Comedy

Comedy 9話 あきらの場合 やこ






●もしもあきらと結ばれたら…


「牧野…俺はお前が好きだ」
「美作さん…」

牧野は照れくさそうに目を伏せた。
表情は見えないが明らかに頬は赤く染まっている。
俺がゆっくりと右手を差し出すと、牧野はためらいがちに俺の手を握りしめた。

やった!

水族館デートはプチ潔癖な俺の惨敗。
牧野に触れることすらできずに家に帰って双子とお袋に『臭い』と言われる屈辱を味わうことになるし、言葉にはしないが使用人の口もヒクついてたのを俺は見逃さなかった。

『美作あきら』『臭い』

この世で一番似合わない言葉の組み合わせだ。

牧野と付き合うなんてほぼないんじゃないか、やっぱり俺には不毛な不倫が似合うのかもしれないと思い始めていたわけだが、密かに奴らとのデートを尾行していた俺は、あのザマなら俺なんかまだマシなんじゃないかと思っていたりもした。

「俺でいいのか?」
「美作さんがいいの…」

おい読者、聞いたか?

牧野が俺がいいと言っている…。

今にも踊り出しそうな俺は何とか堪えて牧野を抱きしめた。

「うぐっ」
「うおっ」

どうやらあまりの嬉しさに牧野を抱きしめる力加減を間違えたようで、牧野が色気ゼロの声を上げた。

そうだな、これが牧野だ。

色気なんかベッド以外のお前には必要ない。
あ、でもベッドの中でも色気とは無縁かもしれないな…。
でもそのままでいい。
そのままのお前が俺は好きなんだ…。

「牧野…」
「美作さん…」

牧野との距離30cm。
小等部の時にいつも机の中に入っていた竹尺と同じ長さだ。

そう言えばあの竹尺で昔、仮面ライダーごっこの末間違って司の頭に直撃、ブチ切れられて大変な目に遭ったな…。
確かあの時は仮面ライダーが司で敵のボスが総二郎だった。類はただ見てるだけで、余った俺はショッカー役。今考えても屈辱だ。

ハッ

俺は牧野とキスする直前になんてことを考えているんだ?
目を三角にして俺を睨みつけ『オマエはイーだけ言ってりゃいいんだよ!』と毒づくチビ司を頭の中から追い払い、距離を更に縮めてみる。

その距離20cm。
そういやお袋がストウブのココットを16cmにするか20cmにするかで朝から大騒ぎしてたが結局決まったのか?特注のストウブでとびきり美味しいビーフシチューを作るんだとルンルンだった。

ハッ

ちょっと待て。
何故牧野とキスする直前にお袋が…。
ブリッブリの洋服で微笑むお袋を頭の中から追っ払うと更に唇を近づける。

ついに10cm。
もう吐息も届く距離。ここまでくればこっちのものだ。
俺は万歳したくなる衝動をなんとか堪えて5㎝・3㎝と距離を縮めていった。

フガッ

ん?

間もなく触れようかというときに、何やら色気のない音が。
するともう少しで俺のものになるところだった牧野の唇は消え

「はっくしょんっ!!!」

さすが牧野。
いろんな意味で簡単には俺をすんなり許してはくれないようだ。

燃えるぜ…。


***


「ったく、なんであきらなんだよ」

総二郎がつまらなそうに俺に言った。
当たり前だろ。
牧野は利口だ。
今は牧野一筋かもしれないが、いつ女好きの病気が再発するかわからない男を選ぶわけがない。

「牧野もバカだよね。あきらと付き合って何が楽しいのかな」

類。
お前だけには言われたくない。
終始ボーっとした付き合いなど牧野に我慢できるわけがない。

「ふんっ、あきら。絶対にまだ手を出すなよ。オレが奪い取ってやるからな」

いい加減諦めろ司。
お前にフラフラしていた牧野はどうかしてたとしか思えない。
先ずはお前がマトモな人間になってからリベンジするがいい…。

ああ、なんという心地よさ…。

親友4人がひとりの女を奪い合い、誰かひとりが勝利するという壮絶すぎる戦いの後でも、俺たち4人の絆は変わらない…。

「お前なんか絶交だ!もうオレの前に現われるなっ!」
「あきらと一緒にいるのがめんどくさいよ…」
「牧野みたいなアホをゲットして浮かれてるあきらとか超ウケる」

ん?

