Comedy

Comedy 8話 lemmmon






こんな事ありえねぇ...
あまりの衝撃に俺は思考能力が停止しただけじゃなく身体が固まって動けなくなってしまった...



この日大学に来た俺は真っ先に牧野の姿を探した。
三条との会話で牧野の初めてを類に取られちまったと思った時はショックが半端なかった。
勘違いと知った時はホッとしたが、明らかに上から見下したような類の態度にこのまま黙ってなんていられねぇ。
ただでさえ牧野は類に弱え。類の顔がドストライクらしく類が笑っただけで何でも許しちまう。でもって類もそれを分かってて使い分けてるんだから、そりゃ一歩も百歩もリードするだろうよ。
だがな、最後に笑うのはこの俺様だ。
牧野はこの俺様が惚れた唯一の女、お前らも惚れちまうのは分からなくもねぇが俺様がお前らを出し抜かせるなんてありえねぇんだよ。本気になった俺を知らねえお前らじゃねぇだろーが。

そんな風に苛立ちながら牧野を探すと、誰かと話している牧野の姿を見つけた。
誰だ?と話している奴を観察すると服装からして清掃員らしい。これから俺が牧野とイチャイチャするんだから邪魔すんじゃねーと内心毒づく。
「もうね、勘弁して欲しいのよ。今月入ってもう3回よ。ったく誰だか知らないけど小便器に出すモンじゃないでしょうに。」
ふん、小便器を汚した奴がいるのか。ババアそんな事牧野に言ってどうする?
ってそうか牧野は掃除のバイトもしてたな。ならこのババアともバイト繋がりなのか?
そう俺は牧野とババアの関係を考えていた。
「大きい方をされてたんですか?信じられない...」
「違うわよ~、そっちじゃないわ。大でも小でもない方よ。ほら、ゴニョゴニョゴニョ...」
掃除のババアが牧野に耳打ちした。俺はなぜか嫌な予感がしたため、サッと物陰に隠れ2人の会話を盗み聞きする事にした。
「え..えっ?な、なな、なんで、あ、いや、え...大学でそんな事する人がいるんですか?」
「牧野ちゃん...いるから(小便器が)汚れてるのよ。まぁ、大学生って事はそういう...盛ってんのかなー?」
「盛って...ですか?...ありえない。」
牧野が絶句してやがる。サカッテ...坂ってか?トイレに傾斜がついてるとこなんてあるのか?俺は2人の会話が読めてなかった。
「でも不思議なのよね~」
「何がですか?」
「ん、汚れてたのが(小便器の)結構上の方なの。いくら盛って出したからってあそこに飛ぶかしら?相当大柄なのか、それとも台か何かに登っていたずらでもしてたのかしら?」
「いたずらですか?」
「そう。白っぽかったからアレだと思ったけどいたずらと考えたら、ひょっとしてアレでもないのかもしれないと思えてもきた。」
「ええ~」
俺は思考がピタリと停止した。白っぽくて、サカッテ小便器を汚すとなれば...
やべぇ、変な汗が出てきやがった。
俺は牧野達に気づかれないように後ずさりする。2人が話している小便器の汚れの正体にようやく気づいたからだ。
「いたずらだとしたら貼り紙なり何かして注意した方がいいんじゃないですか?」
「そうよねぇ...今度あったらそうしてみようかしら?今のところ私の担当の時にだけあるのよ。他でもあるなら悪質だし、やっぱり黙っている訳にはいかないわね。後で私が怒られちゃうわ。」
貼り紙だと?!そんな事されてたまるか!!
動揺した俺は転びそうになり慌てて壁に手をつき掌を擦りむいてしまった。
「痛え...」
「あれ?誰かいるの?」
!!!
牧野の声に俺は見つからないように植木の元へとダイブする。ガサッと音をたててしまい俺の心臓はF1エンジン並みの高速ピストン運動をしてやがる。

「いたとしても返事なんかしないわよ。」
「そうですね。」
「それにこんなとこで話す内容じゃないわね。」
「うっ、そうですよね。」
「って、話始めたのは私だった...」
「あは。そうですよ~...さん...」

牧野達の声が遠くなっても俺はすぐには起き上がらなかった。
いや、起き上がれなかった。
類が牧野に言うとは思わねぇ。あいつはそれを利用しようとする奴だ。牧野を手に入れるため俺の弱みは最大限に利用するだろう。
まて...弱み?
この俺様に弱みだと?
信じられねぇ...信じられねぇが、俺の今の状況を見れば認めざるを得ねぇ。
牧野に俺が小便器を汚した犯人だと知られないように俺は身を隠した。
...だが、待てよ。
あの会話で牧野とババアは小便器を汚した犯人を分かってなかった。いたずらかもしれねぇと思ってたな。なら、いたずらだったって書いとけば良いんじゃねぇの?そうだぜ。それで一件落着だ。

