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Fantasy 総つく最終話 asuhana

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総二郎×つくし最終話

つくしの意識体は色々な思いに引き寄せられ実体化したあと、様々な異空間のつくしになって幾つもの恋をした。

心温まる恋をした。
心震える恋をした。
心が張り裂けそうな恋をした。

笑って、泣いて、悩んで、突き進むそんな恋をした。
本気の恋をする度に、つくしの周りにキラキラ光る小さな欠片が集まっていた。
沢山の思いが集まって鋭い光の矢となり放たれた。

その瞬間……つくしの胸のペンダントが音を立て砕け散った。

「えっ」
サクラーコが驚きの声をあげれば、目の前につくしがツクシ姫として過ごしたもとの世界が映像として現れた。

つくしが異空間に旅立ってからの日々が流れ出す。様々な異空間からやってきたつくしがマッキーノ王国に現れては消えを繰り返す。

「ここは?」
花が咲き乱れ光が溢れる美しい大国が現れた。

ツクシ姫とサクラーコは首を傾げながらも目を凝らせば、紋章が二人の目に入ってくる。

どうやらここはシヴァ王国のようだ。

「「いったい全体どうしたの?」」

二人の声が合わさった瞬間……シゲールの声がして説明を始めた。

最初は、入れ替りになっていた様々な世界のつくしはマッキーノ王国でスヤスヤと眠っていたのだが、アマゾネス王国のイツクがこの世界にやって来たとき、運命の悪戯だろうか……マッキーノ王国ではなくシヴァ王国に紛れ込んだと言うのだ。

イツクは、初めて出会った異性のシヴァ王に激しい恋をした。
猛烈にアタックするイツクが可愛くなったシヴァ王は、あんなにも執着していたツクシ姫のことなど、とっとと忘れ……イツクを深く愛し始めたのだ。

バカップル……いやいや二人は幸せを絵に描いたような恋人になった。

そんなある日

「シヴァ、ヌシは、ワタシよりもツクシ姫が未だに好きなのか?」

シヴァはイツクに睨まれながら詰め寄られた。

「いや、俺が愛するのはイツクだけだ」

「ならば、なぜ未だにマッキーノ王国への迫害、そして四人の王子への魔法を解かないのじゃ……ツクーシ姫への執着以外ナニモノでもないのか?」

と迫られた。

それもそうかとシヴァ王は全ての魔法を解いた。
同時にイツクがツクーシ姫と入れ替りが起きないように、自分の魔力全部を使い時空間をねじ曲げる魔法を唱えた。

無理矢理ねじ曲げられた時空間は、不思議な現像をもたらした。

なんと……イツク以外に四人のつくしがこの世界に現れたのだ。

いや、イツクの姉妹達が現れたのだ。

その名も……
ニツク
ミツク
ツクゴ
ツクム


「イツク、この者達は?」

「実はワタシは、六つ子なのだ。国には一人のツクシだけでいい。皆、アマゾネスの血を増やすために国を出た身だ。もしかしたら、シヴァが時空をねじ曲げた時にやって来たんではないのか?」

