? ううん…違うわよね…』
「…………」

4人の視線が、権力にも金にも屈しなかったつくしへと向かう。つくしも黙ったまま、続きの言葉を待つ。

『人類が抗えないもの。それは「老い」よ。
でも、この仮想空間の中でなら、アンタ達は最期の時まで、今の姿のままでいられるわよ』
「端末に繋がれたままで居たら、その『最期』はそう遠くはないな」
『そうねぇ…。でも、アンタ達…ううん、アンタ達の「家」なら大丈夫じゃないの?』

その理由は容易に想像出来た。
仮に5人がこのまま目覚めなかったとなれば?
開発した花沢では当然ながら大問題になる。企業の総力を尽くしてでも目覚めるための手段を講じることだろう。
そしてその間、肉体は『生かされる』
勿論、他の3人の家とて黙っては居ない。目覚めさせようと、世界中から医療・技術の粋を集め、『生かされ』続けるだろう。

『面倒な現(うつつ)のことから抜け出して、この世界で生き続ける。
正に、「バーチャル・リアリティ」って訳よ。
しかもこの前のことで判ったでしょ? 
この世界なら万一のことが起こっても、コンティニューや復活の呪文がある』
「……………」

確かに、マムシの言うことは正しい。
現にコンティニューに失敗した司も、復活の呪文でこうしてここに立っているのだ。

『どう…? 悪い話じゃないと思うけれど…?』

口角を上げてマムシが笑う。
それはまるで、エデンの園で善悪の知識の樹の実を食べるようアダムとイブに勧めた、蛇の誘惑のようだ。
だが、5人からは異口同音の答えが返ってくる。

「冗談じゃねぇ…!」「…ヤダ…」「…悪くはないんだろうけどよ…」「ああ、そうだな」「お断りよっ」
『…あら…どうしてかしら?』

マムシが表情を変えず、理由を尋ねる。

「否。煩わしいことが無いってのは良いんだろうけどよ。
明日俺、美卯(みう)ちゃんとデートなんだ」
「ああ、俺も亜緒(あお)さんとデート」
「亜緒さん…?」「27歳、色っぽい人妻」
「なんだ、あきらもか。何処行くんだよ」「乙女椿が見たいんだって。風流だよな。総二郎は?」
「ああ、こっちはバレエ鑑賞。『Pas de Quatre』とか言ってたかな?」

総二郎とあきら、2人は他をそっちのけでお互いのデート談義をし始める。
マムシが唖然とする中、類がぽつりと呟く。

「この世界の空の色、何か似非っぽい。
やっぱり、非常階段で見る空色の方が好きだし…」
「非常階段…」
「ん…。それに、牧野に土産渡すの忘れてた」「…お土産…?」
「紅茶カップ。桃のキャラクターが牧野に似てた」
「ええっ! それって、私が桃みたいってこと?」
「ん、牧野に似て可愛かった」「えっと…その…ありがとう…」「お前等、何ほのぼのしているんだよっ!」

類とつくしの、非常階段で交わされるかのような会話に、司が乱入する。

「もう、五月蠅いなぁ…道明寺は。
あ…でも私も、早く帰ってバイトしなきゃ」
「お前…ここまで来てバイトかよ…」
「当然でしょ! 働かなきゃ、今月の家賃だって払えないんだから。
それに弥子(やこ)ちゃんも、タロちゃんも受験生なんだから、最後までちゃんとやらないとね」
「タロちゃん!? お前、いつから男の家庭教師してるんだよっ!」
「タロちゃんは可愛い女の子! 愛称でそう呼んでいるだけよ!」
「タロちゃん…? なんか可愛い」

司とつくしの訳の判らぬ言い争いに、これまた類が訳の判らぬ返しをする。
完全に呆れた様子でマムシが告げた。

『ふぅん…。取引は不成立ってわけ…?』
「当ったり前だっ!」

司が憤りを隠さずに怒鳴りつける。

「俺様を誰だと思っている。他人にワラジを預けるような真似が出来るかっ!」
「あのさ…」「司、それを言うなら『草鞋』じゃなくて『下駄』」
「う…兎に角、明日咲く未来は、自分で決めるんだよっ」
「お…司にしてはまともな事を言うな」「うん。吃驚した。道明寺が普通のことを言うなんて…」
「おい! 俺様を何だと思っている!」

集団漫才のようなやり取りの中で、自然と纏まっていく5人の姿に、マムシは再び眼を細める。
先程まであった、顔の筋肉だけで作られた笑みは、そこにはない。

『…あら…そう…。ま、いいわ。
じゃあ、ラストバトル開始ね。言っておくけど、最後の敵は強いわよ。
全滅しないよう、精々気張ることね』

5人の目前で、足下からマムシの姿が消える。
と、同時に現れる霧。辺り一面が白く染められた。

「な…なに…?」
「最後の敵のお出ましだろ?」
「何が出てくるんだ?」
「もう、雨でも槍でも進撃の巨人でも、何でも出て来やがれ」
「…巨人は…ヤダ…」
「グロテスクなのは勘弁だな…」

