最終話Rui

🌷Romance 最終話 類 3話 team Rui

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類が渡仏した後も、つくしは変わらず『まき乃』で毎日働いていた。
宮内は森山の曾孫とわかったつくしのSPとして今までと同じく『まき乃』を手伝い、リフォームされた店の中には馴染みの二人の姿があった。


そんな『まき乃』で必死に働くつくしだったが、一つのおかずを分け合う仲の良いカップルの姿を見ると、心は締め付けられるように苦しくなった。

それはここにはいない類の事を嫌でも思い出してしまうからだ。
つくしが自分で日本に残ると決めた事でも、気持ちは簡単に割り切れる物ではなかった。
メールは毎日欠かさず行っており、パソコンを使えばテレビ電話だって出来る。
けれどああやって手を触れ合う事は出来ない。
類の香りを感じる事もない。
それがどんなに寂しい事なのか、つくしは身をもって実感していた。


「どうしました?」
つくしが黙ったまま考えに耽っていたので、心配した宮内が話しかけてきた。
「……あ、ごめんなさい」

「大丈夫ですか? お疲れでしたら、部屋で休みますか? もうピークも過ぎてますし」
「大丈夫です。……そういえば朝、引っ越し業者を見かけたんですが、上の部屋へ誰か越してくるんですかね?」
つくしは心配かけまいと、わざと明るく振舞って話題を変えた。

このビルはつくし名義だが管理は森山に任せたままなので、詳しい事は何も知らされていなかった。
「そういえば空き部屋がありましたね。引っ越しの挨拶にでも来られるとわかるんじゃないでしょうか」
「そうですよね。とにかく今は目の前の仕事ですね」
気合いを入れ直したつくしは、そう言って食洗器に食器を入れていった。




その日の夜。
つくしの住む部屋のインターホンが鳴り、出て見るとそこには引っ越し蕎麦を持って車椅子に乗った森山の姿。
「おじいちゃん!?」
「つくしが寂しがっていると宮内に聞いてな。引っ越してきたぞ」

類と離れて暮らすつくしの気が少しでも紛れればという大義名分の元、森山は空き部屋へ越してきた。
本音は今まで過ごせなかった可愛い曾孫との時間を取り戻したいだけだったのだが、つくしはその事に気付かず素直に喜んだ。
森山の身の回りの事は他の者がしてくれる手筈になっていたが、自分に出来る事があるなら……とつくしはお世話を買って出た。

一緒に食事をしたり、車いすを押して散歩をしたり……入浴介助をして背中を流してあげたりもした。


その話を聞いて一人納得いかないのは類である。


『爺さんばっかりつくしに会えて狡い。俺も早く帰りたくなる』
『我が儘言っちゃ駄目だよ? 大事なお仕事にちゃんと集中してね。私も類に負けないよう頑張るから!! 』


*

夫婦間の連絡はマメで他愛ないもの。
だが、すぐに『寂しい』と口にする類を励ます為にも、つくしからの愚痴は一切言わないと心に決めていた。

─あと少し…ううん、あたしは3年のつもりで、頑張らなきゃ…

寂しい気持ちに固く蓋をして、類の渡仏から既に1年半が過ぎたある日の事。

今日は珍しく宮内が私用で遅れるとの連絡を受け、つくしはいつもより早めに1人開店準備に取り掛かる。

と、


─ガラッ

「あっ、すみません! まだお店は準備中...... えっ」

これは夢だろうか
そこにいたのは、紛れもなく…


「仕事終わったよ。つくしのご飯、食べさせてくれる? 」


…っ!!!

「類っ!!」

慌てて駆け寄る足が僅かにもつれる。

「なんでっ、ねぇ! どうして...」
「クスッ、プロジェクトは成功。本当は1週間前に帰国は決まってたんだけどね。 奥様を驚かせたくて」

キラキラしたビー玉の瞳
懐かしい柑橘系の香りに
耳元を柔らかく擽る、愛しくて優しい笑い声...

─帰国、って…!!

あまりの驚きと喜びにつくしは上手く言葉も出ずに

「…類、少し痩せた?」
「まぁね… でも、つくしも…」

大きな掌が妻の頬を包み込み、互いの瞳の中に愛しい伴侶を映しながら、類がふわりとつくしを抱き締める。

「ただいま、つくし」
「グスッ…お帰りなさい、類っ!」




その時
控えめな腹の虫がキュルリと鳴いた。


「えっ//?? あたし、じゃ、無いよね?」
「ハハッ、うん。お腹空いちゃったみたい。離れてる間に、似た者夫婦になっちゃった。」
「ええっ// あっ、でもまだ準備中でちゃんとしたものは…」
「いいよ。つくしの作るものなら、何でもご馳走だし」

...///!!

いちいち反則なんだから//...

とかなんとか… 愛しい独り言を呟きながらも、つくしは類の為に早速動き出した。


やがて…


「ごめん!とりあえず急ぎだと、こんなものしか出来なくて...」

まるで初めて恋人に手料理を食べさせるかのように、おずおずとカウンター越しに差し出されたのは、お日様色の玉子焼き。
ホカホカと湯気の立つだし巻き玉子を前に、類はまるで宝物を見つけた子どものように大事そうに箸を入れる。


「これ、久し振り… いただきます」

相変わらず上品な仕草で、嬉しそうに一切れをそっと口に運ぶと


「ん…美味し、凄く…」

目の前に今、愛しい男の笑顔がある。

それだけでもう胸が一杯で…つくしは居ても立ってもいられなかった。

「あの... 隣に行ってもいい?」
「クスッ、勿論」

その返事を待ち兼ねたように、妻はいそいそと夫の隣に腰掛けた。


「…ホントに美味しい?」
「うん。ご馳走だもん」
「またっ!もう、冗談ばっかり…」

照れ隠しに言うものの、にやける頬は抑えきれず。
いつでも極上のご馳走を食べられる筈のこの男が、何より自分の手料理を一番に喜んでくれるのは、解りすぎる程解っているから…




「…ねぇ、そんなに見られると食べ辛いんだけど」

「だってまだ夢みたいで… 本物の類だ、って、ちゃんと確かめたくて…」

口にした途端、頬を染め見上げる漆黒の瞳から
ついに涙が一粒溢れた。

と、突然、おもむろに箸を置く類に

「何? …どうしたの?」


「そんなに可愛い事言われたら、我慢出来なくなる」

「えっ」
「早く… つくしも食べたい」

「…っ////! …類のばか///...」

だが言葉とは裏腹に、つくしからそっと類に寄り添えば

「クスッ…ホントは寂しかった?」
「当たり前だよ//… だって声だけじゃ、物足りないもん//...」

離れた距離と時間を経て、ずっと我慢してきた気持ちが
今、素直に溢れて...

類はただ、そんなありのままのつくしの全てを
優しく受け止めてくれる。


「奇遇だね… やっぱ俺達、似た者夫婦かも」


─うん。やっぱり、大好き...


見つめ合い笑い合って、ただ其処に”あなた”がいるという事───
願えばすぐ側に類の温もりを感じられる。
それは当たり前の、けれど唯一無二の幸せで…


「類、もう…何処にも行かない//?」

「ん… ずっと此処にいるよ。お前の側に…」



トクン…

喜びに胸が高鳴り、つくしはそっと瞼を閉じれば


「…愛してる」


待ちわびていた優しい唇が、帰るべき場所へと静かに舞い降りた。
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