Pure love

Pure love 10話 lemmmon 後編






支度が終わる頃にはなぜあんな場所にいたのか鈍い私でもようやく理解が出来た。今私は真っ白なウェディングドレスに身を包んでいる。
結婚を決めたのは昨日の事だ。そんな翌日に式を挙げようとするなんていくらなんでも早すぎる。
でもこれでいいんだろう。私はなんでもうだうだと考えてしまうから、昨日決心した事もまた時間が経ってしまえば変えてしまうかもしれない。だから決心のままに道明寺のお嫁さんになるべきなんだと思う。


ブーケを手に取りつくしが部屋を出た。ドアを出るとそこには彼女の父親が立っていた。
「パパ...」
父の晴男はボロボロ涙を流して泣いていた。つくしは自分も涙目になるがその姿にぐっと堪える事が出来た。
「それではみなさんお待ちです。」
使用人が先を急がせる。つくしは父の腕に掴まり父と顔を見合わせた。
「パパ、こんなとこまで来てくれてありがとう。私幸せになるね。」
「うっ、うっ...つくし~、うん、うん。じっ、じあわぜになるんだよぉ~」
「うん。...パパ、あいつのところに連れて行って。」

私はパパと一緒に会場を目指した。
どこか分からなかったこの場所は個人が所有するイタリアの古城らしく、途中使用人から花沢類の別荘の場所も教えてもらった。
建物から外に出ると先ほど出た通気口とは反対の場所に案内される。
広い敷地内をパパと使用人の手を借りて進んだ。ハイヒールに慣れてないから転びそうになる。帰ったらハイヒールの練習も必要だと花嫁修行のひとつを見つけた気分になれた。
そのまま歩み進めると白い花々で飾られたアーチが見え、その向こうにみんなが私達を待っていた。
私達の方を向いて手を叩いている。
鐘の音が鳴り響き、オルガンの演奏がはじまった。
結婚行進曲。
誰でも知ってるこの曲を聴くまでもなく私の目には堪えたはずの涙がまた溢れていた。
赤い絨毯を挟んだ両サイドの右側。そこには親友の優紀や桜子に滋、そして前列には母の千恵子と弟の進。それから左に目を向ければ司の姉の椿に母の楓、そして司の父がいた。病床にいるであろう司の父は楓に支えられていた。
司の父親を見てつくしはようやく司との結婚を道明寺家が認めていると分かり、嬉しさのあまり涙を堪える事が出来なかったのだ。
アーチをくぐり、晴男にエスコートされ赤い絨毯の上を進むつくし。
途中目があった3人にこれ以上の感謝はないと大きく頷き手を振って笑った。
祭壇に着きもう一度晴男の顔を見て司へと手を伸ばししっかりとその腕に掴まった。

私はこの手をもう離さない。
何があっても離したりしない。
あんたが私を見つめる限り。
それってずうっとって事でしょ。
あんたの顔がそう言ってる。
私には分かるの。

「新郎道明寺司、あなたは健やかなる時も病める時であっても妻つくしを愛しむと誓いますか?」
「はい。誓います。」
「新婦牧野つくし、あなたは健やかなる時も病める時であっても夫司を愛しむと誓いますか?」
「はい。誓います。」
「それではここに誓いの印として指輪の交換を行います。」

道明寺が...ううん司が私の左指に指輪をはめていく。キラキラ輝いている指輪は宝石の輝きもあるのだろうけど、それ以上に司の気持ちがそうさせているようだった。だから私も司に指輪をはめていく。私とお揃いの石を使った指輪。あんたが私のために用意してくれた世界で唯一の指輪だね。夫婦になった指輪をはめられて私はこれ以上の幸せはなかった。
「それでは誓いのキスを。」

司の両親の後ろで2人を見守る3人は司とつくしの2人をじっと見ていたり空を仰いだり額を掻いたりと様々だが3人の想いは一緒だった。


ゴーンゴーンゴーン...