四人のつくしが一斉に頷く。

愛するイツク以外に四人のツクシ……
はて、どうしたものかと悩んだ瞬間……ツクシ姫を助けに四人の王子が颯爽と現れた。

シヴァはポンッと手を打ち、満面の笑顔を浮かべ四人の王子の前に四人の姫を差し出した。

ツクシ姫と寸分違わぬ顔で微笑まれ……四人の王子は

「「「「マヤカシだ……」」」」

と叫んだのだが……

刹那
光の雫石がその場に居たもの達、いや、ツクシ姫が存在していた世界に降り注いだ。

結果、

マッキーノ王国の姫は最初から五つ子で、其々の国の王子に愛されている。
そんな風に全てが塗り替えられていったのだ。


うまく出来たト書きのように……
四人の姫は、四人の王子がツクシ姫を愛する微妙に違う一番のポイントをうまい具合に刺激して

破れ鍋に綴じ蓋……

いやいや、それぞれに一番合った相手と手を取り合い愛を語っているのだ。


『てなワケなのよ』
シゲールが両手をあげながら言葉を続ける

『もうじき私もサクラーコも、そして、ツクシ姫あなたもこの世界の記憶を失うの。次の世界がツクシ姫が死ぬまで暮らす世界になるのよ』

パチンッと音が鳴り、緞帳が降りたかのように暗闇に包まれて

ふわぁっ~
眠りがつくしに訪れる。

一瞬だったのか、それとも途方もなく長い時間だったのか、なにも解らない状態でつくしは目を覚ます。

眩しい……そう感じた瞬間……この世に産まれ出る。

真っ白な肌に大きな瞳をもつ彼女の名前は

牧野つくし

年末の慌ただしい時期に生れた女の子だ。

のんびりを絵にかいたような父晴男と、そんな父をグイグイ引っ張る母千恵子のもとに産まれた彼女。

「お兄ちゃ~ん」

三つ年上の兄進の後を追って今日も元気に野山を駆け回っている。

「ヨッ、チビザル」

後ろから声を掛けられる。声の主は切れ長な瞳をもつ少年。

つくしは都会からやって来たこの少年がキライだ。つくしに会うたびにいつもチビザルと言ってからかうし、兄と二人でつくしによく解らない話を楽しそうにするのだ。それにそれに……つくしにはまだ早いと禁止されている曙山の一番高い木蓮にスイスイと登っていくのだ。