俺たちの絆は変わらないはずでは…?

「あきら脱退後のF4はどうする?和也はもう勘弁しろよ」
「和也?誰だそのちんちくりんは」
「ちんちくりんってことは一応和也を認識してんだね、司…」

まて、F4は美作あきらがいてこその4人だろ?
懐かし過ぎる類と和也のチェンジなんて、読者もすっかり忘れた設定だろ?

「ま、まてよ。俺たち4人でF4だろ?」
「その通りだあきら!4人だからF4なわけだし、別に誰かを入れなくても3人でやればいいじゃねーか」

総二郎…

女ひとりで破綻する友情なんて脆いもんだな。
それも仕方ない。それに見合うだけの女を手に入れたんだ、ある程度の犠牲は我慢するか。
学園内での俺の評判は地に落ちるかもしれないが、そんなものは気にならないしな。


***


チュ…

よし、キスはゲットした。
これからゆっくり牧野を開発…いや愛を深めて行けばいい。
焦る必要はない。ゆっくり…ゆっくりだ…。

そんな風に思っていた。

ところが思った以上に牧野が積極的で、キスの後も俺から離れない。

無理はするな、と言いつつもいろいろ男の事情もあるから考えものだ。

「美作さんって、なんか細くて短いイメージ…」
「は?」

ま、牧野…?
このタイミングで細くて短いってどういうことだよ。
やっぱアレのことだよな?

ムクムクと起き上がりかけていた俺の息子は大人しくなった。

「そうだな、そうかもしれないな…。でもそれ、今言うことか?」
「ごめんね…でも大切なことだよ。あたし耐えられないかもしれない…」
「?!」

牧野はバージンだよな?
そりゃ司と比べたら細くて短いと言われても仕方ないかもしれないが、初めてでいきなりそれかよ…?

「そ、そうか…?」
「あたし、美作さんを軽い気持ちで受け入れたわけじゃないの。一生を共にするつもりで今、ここにいるんだ。道明寺は太くて長いって感じだけど、美作さんは細くて短かそうであたし心配だよ…」

し、心配?!
そりゃ心配してくれるのは有り難いが、よく考えれば余計なお世話だ。

「でもな、牧野なら細くて短いほうが何かといいんじゃないか?」
「なによそれ、ちょっと失礼ね」

いや、どちらかと言えば失礼なことを言っているのはお前のほうで…。

「とにかく美作さんには太く長くいてもらわないと!鍛えるから覚悟してね!!」

き、鍛えるだと?
ずいぶん勇ましい言葉だが、鍛えて変わるものなんだろうか?
司みたいに巨根じゃないが、それなりに気に入ってるし困ったこともない。

「やっぱ誰にも知られないほうがいいよね?」
「何が?」
「鍛えてるとこ、人に見られたくないよね?」

当たり前だろ!

なんで俺が密かに息子を鍛えてるところを他人にご披露しなきゃならないんだ?

「道具とかそういうのはあたしも調べて用意するからさ、美作さんは自主トレして!」

じ、自主トレだと!?
そこまでしなきゃならないのか?


……

弟が待っているから今日は帰ると家を出た牧野を見送ったあと、俺は少し放心状態で牧野の心配する意味を考えていた。


……

本気だな?牧野。
それなら俺も…。


***


スマホを操作して片っ端から購入ボタンを押した。
中には詐欺まがいの商品もあったが、司並みの巨根を手に入れるために背に腹は代えられない。

ん?

っていうか牧野。
お前はやっぱり司とヤッたのか?
致してしまっていたのか??
そりゃあの巨大なのが初めてともなれば俺のなんて物足りないのもいいとこだろうが、司と致してましたとは聞いてないぞ。

「坊ちゃま、牧野様が見えられましたよ」
「そ、そうか…通してくれ…」

使用人がそう言うと俺は辛うじて返事をした。
司と致したなどとは聞いてない。
他の男と比べるとはなんたることか。

彼氏だし、これくらいは言っておくべきだろう?

