Comedy

Comedy 10話 総二郎の場合 やこ






●もしも総二郎と結ばれたら…


「牧野、俺と付き合おうぜ」

二度失敗して以来、もはやトラウマになりつつある本気の告白。
女に愛を囁くなんて挨拶程度の簡単なものだったはずなのに、本気で惚れた女にはこのザマだ。
プレイボーイなんて名ばかりだ。

超ふざけたF4クジ引きデート。

他の3人の時はこっそり尾行していたりする。
この俺が他人のデートに尾行だぜ?
本気度が窺えるだろ?読者たち。
あのアホらしいデートを見て俺は勝ちを確信したぜ。

そして回ってきた俺の番。

なんだあのデートは。
あんなのデートと言えねぇだろ?

下着屋から出てきて『これは!』と思えばコスプレ用だし、陶芸デートはガキに邪魔されやっとのことで告れば牧野は寝てる。
普通単車の後ろに乗って寝るか?間違いなく死ぬぜ?
今度こそと思って再度挑めばお袋に告るという失態。

寝てしまった、までは仕方ない。
だがお袋に告るくらい恥ずかしいものはない。

ところがチャンスは意外に早くやってきた。
何も告白シーンを無理に作り出す必要なんてなかったんだよな。
現に今告白をしてOKの返事をもらった場所は普通のカフェ。
しかもどうでもいいような会話の中で自然な形で口から出た。

―俺と付き合おうぜ―
―うん…―

俺はテーブルに1万円札をバンと置くと、牧野の手を握って店を出た。


***


今日は牧野が寝てもいいようにツーシーターのスポーツカー。
ついいつものクセが出てカッコ付けてミッション車を選んでしまったのだが以前オンナを乗せたとき、ギアチェンジのたびにシフトノブに重ねた手に力が入りゾクゾクすると好評だったことを思い出す。

あれは確かマキちゃんだったな…。

おっとヤバイ。
本命のオンナとのデートで他の女の名前を思い出すとは。しかも相手は牧野とマキちゃん。
これは気を付けねーとな。

「ねぇ西門さん、どこに行くの?」

マキちゃん、いや牧野(クソっ、ややこしいな)

「ん?気持ちいいとこ?」
「なんか西門さんが言うとなんでもエッチに聞こえるよね」
「失礼なことを言うなよ」

どうでもいい会話だが、本気で好きな女との会話だと何もかも充実しているな…。
今日の俺、人生で一番充実しているかもしんねー…。

とはいえ勢いで店を出てしまったものの、決まった行き先はない。
これがどうでもいい女ならホテルに直行というところだろうが、まさかコイツをホテルに連れて行くわけにもいかないしな。せっかく手に入れた女をドン引きさせるほど俺もバカじゃない。

「なあ、マキちゃんはどこか行きたいところある?」
「マキ…ちゃん?」

ハッ

マズイ、これは絶対にマズイ。
俺としたことが痛恨のミスだ!

「ま、牧野だからマキ…ちゃん、可愛いだろ?」
「そう?なんか逆に気持ち悪いな、西門さんにそんな風に言われると15股のひとりみたいでなんかイヤだな。実は『つくしちゃん』って呼ばれるのも痒くなるのよね」

ぐっ

お見通しかよ牧野。しかも15じゃねぇ、正確には13だ。
そして痒くなるな。
お前肝心なところで敏感になるなよ。敏感になるところはこれから俺が…。

「どこでもいいよ、って言ったらどうせ西門さんホテルに行くとか言うんでしょ?」
「さすがにそれは…」
「あたし、それでもかまわないよ。西門さんの手を取るって決めたときに覚悟はしたから」

ま、マジかよ牧野!?

女にここまで言わせておいて、期待を裏切るわけにはいかねーよな?
据え膳食わぬは…って言葉がこの時ばかりは恨めしい。

「そこんとこは置いといて、とりあえずそろそろ飯にしねー?俺腹ペコだわ。そのあとのことは焦らず行こうぜ」
「うん…」

なんとか切り抜けたな。
牧野も顔を赤くして俯いてる。
俺としたことが何たる失態だ…。よくこのピンチを脱出したな、マジで。


***


スマートにエスコートするなら慣れてる場所がいいよな。
牧野の服装もドレスコード的にはOKだし、ホテルのレストランで夜景を見ながらってオーソドックスな感じがいいだろう。

ホテルのエントランスで車を降りると、牧野の手を取りそのまま最上階のレストランへ。エレベーターには俺たちふたり。
防犯カメラはあるがとりあえず気にしない。

牧野を抱きしめキスをすると、グニャリ、とまではいかないまでも牧野の体の力が抜けるのを感じた。
いかん、これじゃいつもと変わりないじゃねーか。

健全に…健全に…だ!

チンという音とともに扉が開くと、レストランのフロントの先へ進む。

「いらっしゃいませ西門様。いつものお席でよろしいでしょうか?」
「いつもの?」
「あ、兄貴と嫁さんとかと…よく来るんだよ」
「ふーん」

兄貴の嫁さんなんて会ったこともない…。
しかもこの俺が、変な汗をかくなんて…ここのウエイター、司じゃないがクビにしてやりてぇ…。

案内されたのは当然『いつもの席』

「西門様、いつものワインをお持ちしてもよろしいでしょうか?」

ちらりと牧野を見ると気にしていないようにも見える。

「お水はいつものFILLICOで…」
「お料理はいつもご注文いただいているシェフのおまかせで、いつものタイミングで…」

マ、マジでうぜぇ…。
ここまで来ると牧野の顔もロクに見られねーじゃねーか…。

下を向いたと見せかけてチラリと牧野を見るが特に変わった様子はない。
だ、大丈夫…か…?

慣れた場所でスマートにエスコートなんて思った俺がバカだった!
なんなら牧野に合わせてファミレスとかファーストフード店とかでよかったんじゃないかとさえ思い始めている。

「西門様、デザートはいつものミル「牧野!デザート食ったあとどっか行きたいとこあるか?」フィーユで…」

もうこうなったら品位も何もあったもんじゃねぇ。
ウエイターのウザ発言連発に耐えかねた俺は、強引に遮って、牧野に話かけた。

「うーん、特にないかな…って言うといつもの部屋に連れて行かれちゃうわけ?」

俺が完全に牧野を手に入れるためには、相当な改心が必要なことだけはわかった。
マイナスからのスタート…拷問だな。
拍手ありがとうございます♪
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