俺はガバッと立ち上がり、ダッシュでトイレへと走って行った。俺とすれ違った奴らが何事かと驚いて道を開ける。俺は葉っぱや土を被っている事に気づかなかった。

先日使用したトイレに到着し、メモを残そうと辺りを見回す。
だが鏡に映る自分の姿を見てようやく頭の葉っぱやシャツの泥汚れに気づいた。
ささっと身だしなみを整え、メモを張らずに鏡にメモれば良いと気づく。鏡に写った自分の泥汚れに腹が立つ。早くメモって着替えなければ。
辺りをうかがうと、バケツやらモップやらが置いてあるドアがあった。奥の方に何やら細々としたものまで置いてあるようだ。この中にマジックが置いてあるかもしれねぇと、俺が中に入るとドアが勝手に閉じた。
狭い個室にモップと同居している事にイラっとする。だがドアを蹴破ろうかと脚を振り上げた時、誰かが入ってきやがった。
「うわっ、何だこの葉っぱ。それに土まであるぜ。またこのトイレを汚している奴がいるのかよ~」
「また?」
脚を上げたまま再度俺は固まる。
「ああ、このトイレ。先日もそこが汚されてたんだよ。」
「そこって、小便器か?」
「ああ。そこで誰かが抜いたらしくてな。ザーメンがべっとり付いてたんだ。」
「お前、ザーメンって今時使うか?」
「まぁな。」
俺は誰かが入ってきたという身を潜める理由が変わったのを意識した。今度は全身から汗が吹き出してきやがる。
「...って、じゃ何か?大学のトイレでオナった奴がいるのか?」
「オナるって何だよ。お前こそ死語を使ってんじゃねぇか。ま、けどそういう事だろ?」
「大学でねぇ...学内を出るまで待てなかったのかよ。つうか学内で勃たせるか普通?」
「どっかにそういう場所があるのかもな。それだと...この近くか?女子更衣室なんてねぇし...あ、ひょっとしてこの中でやってたのかもな。」
「ここでか?なら中に出しゃいいだろうが。」
「女にかかっちまうだろ。」
「あ、そうか。」
入ってきた奴らの会話を盗み聞きする。○スターベーションから○ックスに変わった事で俺の怒りは多少収まった。この際実際どうだったかは関係ねぇ。
「どんな奴がトイレに連れ込んでやったかは知らねぇけど、外部生だろうな。内部生だったらトイレなんて使わないだろ。高級ホテルをカラオケボックス代わりに使うような奴らばっかりだからな。」
「まぁな。」
どうやらこいつらは外部生らしい。会話の雰囲気からするとトイレでの○ックスにあまり嫌悪感が感じられねぇ。誤解からとはいえ、トイレでやるなんざ俺にはありえねぇ事だ。牧野とやる時はメープルのスィートかもしくは俺の部屋。そんくれーの舞台を用意するのが男の役目だろ。
「F4とかは特にそうなんだろうな。」
ピクリと反応する。だがここで俺達が出てくるのは仕方ねぇ。ここの内部生の代表っつったら俺達以外ありえねぇからだ。
シャーとこいつらの用足しの音が耳に届き苛つく。だが怒鳴る事も出来やしねぇ。こいつら黙ってるくれーだったら早くここを出ていきやがれ!
「...偶然かもしれないし、気のせいかもしれないけどよ...」
だがそいつらのひとりが話し始める。
何だ?こいつは何を言いよどんでいるんだ?
「こないだ、そのここが汚された日とは別の日なんだけどさ、F4のリーダー...道明寺司を見かけたんだ。」
!!!!!
「ああ、それで?」
そうだ。それでどーした?!
「あの人さ、デケェじゃん。その、体格じゃなくてあっちの方。」
「...まぁな。」
俺はまた変な汗をかき始めた。
「ちょうど、すれ違った時真横から見たんだ。」
「勃ってた...か?」
こいつらの会話が途切れる。
おい、返事をしろ。勃ってねぇって言えよ。言いやがれ!
「そっか...ま、生理現象だし。あの人だって勃つよな。」
しかし俺の願いは脆くも崩される。
マジか?俺は隠せてなかったのか...
「あの道明寺司を勃たせるって事はよっぽど良い女なんだろーな。」
「ああ、そうに違いないぜ。」
おう、そうだ。その通りだせ。
牧野は世界一の女だ。
なんせこの俺様に飛び蹴りを食らわしたんだからよ。
って、そんな事はどーでもいい。
俺の股間(沽券)はガタガタじゃねえか!!!