「チビザルじゃないもん、つんちゃんだもん」

「あっ、そっかサルじゃないな。だってお前、曙山の木蓮に登れないもんな」

意地悪を言う少年を、つくしの大きな瞳がキッと睨み付け

「バカッ‼ あんたなんてあんたなんて大々大キライ」

「お、お、俺だってお前なんか大キライだ」

つくしの頬は、プクゥ~と焼き餅のように膨れて

「キライでいいよ~だ。アッカンベーだもん」

前を歩いていた進が振り返り、ヤレヤレと言うように戻ってくる。

「ハァッ~ つんちゃんもソウ君も仲良くだよ。つんちゃん大キライなんて言っちゃダメだよ」

兄の言葉に

「つんちゃん、つんちゃん悪くないもん」

大きな瞳に涙をためて、つくしは駆け出した。


あの日から十五年……つくしは、やっぱり総二郎がキライだ。

「おい、つくし、今日は朝一緒に起こせって言っただろう」

ドサンッと音を立て、つくしの前の椅子に座りながら文句を言っている

「んなの知らないって。ったく、なんで一々あたしが起こさなくっちゃいけないの」

「あっ、お前、またあたしって言ってんぞ。吉野に言っとくな」

「ちょっ、やめてよね。吉野さん凄い怖いんだから」

大学進学と共につくしが行儀見習いを兼ねて、祖父母が親しくする西門の家に居候を始めて三年が経とうとしている。

ひとつ上の学年で同じ大学に通う総二郎は、やっぱりあの時と同じ高圧的で俺様で……そして、女癖が悪い最悪な男だとつくしは思っている。

「総、胸元にキスマークついてるよ」

焙じ茶を啜りながら、しれっ~とつくしが口にする。

総二郎は慌ててシャツをあわせながら

「ガキがんな事見んな。それにお前なに呼び捨てにしてんの?総じゃなくて総二郎さんだろうが」

「あっ、はいはい。総二郎さんでしたね。ハァッ、それよりお時間大丈夫ですか?遅刻なさいますわよ」

コトリッ
湯呑み茶碗をテーブルに置きながら総二郎を見上げ、ニッコリと頬笑む。

「げっ、ヤベッ。あっ、つくし、弁当は?」

つくしは無言で顎をしゃくり、総二郎用に作った弁当を指し示した。

総二郎は、弁当を片手に駆け出していった。

その姿を目にしながら

「ハァッ、あいつホントばか」

悪態を吐きながらお皿を下げる。

「ってか、外食しろってぇの」

ブツブツ文句を言うつくしの後ろから声がかかる

「つくしちゃん、オハッヨー」

朝から明るい声の主は、西門の三男坊の工だ

「たくちゃん、おはよう。ご飯食べてくよね?」

「うんっ。お弁当も宜しくね。あっ、厚焼き玉子入れてくれた?」

「うん。入れたよ」

会話をしながら工の朝食を用意する。

「いただきまーす」

ニコニコと美味しいを連発する工の声を聞きながら、総二郎にも弁当を作ることになった日のことを思い出す。

総二郎の弁当をつくしが作るようになったのは、自分の弁当を作るついでに工に頼まれて弁当を作り出したのが切っ掛けだった。

工が
「つくしちゃんのお弁当サイコーに旨かった」

そう言いながら、空の弁当箱をつくしに渡す工を見た総二郎が

「明日から俺の分もな」

有無も言わさずに言いはなったのだ。


「ホント、横暴だよね」

その時の総二郎の偉そうな物言いを思い出して悪態を吐けば、工がニコニしながら

「また総兄とケンカしたの?今日の原因はなに?」

楽しげに聞いてくる。つくしは唇を尖らせて

「もぉ、たくちゃん、聞いてよ~ あのバカ朝起こせって、スッゴい偉そうに言うの。目覚ましかけとけって話しだよね。ハァッ~ホントむかつく」

「ぷっ、つくしちゃん、総兄には意地悪だよね」

「えぇっ~ 意地悪は総の方」

つくしの言葉に工はクスクス笑いながら

「確かに、総兄も意地悪だよね」

激しく首を上下に振りながら、工の空になった茶碗を見て

「たくちゃん、おかわりいるでしょ?」

そう聞いた。

「あっ、うん。よろしくお願いしま~す」

勢いよく茶碗を差し出した。
ご飯をよそるつくしの後ろ姿に

「仲良しで、羨ましいな」

ポツリ呟いた。

工は、初めてつくしに会った時からつくしのことが大好きだ。それは今も変わらず続いている。

だから、つくしが自分のことを弟のようにしか見ていないこともよく解ってるし……総二郎とつくしの二人が気がつかない気持ちにも気がついている。

「悔しいから、教えてやんないけどね」

誰にも聞こえないように小さく小さく呟いた。

「うんっ?なんか言った?」

おかわりをよそった茶碗を差し出しながらつくしが聞けば

「ううんっ、何にも言ってないよ」

爽やかに笑った。



つくしの一日は、判で押したように規則正しい。

彼氏なんて言う生き物は、自慢じゃないが、生まれて此の方出来たことがない。
合コンなんて言うものにも今の今まで、参加したことがなかった。
取りたて、厳格な家に育ったわけではないのだが……奥手と言うかなんと言うか、まぁチャンスも切っ掛けもなく生きてきたのだ。

今日は、そんなつくしの記念すべき初合コンなのだ。
来るハズだった女の子が土壇場で参加できなくなって人数合わせの為に呼ばれた初合コン。いつもなら断るのだが行って見たいと思っていた予約の取れない人気店。しかも会費がタダと来ては……行かなきゃ損とばかりに、喜び勇んでやって来たのだ。


ゴクンッ
つくしの喉がなる。
目の前には美味しそうな料理の数々が並んでいる。自己紹介もそこそこに皿に手を伸ばし、スペアリブにかぶりつく。

「はぁっ~、美味しい。幸せっ」

幸せな吐息を漏らせば

「牧野さんて変わってるよね……この場に来て、色気より食い気なんだ」

つくしの横に座った斯波と名乗る男が爽やかな笑顔を浮かべながらそんなことを言ってくる。

「えっ?変わってなんかないですよ。いたって真面目です。だってこのスペアリブ滅茶苦茶美味しいですもん」

そう言いながら大きなスペアリブを斯波の前に差し出す。


チョコレート色の髪と瞳をもつ斯波は、大層魅力的な男らしくあとからあとから女子がまとわりついてくる。なのに、何故かつくしが気に入ったようで……身体をにじり寄せてくる

