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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 45

第45話


「「お兄さまぁ~!!」」

薔薇のアーチを抜け、お伽噺に出てくるお城のようなドアを開けた途端、サラウンドで声が響き、両側からあきらにしがみつく少女達。
つくしの知るあきらの妹は、お人形のような子供、というイメージだったがその可憐さはそのままに、その姿は、つくしが彼女達に会った頃と同じくらいになっていた。

両手を妹達にがっちり掴まれ、身動きが出来ないあきらに亜弓がそっと近付き、絵夢と芽夢に声を掛ける。

「絵夢ちゃん、芽夢ちゃん。
あきらさん、ちゃんと買ってきて下さったわよ」

2人の目の前に、先程購入したペーパーバッグを差し出すと、するりとあきらの腕を解く。
礼を述べ、それを受け取ろうとするのを窘める。

「あら、先ずはお客様にご挨拶ね」
2人の視線が、途端につくしに注がれる。
4つの瞳に凝視され、驚くつくしを余所に、促され2人が挨拶をした。

「じゃあ、牧野さん。またお食事のときに…」
軽く会釈をし、亜弓が2人を奥の部屋へと連れて行く。

残されたのはつくしとあきら。
嵐のようなあっという間の出来事に呆然としていたつくしが、ゆっくりと口を開いた。

「……なんか、あまり変わらないんだね」
「……言うなよ。ま、ようやっと家出られたんだけどな」
「え? 美作さん。ここに住んでないの?」
つくしの問いに、ため息と共に「当たり前だ」と呟く。

「でも…こんなに広い家だし……
それに双子ちゃん。随分亜弓さんに懐いていたんじゃないの?」
「あいつも年の離れた妹が居るから、慣れてるんだろ?
それに…まぁ、色々とあるからな…」

あきらが濁した言葉を、つくしも即座に理解する。
幾ら亜弓の家が世間から見れば富裕層出身とはいえ、美作の家は普通のそれとは大きく異なる。
幾らあきらの母や妹と仲が良いとはいえ、入れ替わり人が出入りする家では、一般家庭と異なる気苦労も多いのだろう。
こういった気遣いは、やはりあきららしいな…と、思う。

「まだ時間があるな…」
「ね。美作さん。やっぱりご迷惑じゃないの?
急にお邪魔したりして…」
「そんなの気にすんな。
今日はお袋も留守だし、あいつ等も寂しがっていたって話だしよ。
こっちだ」

あきらがつくしを促し、リビングへと向かった。




運ばれた紅茶を口にし一息ついた処で、あきらが徐に口を開く。

「……何かあったか…? 総二郎や類と」
「え…?」
「まぁ…別に、言いたくなければ言わなくても良いんだけどな…」
言って手に取ったカップを口に運ぶ。


総二郎と同様あきらも、つくしと類の間柄のことは感づいている。
そして先日、つくしが急に帰った後、総二郎の様子もいつもと異なっていた。
他人の色恋沙汰に口を挟むような真似をするなど、野暮の極み。
言われる迄も無く、そんな事は判っている。
とはいえ、親友達の様子は気に掛かっていた。
目の前で考え混むつくしのことも。

「…総二郎の家も、類の家も…まぁ『普通』とは言えないからな…」
ぽつりと呟くあきらに、どう言おうか考えていたつくしが思わず吹き出す。

「そういう美作さんの家だって、世間一般から言えば『普通』じゃないよ」
「…まぁ、この『状況』はそうだよな…」
ちろりと横目でリビングを見る。

少女趣味に満ちあふれた部屋の中は、以前来た頃のまま。
否、それ以上にパワーアップしているのかもしれない。

「お袋の趣味の事はともかくとして…
うちは多少親が金持っているだけで、他とはそう変わらんよ。
親父の社長職だって、業績次第でいつ総会でつるし上げ食らうか判らないしな」
「…そんな…」

とても『多少』処ではない、と、つくしは思ったが、あきらの言い分も判る。
経営責任を株主から追及されるのは、上場会社の宿命だ。
それに対し、花沢物産や総二郎の茶の世界は、閉鎖的な分トップの影響力は大きい。

「何があったのかは判らんけど、あんまり考え込むな」
「……………」
「牧野は…司の件があるからかもしれないが…」
あきらから出る『司』の言葉に、ぴくりと反応する。


記憶喪失という、どうしようもない事故であっけなく終わった司との恋。
周りへの妨害で、諦めざるを得なかった、類との恋。
そして総二郎からの告白。
様々なものが絡み合い、自分自身の気持ちも定まらないまま。
まるで夢と同じく、深い森を彷徨っているように。

黙り込んだままのつくしに、あきらが言葉を続ける。

「今はまぁ、あの頃程無力じゃ無い。それは、お前もだろ? 牧野」
「……………」
「今の牧野の地位は自力で勝ち取った。俺等だってそうだ。
昔のように、理不尽にやられっぱなしにはならない」
「……美作さん……?」
「類でも総二郎でも…他の誰でもいい。
牧野自身が選んだんなら、俺はそれに協力する。
まぁ…大した力になるかどうかは判らないがな」
何せまだペーペー役員のヒヨッ子扱いだしなぁ…と、軽く戯ける。

「だから、心配するな。牧野」
言って笑うあきらの顔が、涙で滲む。
思わず俯いたつくしの耳元に、類の言葉が甦る。


-顔を上げていろ。牧野。

静かに響いた、類の声。
深い森の先、求め、振り返ったその人の姿は…?


-うん…もう、大丈夫…



「ありがとう、美作さん」
慌てて涙を拭うと、顔を上げ、正面に座るあきらに微笑んだ。


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