「「「「「かんぱーい。」」」」」

類の別荘に戻りF4とつくし、優紀に滋と桜子の8人でシャンパンを飲み先ほどのウェディングの話に花を咲かせた。
司の母は体調の優れない父親を休ませるためにホテルに戻り、つくしの両親も感情の高ぶりから父親が発熱してしまったためぶちぶち言う母親に連れられ弟とともにホテルの方へと戻っていった。
一方の椿は早速弟である司になぜもっと早く結婚しなかったのかと絡んでいたのだが、その様子を見かねた夫によって早々に退散させられる事になる。
椿が帰り司の受難が無くなったと思ったつくしだったが、今度は自分が滋や桜子から突然過ぎると文句を付けられる。特に桜子は式のプロデュースを自ら行いたかったようで類達のプロデュースを褒めつつももっと早く結婚を決めていればとつくしの優柔不断を責めた。
そんな時使用人がバイオリンを持って来て類に手渡す。
「せっかくだから一曲弾いてみるよ。牧野あんたの好きな曲でもさ。」
「いいの?」
「ああ。結婚したのに文句言われて可哀想だからね。」
ギロッと桜子が類を睨む。類はそんな桜子をチラリと見て受け流し、桜子もふぅと溜息をついた。
~♪♪~~♪♪♪
「これ、聴いた事がある。」
類の演奏に耳を傾けるつくし。類が演奏するとあって、ほうっと聞き惚れるのも無理はない。
「time to say goodbyeですわね。確か元はCon Te Partir?ですわよね。」
「goodbye?え、別れの曲なの?」
「そう思いがちですけど違います。Con Te Partir?の意味はイタリア語で君と旅立とう。つまり愛し合う2人の旅立ちの歌ですわ。」
「旅立ちの...」
つくしは完全に類の方だけを向いていた。そんなつくしにあきらが声をかける。
「ちょうどいい、牧野踊ろうぜ。ダンスレッスン覚えているかテストしてやる。」
「え...レッスンって...」
司と遠恋だった大学時代つくしは確かにあきらから社交ダンスのレッスンを受けていた。しかし司が帰国してからの数年間司に必要ないと言われてレッスンから遠ざかっていた。
「あきらズルい。」
演奏を続けるが文句を言う類の顔はムッとしていて、類にしては分かりやすくつくしはぷっと笑ってしまった。
「...笑われたからやめよ。」
「わわ...ちょ、ちょっと待って類!」
演奏を止めようと膨れる類にあきらも苦笑いになる。
「ちゃんと交代してやるから。ほれピアノだってあるだろ。お前と踊る時はそっちを弾いてやる。」
「ならいいや。」
「え...ていうか何か勝手に決めてない?」
ぼやくつくしに総二郎も笑い出す。
「くくく...つくしちゃん花嫁なんだから当然だろ。」
「当然って...」
「花嫁と踊るのは祝福の意味もあるって事だ。受け取らねぇ訳にはいかないだろ?」
いたずらっぽく笑ってあきらがつくしの手を取った。類もバイオリンをまた弾きはじめる。つくしは慣れてないハイヒールなのにと呟く。
「安心しろよ。下手くそに戻ってても転ばせないから。」
「転ばなくても足を踏むかもしれないじゃない。」
「それは気をつけるさ。」
優雅につくしをリードするあきら。そのリードに流石とつくしは呟く。
そんな呟きは見守ってる女子の方からも漏れていた。
「贅沢。」
「本当ですわね。羨ましい限りですけど、先輩だからこそ彼らは踊ってくれる訳で、彼らにとって先輩は特別な存在と言う事ですわ。」
曲が変わりつくしの手があきらから総二郎へと渡る。
総二郎に踊れるの?!とつくしは目を見開き失礼な顔を向けるが、総二郎もまた顎をしゃくり目を細め馬鹿にするなという顔で返した。
「きっとずっとそうなんだろうね。」
「優紀さん...」
桜子の心配顔に優紀がふふふと困った顔を返す。
「凄いね。...つくし本当に凄い。あんなキラキラした人達の特別になれるなんて...たくさん嫉妬されるはずだよ。」
ふうーと肩を落として優紀は息を切った。
「でも、私はそんなつくしが大好き。つくしの親友になれて本当に誇らしいの。だから今はもう...大丈夫。」
優紀は桜子や滋に向かって微笑んだ。安心してというように。
~♪~~♪♪♪
そんな時バイオリンの音にピアノの音が加わった。3人がピアノの音の方を見るとあきらが鍵盤に向かって曲を奏でていた。
類がバイオリンの弓を高く掲げ、それらを使用人に手渡す。
そしてつくしの元へと歩み出した。
「今度は俺とね。」
総二郎がくるっとつくしをターンさせ類へと引き渡す。驚いたつくしはヒールを躓かせてしまうがそれは類が華麗に引き寄せた。
「...ありがと。転ばなくて良かった。もーお、エロ門めぇ~」
「くくく。まぁ俺には役得だからそんなに総二郎を怒んないでやってよ。」
「役得?何が?」
「分かんないならいいさ。」
類とつくしが踊るのをみんなが見守っていた。そして誰一人彼が口を開かない事に気付いてなかった。
そんな時あきらが演奏をトチってしまった。だがそこは上手く誤魔化しおどけた顔で白状しながらも演奏を続ける。
「貸せ。」
低い存在感のある声がみんなの耳に届いた。その声の持ち主にみなが驚き顔を向ける。
するとその男は使用人に手を伸ばしていた。
「司、お前が弾くのか?」
「悪いかよ。」
「何年ぶりだ?」
「さぁな。いちいち覚えてねぇよ。」
「壊さない?」
ブチッ
花嫁の疑問に新郎のこめかみが素早く反応する。
「何か言ったかてめぇ...」
「だ、だってあんたが弾いてるとこ見た事ないから...」
「司それ一応ストラディバリだから。」
「それって超貴重なバイオリンなんじゃ!どっ、道明寺。無理する事ないわよ。てか無茶しないで。」
司はこめかみに青筋を作ったままつくしを睨むが、そのまま無言でバイオリンを弾き始めた。
「ちょっ...」
「牧野、踊ろ。」
類が強引につくしをリードする。つくしは戸惑いながらも司と類の顔を見合わせていた。
「踊り始めてからずっと黙ってたの気付いてた?」
「へ?...あ、本当だ。」
つくしは司の方を見た。類ほどの腕前はないが形にはなってる。そして見た目に関しては引けを取ってない。
「その意味を考えたらいくらストラディバリでもやるなとは言えないよ。ま、多少の修繕は覚悟するさ。」
「うるせぇ...」
間髪入れずの悪態につくしも笑ってしまう。
「そうだね。」