「ハハッ、牧野さんって本当に面白いよね」

つくしは寄られた分、身体を後ずさりさせながら

「ハハッ、そりゃどうも、どうもです」

誉め言葉に礼を言う。
いや、女子に向かってって“面白い”と言うのが誉め言葉なのかどうなのかと、首を傾げながら頬を膨らませる。

ブスッ
斯波がつくしの頬に指を指す。

プシュッ~
音を立てつくしの頬から空気が抜けていく。

その様を見た斯波は

「プッ ブハハッ」

眦に皺を寄せ大笑いした。
一頻り笑ったあと

「そうだ、今度一緒に蛍狩り行かないか?」

つくしを誘う。

「蛍狩り? 風情がありますね~
あぁ、そうそう、狩りって言えば、昔は桜見のことも桜狩りって言ったんだって知ってましたか?食べ物じゃないのに不思議ですよね」

自分の言葉にフムフム頷きながら話すつくしを不思議な生き物を見るかのように眺めたあと、つくしの両頬をムギュッとつねったあと嬉しそうに

「俺、あんたのことスゲェ気に入った」

つくしは、つねられた頬を擦りながら

「ハハッ、ありがとう?」

疑問符を付けながら返事をした。つくしは時計をチラリと見て

「門限に遅れるから、先帰ります」

そう言って席を立ち、去っていった。


次の日から斯波は、つくしの前に毎日のように現れるようになった。斯波はシヴァ財閥の御曹司で、つくしが居候する西門の後援会にも多大な寄付と共に参入してきた。

斯波と仲よさげに話すつくしを見て、面白くないのは工だ。何くれととなく邪魔をするのだが……相手は西門にとっての上顧客なのであまり強くも出れずに悔しい思いをしているのだ。

それよりもなによりも、工にとって最も気に食わないのが総二郎の態度だ。斯波が来ようが何しようが、以前と全くなにも変わらないのだ。

つくしのことを
誰よりも好きなくせに
誰よりも愛してるくせに

「総兄だから……俺は、俺は、」

幸いなことに今はまだ、つくしの中で斯波の存在は仲の良い男友達止まりだ。
でも、男と女、何が起きるなんて誰にも解らないじゃないかと、工は思う。

だから……

「つくしちゃん、今晩ダムジュールがとれたんだけど一緒に 「つくしちゃ~ん、吉野が呼んでるよ」

言葉を被せて、斯波がつくしを誘う邪魔をする。

「えっ、あたしまたなんかやちゃったかな?たくちゃん吉野さんどんな感じだった?」

「怒ってはないけど早く行った方がいいと思うよ」

「うんっ、そうする。斯波さん、お話し中ごめんね」

そう言い残しパタパタと去っていく。

「チッ」
舌打ちする音がして、斯波がその場を去っていく。

「フゥッー 危機一髪」

客人への挨拶を終えれば、つくしは裏仕事に回る。斯波が来る日は、吉野がそんな段取りを立てているのを工は、知っている。

「吉野だって知ってるって言うのに……なんであの二人はお互いの気持ちに気がつかないんだろう。ハァッ」

工の杞憂と攻防戦の日々は続く。

なのに

「バカ総、起きろ~」

「うっせぇ、バカつくし」

「はぁあ?起こせって言ったのは総でしょ!何偉そうに言ってんの」

「もっと気の利いたお越し方があんだろうが」

「ふんっ、毎晩、毎晩遅くまで遊んでる人には丁度いいでしょ」

今日も朝から言い合う声がする。

菊の節句が終わり、宇治の茶祭りの準備が始まる頃、斯波のつくしへの誘いも増していく。

つくしを必死に誘う斯波に、頓珍漢な答えを返して上手くかわしているのが意識的なのか無意識なのかは謎のところだが。つくしは断り続け、斯波は誘い続け、工はヤキモキし続けている。

