駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 48

第48話



応接室に通されて直ぐ、先方担当者が2名入って来る。
一人は年齢が40歳前後。
名刺には総務と書かれており、外部トラブルに対応する者らしい。
もう一人はそれより更に年上。
短く切りそろえられた髪の毛は殆ど白くなっている。
会社研究所の管理者で、製薬発売に関わった人物でもあるという。

名刺交換が終わり、つくしが本題を切り出した。

「ご連絡したとおり、今回は、ゲオルグ・リートミュラー氏…
その代理人の方からのご依頼です。
35年前、御社で発売されたこちらの薬についてです」

資料を机に置くと、目の前の男
-特に研究者である年配の男の方の顔が嶮しくなる。

「…開発者のリートミュラー氏は、この薬の発売の差し止めと、謝罪を進言なさったそうですね?」
「牧野先生は何か誤解をされているようですね。
確かにリートミュラー氏は当時、弊社でこの薬の開発に携わっていた…と、記録にはあります。
とはいえ、この薬に関する権利は弊社にある。
それを、いち社員が自らの権利を主張されても…」
「薬の権利そのものを論じている訳ではございません」

先方の意図を察したつくしが先回りをして言葉を止めさせる。


明和製薬側には、この薬に関して二重の『後ろめたさ』がある。
ひとつは、ゲオルグの研究成果を奪い、自らのものとして権利所有すること。
ひとつは、その効果が世間一般で言われるより遙かに少ないこと。
そしてそれを隠していること。
『ゲオルグの代理人』という時点で、つくしは前者の
-所有権を取り戻しに来たのだと思っている。
客観的に見れば、そう捉えるのが自然の流れだろう。

つくしの目的は『それ』ではない。
余計なことで、本来の目的前に話が分裂するのは避けなければならない。

「薬に関する権利は、御社にある。
…それは、依頼人も充分に存じております」
つくしの言葉に安堵の表情を見せる担当者達。

「今回お伺いしたのは、リートミュラー氏が進言された件についてです。
先にご送付した書類で判る通り、御社の製薬は…残念ながら当初の期待値程、効力は得られておりませんね」
「…それは…確かに、弊社の製薬は『万人に効く』という訳ではございません。
尤もこれは、すべての薬品に対して言える事だと思いますが…?」

自社製品に対するクレームに慣れて居るのだろう。
若い男の方がすらすらと答える。

「仰ることは判ります。
ですが、御社が公表されているデータと、あまりにかけ離れている。
これでは…使用する患者側は誤解をしてしまいます。
リートミュラー氏もその辺りのことを懸念され、訂正と謝罪を進言されたのでしょう」

慎重に言葉を選びながら口を開く。

今回の話を進めるため、つくしには幾つか『切り札』とも言えるカードが用意されている。

ゲオルグの代理人が、花沢類であること。
現在発売されている製薬より効果のある、新薬の処方箋がこちらにあること。
ゲオルグ本人の謝罪文があり、それを一般公表する意思があること。

そしてもうひとつ。
今日、ここに来る前に類から言われたひとつの提案。


明和製薬は現在、M&A(企業買収)を仕掛けられているという。
日本では老舗と言われる製薬会社。
病院や医療機器メーカーとの関わりは深い。
それを狙った外資系製薬会社の日本法人が、その牙城を手中に収めるために行われているもの。

類が淡々とした口調で言う。
ひとつの不祥事が会社の弱体化を招き、そこにハゲタカたちは忍び寄って来る。
だからこそ今、簡単に自らの非を認めたがらないだろう、と。

ところが類はこの状況を逆手に取り、明和製薬が謝罪をしたのなら、花沢物産が明和製薬のホワイトナイト(有効的第三者)になるという。
役員の反発はあるかもしれないが、今類は株式の2/3を所有する筆頭株主。
製薬部門の強化を理由に、推し進められるという。


この切り札は、使い方次第ではすんなり話が纏まる。
だが、一歩間違えれば即、裁判沙汰だ。
どのタイミングで出すべきか…?

相手がどう答えるべきか考えあぐねるのを見て、つくしが最初の切り札を使う。

「…実は、代理人の方はリートミュラー氏の謝罪文を預かっております」
「…え…?」
驚いたような視線をつくしに向ける。

「ご存じかもしれませんが…リートミュラー氏は昨年ご他界されております。
ですが、この製薬発売に関わった一人として、この件を気に掛けており…
リートミュラー氏ご自身にも責任がある。そう仰ったそうです」
「それは…」

年配の男の方に迷いが見える。
リートミュラーとも面識があるというから、その人となりが判っているのだろう。

「ですから、御社もどうか誠意ある対応を。そう依頼人の方は仰っております」

つくしが軽く頭を下げる。
流れがこちらに向かいかけたとき、若い男の方が口を開く。

「お話は判りました。ですが牧野先生。そのお話、何処まで信じて良い物か…。
否、先生を疑う訳ではございませんが…」

相手は未だ疑心暗鬼。それは致し方が無い。
何しろつくしはこの中で誰よりも若く、まだ実績も少ない。
その若い弁護士を代理人としてここに寄越すのは、一体誰なのか?
気に掛かるのは当然とも言える。

「依頼人の方の名を伏せていたのは…要らぬ誤解を招くのを防ぐ為です」

そこまで言うと、一端息を整える。
もう1枚のカードも切らねばなるまい。


「今回の依頼人は…花沢物産新社長、花沢類氏です」


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