私が分かってなかった。
司はこの3人が私達を祝福しているのを黙って見守っていた事を。
こんな風に踊るのはきっとこれが最後。
そして...

つくしはチラッと司を見た。
バイオリンを弾く司をかっこいいと素直に想ってしまう。

「今は俺を見てよ。踊ってるのは俺でしょ。」
「しょうがないじゃん。あいつの演奏なんて貴重過ぎるから。それこそバイオリンの価値より私には貴重なのよ。」
「本当素直じゃないね。あんたはずっと変わらない。」
「何がよ。」
ムッとするつくし。それが類に乗せられた事にも気付くはずもなく。そして類はつくしの耳元に囁いた。
ボンッと真っ赤になるつくし。
その様子にピキッときた司も手元が狂いビンッと大きく音を外してしまった。
「くそっ。」
「流石にこれ以上やらせたら弦を切ってしまいそうだから終わろう。...にしてもこんな幕引きなんて本当お前ららしいよね。」
「うるせぇ類!」
「わわ、もう喧嘩腰にならないでってば。」
「牧野ならねぇよ。」
「心配性だねぇ、つくしちゃんは。」
あきらと総二郎が笑う中、類が司からバイオリンを受け取る。
「切れてはないけど交換しなきゃなんないな。まったく馬鹿力なんだから...」
「これでも加減したんだよ。それ以上文句言うなら二度とこいつと踊らせねぇからな。」
「へぇ、またさせる気あったの?」
「ある訳ねぇだろ!」
「何が言いたいのよ、あんた。」
呆れるつくしの呟きにみんなが爆笑する。
「くくく、んじゃさ司。バイオリンの弁償はいいから、もう一泊していきなよ。」
「あ?何でだよ。俺は忙しいんだよ。」
「忙しいんじゃなくて、早く牧野を連れて帰りたいんだろ。」
「類何を考えているんだ?」
あきらの問いに類は明日になれば分かるとだけ言った。


そして翌朝類の別荘の中庭に重機が出現し、つくしは口をあんぐりとしている。
「でか...」
「確かにでかいな。何でまたこんなのを持って来たんだ?」
そこには穴が開けられてあった。そして重機が開けた穴に植樹されようとしている樹が用意されている。
「ん~、ちょうど良かったから?」
「何がちょうどなんだよ。樹を植えるのは分かるが、だからって俺らの樹よりも大きいじゃねぇか。」
「だって牧野の樹なんだよ。大きくて当然じゃん。」
にっこりとさも当然のように話す類につくしは口を開けたまま瞬きしている。
「おい、そんなに口開けてたら虫が突っ込んでくるぞ。」
慌てて口を手で覆うつくしに4人は笑顔になる。
「でもさ、この樹はただ大きいんじゃないんだ。」
「大きい以外に理由があるのかよ?」
「まぁ偶然なんだろうけどね。この樹は俺らの樹より一年後に芽を出したんだ。そして大きくなった。その場所はおよそ樹木が育ちにくいと言われている場所なんだ。それってなんだか牧野みたいじゃない?」
「みたいじゃなくて、そのまんまじゃねーか。」
「はは、違いねぇ。」
はははははと笑う4人を尻目につくしは歩き出しその樹に触れた。
「逞しいんだね。そうだよね。温室育ちでなくたって大きくなれるよね。あんたならこの4人をきっと見ていられる。倒れそうになってもきっとあんたが助けてくれる。」
つくしは振り返ってにっこり笑った。
「ありがとう、類。」
「どういたしまして。」
そしてそのつくしの樹が4人の樹の側に植えられた。4本の樹を見守るようにその真ん中に。
「後数年したらさ、この畑から収穫出来そうなんだ。そしたらその一番搾りを飲みに来ないか?この樹の下で。」
類の言葉に4人が頷いた。司はやや渋々だったけれど...
そんな司を笑って類は拳を突き出す。総二郎とあきらもその拳を出し、司もそれに続いた。
そして司がつくしに顎をしゃくる。
「私も?」
「たりめーだろ。お前の樹だってあるんだから。」
つくしは満面の笑みで拳を突き出した。
大きな4本の腕に1本の細い腕。樹とは違うバランスだけれど、その影は同じように太く伸びていた。
光輝く未来に照らされたように。
拍手ありがとうございます♪
関連記事