総二郎の態度は、相変わらずどこ吹く風で、つくしと総二郎二人の言い合う姿も変わらぬままだ。

今日だって二人は朝から口喧嘩をしたあと冷戦状態でテーブルについた。

「あっ、たくちゃん、あたし今日遅くなるからね」

「あっ、うん」

「工、バカ女に門限までにきちんと帰れって言っとけ。ったく、毎日毎日、ガキがどこでほっつき歩いてるんだか」

「たくちゃん、バカ男にバカなんて言われたくないよね」

お互いに喋ればいいのに、工を通して会話を成立させようとする。

「俺、朝練だから…もう行くね。つくしちゃん、総兄行ってきます」

工は、居たたまれなくて慌てて屋敷を出ていった。

ただいつもと違うのは……ここひと月、つくしの帰りが頻繁に遅くなっているのだ。
今晩に至っては、門限の十時近くになってもつくしが帰ってきていない


「総兄、つくしちゃんは?」

工が総二郎に聞けば

「知らねぇよ、あんなバカ女のこと」

眉間に皺を寄せ答える。知らないと言いながらスマホからは手を離さず、膝をカタカタカタと小刻みに揺らしている。

柱時計が、ボーン、ボーン、ボーン……十回鳴った瞬間
工のスマホが鳴った。画面にはつくしの名前
タップした途端、つくしの画像が画面に映り喧騒と共につくしの声が流れ出す。

『ゥィ、ヒック、ヒック、ウィッヒック、たくちゃん、つくしだよぉ~』

『つくしちゃん今どこ?何してるの?』

『ェヘヘッ、夜遊びだよ~ でね、つくしは今日は帰りませ~ん』

総二郎が工のスマホを引っ手繰り

『ヘラヘラ笑ってんじゃねぇよ、今直ぐ帰ってこい』

烈火の如く怒鳴った瞬間……

「つくし」

つくしの名を呼ぶ男の声が聞こえた。
同時に、プツンとスマホが切られた。

総二郎が幾度も幾度もつくしのスマホを鳴らすがコール音だけが虚しく響き渡る。


「あの……バカ女」

バタンッ
部屋から飛び出して行った。

工の顔に苦笑いが溢れた瞬間、いつの間にかリビングにやってきた家元が楽しげに

「あいつ、あんなに慌てて出て行って、つくしちゃんが何処に行ったのかわかってるのか?」


「ヤキモキしながら愛する人を捜す。これも青春の醍醐味じゃありませんこと?散々おイタをしてきたんですから、そんな思いも大切ですわよ」

ウフフっと笑えば

「ここ数年は、ご贔屓さん達との食事会で地盤固めだろう?」

家元が庇い立てする。

「 まぁ、そうですけど、その前がいけませんわ。それに、つくしちゃんに手を出さないようにか、なんなのかわかりませんけど、他で処理しているようじゃまだまだですもの。少しくらいヤキモキしていいんですわ。そうじゃありませんこと?ねぇ吉野」

これまた何処からともなく現れた吉野に声をかける


「えぇ、桜子奥様、全くもって左様でございますわ」

オホホっと声高らかに二人は笑う。

一方、つくしは斯波とではなく兄の進と会っていた。

つくしと進の両親は、小さな小さな茶畑を営んでいるのだが、実は父晴男は大企業の御曹司だった。どうにもこうにも経営には向かなくて、一人息子だと言うのに実家を捨てて逃げ出していた。

祖父徳兵衛が晴男を見つけたのが今から三年ほど前のこと。菊花の会の催しのあと、総二郎が見ていた一葉の写真を偶然目にしたのだ。
死んだものと諦めていた息子。最初は許すつもりなど無かったのだが、写真の中に映る孫可愛さに一度だけ会ってみたいと望んだ。総二郎に頼み会ってみれば、孫は二人とも可愛いくて可愛くて幸せを手放せなくなった。晴男と和解後、利発な進が跡を継ぐ事がとんとん拍子に決まったのだ。