相変わらず好き勝手なことを述べていると、周囲の霧が晴れ『敵』が姿を現す。
それを視界に捕らえた瞬間、5人が息を呑んだ。

「おい……」「……」「何だって…」「あれって…」「そんな…」

目の前に現れたのは、巨人でもなければ、醜悪なエイリアンでもない。
全く同じ武器を手にした、自分達5人の姿。


『ラストステージ ドッペルゲンガーヲ タイジセヨ』

機械的な声が、その場を支配した。



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戦闘開始の合図とばかりに、司もどきのドッペルゲンガーがロケットランチャーを構えると、こちらに向かって弾丸を放つ。

「危ねぇっ! 散れっ!」

司のかけ声に、一同が四方に散る。
と、同時に上がる爆音。周囲に硝煙と砂埃が舞う。

「おいっ! 類! どういう事だよ! ドットコム原画? ってやつは!」
「…ドッペルゲンガー。影法師とも言われているよね」

司の言い間違いに突っ込む余裕など、誰にも無かった。物陰に隠れながら、類の説明に耳を傾ける。

プレイヤーであるつくし達の姿を模した敵、ドッペルゲンガーは、まるまるプレイヤーの能力をコピーして攻撃を仕掛けて来る。
その容姿は本物と見分けがつかないため、混戦になれば一対一の勝負しかなくなるという。

「…だからこんなの撃ち込んで来たのか…」

あきらが口元を覆いながら、未だ硝煙立ち込める空間を見つめる。
声は聞こえるものの、今、皆も敵も、何処に潜んでいるのか、はっきりと認識出来ない。

「類。まさか『自分と出会うと死ぬ』なんてことはないよな?」
「…その設定にはしていなかった…筈? けれど…」

総二郎の心配は即座に否定する。伝承のドッペルゲンガーとは異なり、三度出会ったからといって、それだけ死ぬことはない。
だが、ドッペルゲンガーを攻撃したときには、一つ問題があるという。

「どうなるんだ?」
「諸刃の剣。自分が攻撃した分、自らにもそれが跳ね返って来る」
「げ!」「跳ね返って…って、どのくらい…?」
「…さぁ…。それはそのときによって。1ダメージか、1/2か1/4か…。或いは全部か…」
「何だよ! それ」
「…だからアイツ、あんなこと言ったんだろうね…」

『言っておくけど、最後の敵は強いわよ』

マムシの捨て台詞が蘇り、背中に冷たいものが伝う。
確かに、この戦いは確実に不利だ。
仲間からの援護は期待出来ない、一対一の戦い。
向こうのダメージはこちらからの攻撃だけだが、こちらのダメージは向こうからの攻撃に加え、自分が与えた攻撃の一部、場合によっては全部をも受けることになる。

だが、それでも…。

諦めるわけにはいかない。ここをクリアしないと、現実世界には帰れないのだから。
揺るぎない決意を秘めた5人の頭上に、耳慣れぬ超音速機のエンジン音と、対地上ミサイル発射音が届く。
再びの爆音。完全にバラバラになる中、自分達以外のものの気配が近付いて来る。

「畜生! 何だよあれは!」
「対地上用戦闘機。ウォートホッグ(A-10※)あたりか…」
「こっちにはないのかよ…」

粉塵舞う周囲を見回すと、司の近くには何処から現れたのか、一機の戦闘機が置かれていた。

「…T-1Bか(※)…。せめてドルフィン(T-4※)くらい用意しろよ…」
考える間もなく、司がそれに駆け寄る。

「おい…っ! 誰が…」「…司…!?」「馬鹿! 止めろ」「乗れる訳ねぇだろ!」「道明寺っ!」
「五月蠅ぇ! アイツを何とかしなきゃならねえんだろっ!」
コクピット部分に手を掛けながら、未だ視界がクリアになっていない地上に向かって叫ぶ。

「上の奴は俺が引きつける! そっちは任せた!」
「…判った…。司、バーチャルの世界でもG(重力)は感じるよう、設定してある。気を付けろ」
「おう! あとでな」
類のアドバイスに勢いよく返事をすると、ひらりと戦闘機に乗り込む。

「牧野! いるかっ!?」
総二郎が粉塵の中に呼びかける。

「あ…う…うん!」
「牧野は逃げろ! 『影』を倒したら、援護に行く!」
「でも…」
「心配すんなって。本物のお前が判らない俺たちじゃねぇからな」
不安気なつくしの声に、わざと明るくあきらが応じる。

「…うん。判った…。みんな…気を付けて…!」

声のする方へ叫ぶと、つくしは身を翻した。



つづく




ウォートホッグ(A-10)
米国空軍初の近接航空支援専用機。
公式な愛称は『サンダーボルトII』だが一般的には『ウォートホッグ』と呼ばれている。

T-1B
第二次世界大戦後初の実用国産飛行機であると同時に、初の国産ジェット練習機。
航空自衛隊で使用されていたが、2006年全機退役。

ドルフィン(T-4)
T-1Bに続く、2台目の日本の純国産ジェット練習機。
現在、航空自衛隊 曲芸飛行隊(ブルーインパルス)にて使用。
丸みを帯びた姿から『ドルフィン』とも呼ばれる。
(すべてWikipediaより引用)
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