そいつらが出て行って、俺はようやくモップから解放された。
だがあまりの衝撃に頭が働かねぇ。
今の今まで俺は勃つ事にそこまで羞恥はなかった。むしろ牧野にだけ反応する自分が誇らしかった。
だが、このままじゃダメだ。
牧野にだけ反応するのは良いが、反応し過ぎだ。反応するのは牧野とベッドインする時だけに限定しなければとようやく結論付ける。
こうしちゃいられねぇ!



「遅え!」
邸の部屋で踏ん反り返る。
大学を出る時に呼んでいたにも関わらずこのおっさんは俺様を30分も待たせやがった。
「も、申し訳ございません。司様。して今日はどの辺が具合悪いのでしょうか?」
「あ?具合なんて悪くねぇよ。」
「は?あ、では私は何故呼ばれたのでしょうか?」
ぽかんと馬鹿面しやがって、お前本当に道明寺家のかかりつけ医か?
役に立たなさそうだな。て、立たなかったら首切るまでだがよ。
「用があるから呼んだんじゃねーか。おい、勃起を止めるためにはどうすりゃいい?」
「は?ぼっ...き、ですか?」
「おう、そうだ。惚れた女に会ったら勃起しちまうんだよ。ベッドでなら構わねぇが、大学でもどこかしこでもだ。俺の股間に関わるんだよ!」
(注:沽券...もういちいち訂正しません。)
「そ、そうですね。確かにどこかしこでも勃起されるのは問題です。え、惚れた女性とありますが、その何人くらいいらっしゃるのですか?」
「何人だあ?ひとりに決まってるじゃねーか!」
「ひいっ。す、すみません。そうですね。おひとり、おひとりですよね。惚れた女性ですからね。」
「お前は何人にも惚れるのか?ケッ、医者なのに節操ねぇな。」
「いっ、いいえ。そのような事はございません。わ、私めもひとりの妻を惚れ抜いてございます。」
道明寺家にかかる医師なので某大学病院のエリート医師なのだが、いかんせん彼はまだ重役でなかったため若造の司に圧倒される。
「なら、変な事言うんじゃねーよ。で、どうすりゃいいんだ?」
「そうでございますね。おひとりと勃起の対象が限定されるのであれば、その方を避けられるのが一番かと...」
「あーあぁ?避けるだあ?んな事したら牧野をあいつらに掻っ攫われちまうじゃねーか!」
「ひいっっ...す、すみません。そうですよね。司様の想い人でしたら他の御曹司達も黙ってなんてないですね。し、失言して申し訳ありません。」
「おう、気をつけろ。」
横柄な態度を取る司。こいつ使えねぇと見下しスマホを取ろうと胸ポケットに手を伸ばす。
だがそこはエリート医師、ヤバそうな空気を察し瞬時に解決策をフル回転で弾き出した。
「つ、司様。勃起障害を止める方法はいくつかあります。」
「...で?」
司はソファに踏ん反り返ったまま顎をしゃくり先を促す。
「コホン。根本的な解決方はペニスへの血流を抑制する方法です。し、しかし、司様はまだお若い。血流を抑制するという事は血管を塞ぐ事になります。一度塞いだ血管を開通させる事は出来ませんので、そうしてしまえばその方といざとなった時でも開通させる事は出来ません。」
「ならどーするんだ?確かに俺は今勃起を止めたいと言ったが、ずっとって訳じゃねぇ。そいつと今すぐベッドインしたい欲望もある。勃起のコントロールをするための薬とかねぇのかよ。バイアグラとかあったよな。あれはどうなんだ?」
「ば、バイアグラは勃起を増強させる薬剤でして、司様の場合ですと逆に状態を悪化させてしまいます。」
「チッ。逆の薬はねぇのかよ...」
その問いに医師は口を開かなかった。厳密には無い事もないが、医療者としてのモラルに反する事だったからだ。
しかし、このまま黙っている訳にもいかない。目の前の御曹司を納得させなければ自分の身は現状を維持出来ないであろう事は重々に理解していた。
「そこで、提案がございます。」
何かに意を決したように医師は口を開いた。それは自分の専門分野外である事から自信を持って答えられない不安からでもあった。
御曹司の顔が面接官、いや地獄の門番の閻魔大王に見える。エリート医師の脚は小刻みに震えていた。