問題になったのが進が将来一緒になりたいと付き合っていた優紀の事。
祖父母的にはウェルカムで優紀を迎えたいと願ったのだが、当の本人である優紀が自分は庶民の出だから荷が重いと躊躇した。進が説得に説得を重ねこの度ようやくOKを貰えたのだ。

あまりの嬉しさと、総二郎へのむしゃくしゃする気持ちをぶつけるが如くに羽目を外して飲んだのが事の真相なのだが

色々な事でヤキモキしていた総二郎は、斯波といるのではないかと勘違いして……

これまた実は、斯波にはつくしがきちんと選んでお似合いの相手を紹介してある。
つくしが斯波にと厳選したのは、特盛り食べたらタダになる、グッジョバ!! というラーメン屋で知り合った滋という女の子だった。滋は、実は超がつくほどのお嬢様で……斯波が嫌がる斯波のもつバックボーンに惹かれることもない。それより何よりもお互いが欲している所をもっていた。絶対に二人は惹かれあうはずだと確信したつくしは、二人を引き合わせたのだ。
つくしの計算通り、斯波と滋は一目で恋に落ちた。

滋が斯波と付き合うことに決めたとつくしに報告すれば、つくしは心のそこから喜んでくれた。滋はそれが嬉しくて、斯波に宣言をした

「決めた!つくしを幸せにする」

「なにを?どうやって?」

至極真っ当な意見が帰ってくる。

「ウグッ、シバッチお願い……一緒に考えて」

滋にうるうる見つめられ……つくしにアタックをかけていた日々を思い出す。

斯波がポンッと手を打ち、滋の耳元に何やらゴニョゴニョ話し出した。

「…ヤキモチ大作戦?」

「うん。」

「って、つくしって西門の若宗匠が好きなの?」

「あぁ、たぶん。でもって総二郎さんは間違いなくつくしちゃんのことが好きだよ」

ヤキモチ大作戦……総二郎にヤキモチ妬かせて素直にさせちゃおう!なんて言う極々ありきたりの作戦で……

つくしと斯波が二人きりで会っているかのように情報を操作し、総二郎の心を掻き乱す心理作戦だ。

実際には、つくしが遅くなった日は、滋と斯波の紹介で、この先西門のいいや総二郎の力になってくれそうな相手と共に会食をしていただけなのだが……

人目のある所でつくしと斯波の二人が待ち合わせして、後から滋達に合流する。
斯波は財閥の御曹司。つくしにアタックをかけていたのも周知の事実。瞬く間に二人は恋人同士なんて尾ヒレがついて噂が一人歩きを始めた。

斯波が滋と付き合い出したことを知らない総二郎の耳に入れば……総二郎はヤキモキする。そんな単純でうまくいくのか?半信半疑で進められていたのだが……

どうやら効果絶大で……いや、絶大過ぎたようで

鬼の形相でヴェリテホテルの前に立っている。

ピンポンピンポンピンピンポンピンポンピンピンポンピンポンピンピンポンピンポンピン

つくしの泊まるスイートの部屋のチャイムを壊れそうな勢いで叩いている。

なんでここが解ったかって?
このホテルは、総二郎が好んで使うホテルだったのだ。なんで部屋まで解ったかって?
この部屋には、つくしに良く似た少女の絵画が飾られている。

総二郎は、つくしを小さな頃から愛していた。意地悪をしたのも好きの裏返し。

中学、高校と一期一会と嘯いて浮き名を流したのは、決して実らないと解っていた恋のため。

総二郎がつくしをどんなに好きになっても、なにももたないつくしが西門の家で認められようがないと解っていたから、自分の恋心と向き合わなくていいように浮き名を流し続けていたのだ。