俺は一度息を吸い、部屋に牧野が入ってきた時にどう物申すかだけをイメージした。
いやちょっと待て。
こんなマル秘商品に囲まれていては説得力もあったもんじゃない。

ガサゴソとマル秘商品を部屋の隅に寄せていると

ガチャ

「美作さん❤こんにちは!きたよ♪」

満面の笑みを浮かべた牧野が段ボールを抱えて入って来た。
あの箱…もしかしなくても絶対にマル秘商品だな…。
どんな顔してどこで仕入れてきたんだ?

「お前…そんなもんどこで仕入れてきたんだよ…恥ずかしくもなく…」
「え?別に普通にネットで買ったんだけど…ダメだった?」

恥ずかしげもなく言う牧野にだんだん腹が立ってきた。

「俺のプライドとかも少しは考えてくれ!」
「え、そ、そんなつもり…」
「じゃあどんなつもりで細くて短いとか言ったんだ!そりゃ司に比べたら俺は貧相かもしれないが、そんなこと聞かされる俺の身にもなってみろ!」
「ご、ごめんなさい…あたしそんなつもり全然なくて…美作さんには本当に太く…」
「それが余計だって言ってるんだ!俺のアレを見たこともないくせによくもそんなことが言えるよな!」

もう俺も引けない。
少し乱暴だとは思ったが牧野のもってきた箱を力任せに蹴飛ばした。

ガツン!

元々大した強度もなかった箱が崩れて中の商品が見えた。

「こ、これは…」
「え…なにこれ…?」

その時の牧野はといえば、部屋の隅に避難しており俺が急いで隅に寄せたマル秘商品と対面していた。

「もしかして美作さん…」

俺が蹴飛ばし中身が露わになった商品…それは今流行のシックスパ〇ドなるもの。

一方牧野が信じられない目で眺めているモノが、数えきれないくらいあるアレを鍛える商品の数々。そこにはあからさまに『ペ〇ス増強グッズ』『マル秘サプリメント』などというものばかり。

「美作さん、なんでこんないかがわしいものがここに大量にあるわけ?」
「なんでって…お前が細くて短いとかいうから鍛えようと…」
「あたしが言ったのはそういうことじゃない!!!」
「ほかにどういう意味が…」
「家業のこともあるし、道明寺なんかに比べて華奢だから、もっと体を鍛えないと長生きできないんじゃないかと思って…ずっと一緒にいたいと思う人が細く短い人生なんて嫌だもの…」
「な、なんだと?!細く短いというのは俺のアレのことじゃないのか?」
「そんなの見たことないしっ!変態っ!!」
「司が太く長いってのも見てきたから言えるもんだと…」
「なんであたしが道明寺のそんなもん見れるのよ!」
「初めては司だったんじゃ…」
「んなわけないでしょ!あたしは処女だよっ!!

屋敷中に聞こえるような大声で叫んだ牧野は、自分の発言に我に返り部屋を飛び出して行った。

呆然とその場に立っていることしかできない俺の横にはいつの間にか双子が寄り添っていた。

「お兄ちゃま、お姉ちゃまどうなさったの?」
「喧嘩なさったの?」
「あ…ああ、ちょっとだけな。心配しなくていいよ」

少し悲しそうな表情で俺を見つめていた双子は、『心配ない』という言葉に安心したようで、パッと表情が明るくなった。

「「よかった~」」

双子の機嫌を直すのは簡単だが、牧野はそうはいかない。

「お兄ちゃま、仲直りするにはこれよ!」
「そうそう、このご本に書いてあるしね」

そう言って双子が俺に手渡したもの…


『カノジョも喜ぶ快感トレーニング』


「ほら、ヨロコブって書いてあるわよ、お兄ちゃま」
「そうそう、この間習ったばかりだもの、私たちにも読めた!」
「ところで”喜ぶ”のはなんと読むの?」
「あ、それ私も気になったの!」

覚えなくていい、双子よ。
俺はいろんな意味で頭が痛かった。
拍手ありがとうございます♪
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