「いいだろう。試してみるぜ。おもしれぇ...」



後日邸に別の医師がやって来た。
その医師は少し変わった経歴の持ち主だった。そのため、極悪顔した司を目の前にしてもエリート医師のように震えてはいなかった。
「それでは早速かけていきます。...と言いたいのですが、まずはどの程度なのか見せて頂けますか?」
「見せる?何をだ。」
「その女性を見て勃起する様子です。催眠術をかけた前後の変化を証明するためです。」
そうこの医師、心療内科の医師なのだが同時に催眠療法の研究もしていて司の勃起障害を催眠術を使って解決しようと呼ばれたのであった。
「なるほどな。」
その医師は司にヌード写真を提示した。今人気のあるお色気系の女性タレントのヌードだった。
だが当然司は反応しない。
ならばと今度はつくしに似た体型の女性のヌードを提示した。が、これも反応無しだった。
「ふむ。単純に好みという訳ではないんですね。」
「当たり前だろ。本来俺は女嫌いなんだ。あいつはそんな俺を惚れさせたんだ。他の奴の裸見たくれーで勃起するかよ。」
「ならばその方の写真はありますか?服を着ているもので構いません。」
「着てねぇのを持ってたら見せねぇよ。」
「はは、そうでしょうね。」
その答えに医師はキラリと目を光らせる。司の心の診療はすでに始まっていた。
司はスマホを取り出しパスワードを何度か打ち込む。どうやらつくしの画像を何重にも鍵かけているらしい。
「これだ。これが俺の女だ。」
実際はまだ司の彼女ではない。だが司にとっては決定事項なのだ。
「ほう。可愛らしい方ですね。大きな瞳が印象深い。」
「まぁな。」
つくしを褒められ気分を良くする司。だがすぐに牽制する事に気づく。
「惚れんじゃねーぞ。」
「心得ております。」
ニコリと返す医師。この時点で司の診断はほぼ確定していた。
「それではこの写真を見て思い描いて下さい。彼女は今ベッドであなたを待っております。あなたを見つけて目を潤ませている。」
その瞬間、音を立てたかのように司の股間が盛り上がった。
想像以上の反応に医師は口元の感情を隠せない。
「お見事です。」
「あ?」
「いえ、訴えの通りですね。それでは、始めましょう。」
「勃ったままだぞ?」
「構いません。落ち着かせられますから。」
そう言って医師は司をソファに深く座らせた。
眠りを誘うような口調で暗示をかけていく。
ものの数分で司は身体から力を抜かれ、盛り上がった股間も静かになった。

「3.2.1…パチンッ。はいっOKです。これでかかりました。もう勃たないはずです。」
ハッとする司。だが自身に何の変化があったようにも思えず、医師に食ってかかる。
「何も変わってねぇぞ?」
「そんな事はありません。もう一度スマホの写真をご覧になって下さい。」
司は医師を睨みならがら再びスマホのロックを解除し、ベッドにいるつくしの姿を思い描く。
だがいくら司の頭にいるつくしが迫ってきても股間は反応せず、盛り上がる事はなかった。
「マジだ。おいおい、こりゃマジもんだぜ。お前スゲエな。」
司の感嘆の声は喜びに満ちていた。
医師も当然とばかりに頷く。そして医師は司に催眠術を解く方法を伝えた。
「そんなんで解けるのか。」
「はい。このキーワードと状況ですと意中の女性と深い仲だという事を意味します。司様の勃起状況には最適ではないでしょうか?」
「ああ。最適だ...てか最高だぜ。」
興奮する司を見てやや怪訝な表情で医師は注意事項を言い渡す。
「しかし司様。分かっていると思いますが、その女性が解除を実行しない限り司様は勃起しえません。つまりそれまで司様は女性と交わる事は出来ないという事になります。」
「あ?...なるほど、確かにそうだな。
フッ、上等じゃねーか。俺にとっての女はあいつだけだ。あいつが手に入らなければ嫌いな女と交わる事なんてそもそもねぇ。大した事じゃねーよ。」
この医師は司が童貞とまでは思ってなかった。だから司が深刻度を理解しているようには思えなかった。
だがここで説明しても当の司は受け取る気もなさそうだ。
という事はその深刻な事態にならねば事態は変えられないという事。医師はこの申し送りを最重要案件として報告せねばと理解した。
「ふっふっふっふ...これであいつらを出し抜けるぜ。牧野は俺の女になったも同然だ。あーっはっはっはっはっはー」
え?という表情の医師。意中の女性は彼女ではないのかとこの時になってようやく理解する。
たら...と冷や汗をかく医師をよそに司の高笑いはしばらく続くのであった。
拍手ありがとうございます♪
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