他の女を抱けば心がささくれて……そんな時に出会ったのがこの部屋のつくしに良く似た少女の絵画。
以来、この部屋には心を落ち着けたい時にやってきていたのだ。

大学に進学した年に、やっぱりつくしが忘れられずに会いに行った。
魂が震えた。やっぱり諦められないと。
つくしが何も持たないのなら、己が全てをもてばいいとばかりに資産運用を始めた。

茶道だけでなく経営にも才覚があったのだろう、瞬く間に財を築き上げた。

己を確固たるものにするべく日々努力した。

牧野家の皆と一緒に写る自分の写真が心の糧だった。あの日も写真の中のつくしを見つめていた。

茶会の前に、つくしの写真を見て心を落ち着ける。不思議と深みのあるいい茶が点てられるのだ。

後ろから誰かが覗きこむ。咄嗟に写真を隠そうとした瞬間……

ポツン、ポツン
何か冷たいものが手の甲にあたった。驚いて見上げれば

「徳爺ぃ?」

今日の茶会の開催主でもあり、小さな時から総二郎を可愛がってくれている徳兵衛が泣いている。

徳兵衛が失った筈の幸せが一葉の写真の中に詰まっていたのだ。

最初は東京の大学に通う進と徳兵衛夫妻を引き合わせた。
進の中にある強さと利発さは徳兵衛の血なのだと直ぐに理解できた。次に東京の大学の下見にきたつくしを二人に引き合わせた。

徳兵衛の妻、春は体調を崩し長年寝込んでいたのが嘘のように……孫達に会ってから元気になった。

「晴男に会いたい……」

春にとって、たった一人の可愛い息子。孫に会ってひた隠しにしていた欲が溢れ出てきたのだ。

己の心を顧みれば、徳兵衛とて春と同じ思いだ。
息子に息子に会いたい

直ぐ様、晴男に会いに晴男の営む茶畑に訪れた。
茶畑の前に広がる曙山の木蓮は、徳兵衛の邸に植えられた木蓮を彷彿させた。
晴男が生まれた記念に植えた木蓮。幸せな象徴の木蓮。

「父さんが、僕のために植えてくれたシンボルツリーと一緒でさ。なんだか温かい気持ちになれて……この地に住んだんだ。良い方達に出会えてさ、細々とだけど茶畑農園を営んでるんだ」

言葉が途切れ……
風の音だけが通り抜けていく。

「父さん、母さん、親不孝な僕をゆるしてください」

晴男が真っ赤に目を染めながら頭をさげた。

徳兵衛と晴男の縁が戻れば、呆気ないほどにつくしと総二郎の前に立ち塞がっていたものが晴れていく。
障害が消えたとき……自分の歩んできた過去が総二郎を責め立てた。
汚れた自分がつくしに触れてはいけない気がして……つくしを思い切ろうと決意した。

いや、違う。手を伸ばせばこの思いが届くかもしれないとなったとき……現実を突きつけられたのだ。
こんなにも恋い焦がれ愛しているのは、お前だけだと。
愛は、男を臆病者に変えたのだ。

遊び人のふりをして、女を侍らす。あの朝、つくしが見つけたキスマークは、取り巻きの一人がへべれけに酔った総二郎に無理矢理つけたものだ。

心を決めたあのた日から、他の女になど一ミリも欲情しないのに……素直になれなかった。

つくしに男が近寄らないように陰で凄みを効かせ、他の男は近寄らせないようにしてきた。
弟の工にさへ馬鹿みたいに嫉妬して、張り合った。なのに、つくしの前に出れば憎まれ口ばかり叩いてた。

ピンポンピンポンピンピンポンピンポンピンピンポンピンポンピンピンポンピンポンピンピンポンピンポンピンピンポンピンポンピン

チャイムを鳴らす。

微睡んだ意識の中、つくしはチャイムの音を聞いている。

眠い目を擦りつくしは、ドアに向かう。


10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,

恋が始まる。

拍手ありがとうございます♪
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