駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 47

第47話



ビルが建ち並ぶオフィス街。
その中のひとつの前に、つくしが降り立つ。
建物内部に入る前にぴたりと立ち止まり、大きく深呼吸をする。
小さく「よし…」と呟くと、背筋を伸ばして中に入る。
入り口直ぐにある受付に向かうと、女性社員が立ち上がり一礼をした。
ご用件は? と尋ねる社員に軽く会釈をして口を開く。

「本日14時にお約束をしておりました。弁護士の牧野です」



明和製薬に電話をし、ゲオルグ・リートミュラーの名と、所有する薬品の製造権に関して簡単に告げると、つくしが予想したより簡単に、アポイントメントが取れた。

行く日が決まった時点で、類に連絡を入れる。
最初はつくし一人で行く、というのは、事前打ち合わせで決めたことだった。


『本当に俺が行かなくていいの?』
約束を取り付けた後、類に電話をすると返ってきたのがこの言葉。


最初、類は同行するつもりでいた。
それを断ったのはつくしである。

「花沢類…ゲオルグさんの意向としては、明和製薬が非を認め、謝罪をすることだよね?
決して、明和製薬を買収したい訳じゃ無い。…そうよね?」
つくしの言葉に類が頷く。

「ならば花沢類はあくまで『ゲオルグさんの代理人』に徹した方がいい。
『花沢』の名前が最初から出てくると…少なからず相手が警戒するから。
先ずは私だけで行って、様子を見た方がいいと思う」
「…相手が相手だし、簡単に非を認めないよ」

類の言う事は至極当然。
自社製品の非を認めると言う事は、それまで使用してきたすべての補償をしなければならないのだから。
簡単に応じるとは、つくしも思えない。

「そうだろうね。
でも、最初から争うつもりで行ったら、纏まるものも纏まらない。
相手の出方を見て…厳しそうだったら、誰の依頼かを話すよ」

つくしの言葉に、その時の類は納得したものの、いざ行く段階でもう一度尋ねる。

「…大丈夫。何とか裁判には持ち込まないようにするから…」
『…製薬会社ははクレームに慣れて居る。変にクレーマーだと思われたら、早めに俺の名前を出した方がいい』
「うん。判った」
『…任せたよ。牧野』

-任せた。
まるで類の背中を預けられたかのような言葉。
そっけないその一言が、強くつくしの心に響く。

「判った。任せて」

短く告げると電話を切った。




つくしからの電話を切った類は、先頃移動した社長室のソファに無造作に座る。
先日からの激務で身体は疲れていたが、つくしからの電話のお陰だろうか?
気分はそれ程萎えてはいない。
それでも肉体は正直で、座った途端全身に疲労が襲って来る。
次の仕事までの空きは30分程。
行儀が悪いと思いつつ、足を肘掛けに上げ、ごろりと横になると軽く目を閉じた。


-任せて。
その一言に集約された、つくしの思い。

つくしの弁護士としての姿勢が垣間見える言葉に、知らず笑みが浮かぶ。
今回の目的は、相手を負かすことではなく、『事実』を認めて貰うこと。
ゲオルグは、それまで明和製薬が得た利益の返還など求めていなかった。
依頼者の真の目的。それをつくしは掴んでいる。
経験や知名度では表せない、つくし自身の資質。

アークの弁護士に任せたのなら、恐らく『勝つ』ことは出来るだろう。
だがそれは、ゲオルグの望んだ『結果』ではない。
只単に明和製薬のミスを責め、ゲオルグの利権を誇示し、新薬の認可とその専売特許を花沢製薬に、と、言い出すに決まっている。

経営者として、花沢物産の社長としての類なら、それで正解なのだろう。
でもこれは…


『ルイ。君が本当に望む未来を歩んで欲しい』

穏やかだが、力強い言葉。
臨終を迎える身体の何処に、そんな力があったのだろう。

「…ああ…そうするよ…。ゲオルグ…」

うっすらと目を開け、誰にともなく呟く。
しばしそのままで居た類だが、決心をしたように起き上がると、テーブルに放って置かれたスマートフォンを手にする。
慣れた所作で目的の番号を探し、耳に当てる。
数コールの後、相手が出た。


「…花沢です。先日の件ですが…仰る通り進めて下さい」

類の言葉に迷いは無かった。


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