駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 46

第46話



亜弓や絵夢、芽夢も交え、久しぶりに賑やかな夕食。
あきら達はそのまま邸に泊まるという。
つくしにも泊まっていけと言うのを、翌日仕事があるから…と断る。
その申し出にはすんなり応じたあきらだったが、そのまま帰す訳には行かないと、当然のように車を用意する。
必死に固辞するつくしだったが、あきらの他に女性3名に押し切られ、車に乗せられていた。

自宅のハイツ前まで車を付けて貰った運転手に礼を述べ、部屋に戻る。
一息ついた処で鞄から携帯を取り出した。






「悪い。遅くなった」
「ううん。ごめんね、西門さん。忙しいときに」

連絡をした3日後の土曜の夜。
茶会準備で忙しい総二郎が、どうにかひねり出した僅かな時間。
待ち合わせに指定したのは、総二郎行きつけの店。
奥の個室で所在なげにしていたつくしの前に現れ、悠然とした仕草で目の前に座り足を組むと、つくしに向かい声を掛ける。

「で…お誘いがあったって事は、聞かせて貰えるんだろ?」

いつも通りの口調で尋ねる総二郎に、つくしが何とも言えない表情を浮かべる。
その様子をみた総二郎の眉が、ほんの僅かに動いた。

「…あのね…西門さん…」
「…………断る理由は何だ? 牧野」
「え…?」

言おうとした内容そのままの言葉を先に言われ、唖然とする。
そんなつくしを余所に、総二郎が独り言のように言葉を続けた。

「『根っからの遊び人で最低』『こんな人だと思わなかった』
…いつも言われるのはこんな処か…?」
「……西門さん……?」
「…そういえば牧野にも昔、現場を見られたことがあったな…
あん時は何だったっけ…?」
総二郎が自虐気味に笑いながら、もう忘れたな…と呟く。


総二郎の言葉通り、以前、ずっと昔。それこそあの英徳時代に一度だけ、総二郎の別れの現場に遭遇したことがあった。
何やら女性が総二郎に罵詈雑言と平手を浴びせる。
端から見ていたつくしは驚いたものだが、当の総二郎は慣れているのか平然としたまま。
悠然とした笑みを浮かべ、その場を去って行く。

あの時は『エロ門、遊び人』と思ったものだ。
だがこの場になって気付く。
これが総二郎らしい、判りにくい優しさだと。
総二郎と別れる女性が、自分のことなどさっさと忘れるようにするための芝居。

「……ど……して…?」
「そりゃあ、つくしチャン。経験が違うよ。経験が。俺を誰だと思ってる?」

口角を上げ、業と明るく軽い雰囲気で話す。
だが、今のつくしには判る。
見つめるその目が言っているのだから。

-心配するな。お前の言葉を聞いても、俺は傷付かないから、と。

「…西門さんは…さ」

声が掠れて、上手く話せない。

「……本当に遊び人で……女の人なら誰でも良くて……女の敵で……」
「………お前、何気に言うねぇ………」
半ば呆れたように総二郎が呟く。

「……本当に…こんなこと続けてると、いつか後ろから刺されるって思うよ………」
「へーへー…。まぁ、そうだろうなぁ…」

つくしから出る散々な言葉も、軽く受け流す。
そんな総二郎の態度が、酷く優しいものに見える。
この人の手を取る事ができれば、どんなに良かった事だろう。

「………ごめんね。西門さん。西門さんのこと、嫌いじゃ無いけど…」
つくしが言い淀む。

総二郎に対する気持ちは、恋愛感情では無い。
会いたいという思いだけで海を渡った司のときとは、ひんやりとした類の手に、柔らかく抱かれたときとは異なる。

友情。
それもひとつの愛情の形かもしれない。
でも、つくしが真に求めるのは、それではない。
今まで心の奥底に沈め、気付かないふりをしていたけれど。


「ごめんなさい。西門さん」

もう一度同じ言葉を繰り返しながら、泣きそうになるのを必死で堪える。
泣いてはいけない。
『涙は女の武器』
そんなものを使うのは、目の前の男に対して失礼だ。
総二郎が自らの負担を軽くしてくれようというなら、自分もそうするべきなのだから。


つくしの言葉に、総二郎が一瞬驚いたように目を見開き、次の瞬間、その目元が緩む。

「…だから、そんな顔をするなって言ったろ…?」

総二郎が柔らかく、つくしに向かって微笑んだ。


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