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もうひとつの“コンチェルト”

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こちらのお話は、拙宅1stにて連載をしておりました『コンチェルト』のアナザーストーリーとなります。
1st番外編『「STILL LOVE HER (失われた風景)」』の類ver.の続きです。
(お気に入り登録の方限定記事となります)
そのため本編コンチェルトと異なり、こちらは司×つくしとなります。
…とはいえ、司もつくしも殆ど出て来ませんが…(^^;)

宜しければ、続きよりどうぞ…<(_ _)>





今回のイメージ曲 マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ 間奏曲』です。
貼付けに問題がある場合には、撤去致しますのでご連絡下さい。







日本屈指の高級ホテル、メープルのチャペルで、ひとつの挙式が行われようとしていた。
静かに流れる、ヴァイオリンのメロディ。
絢爛豪華なウェディングドレス姿に身を包む女性は、この上なく美しい。
笑顔でヴァージンロードを歩く花嫁と共に一歩ずつ歩く父親
-司の表情は、娘とは対照的に口をへの字に曲げたままだ。

-昨日、あれほどお願いしたのに…。仕方がないな…。
薫は思わずくすりと笑う。

一歩、また一歩と歩く先に、夫となる陽樹が白いタキシードを着て待っている。
父親であるあきらに似た、柔らかい笑顔。
その先、祭壇の横で優雅にヴァイオリンを弾くのは、今や世界的ヴァイオリニストとなった類。
薫がずっとずっと、憧れ続けた相手。



初めて類のことを知ったのはいつだっただろうか?
母親であるつくしの元に送られた、1枚のCD。
コンクールで優勝した類のデビューアルバムであるそれは、最後に1曲、他に売られているのには入っていない曲が追加されていた。

“カヴァレリア・ルスティカーナ 間奏曲”

イタリアの作曲家、マスカーニが作ったオペラ間奏曲。
これを聴くたび「昔、非常階段でよく聴いた」と、つくしが眼を細めて呟く。
スピーカーから流れ出すのは繊細で切ない、けれど何処か懐かしいメロディ。
夢中で聴き入ったそれを演奏していたのが“花沢類”だと、初めて知った。

その“花沢類”と出会ったのは、もう少し後。
ニューヨークのカーネギーホールで行われた、類のコンサートの後のこと。
華やかなレセプションの中、父である司と握手をする、ひとりの男性。
柔らかな茶色の髪と不可思議な瞳を持つ、司の親友だというその人は、薫の姿を見ると何処か懐かしそうに微笑む。

「はじめまして」

そう言って薫の頭を撫でた類に、一目で心を打ち抜かれた。

レセプションの中で請われた類は、人々の前でヴァイオリンを披露する。
それはとてもダイナミックで、それでいて繊細な、類らしい音色。
その響きにすっかり虜になった薫は、思わず口にする。

「あたしもヴァイオリンやる。やりたい」


突然の娘の願いに、何かを感じた司は僅かに眉間に皺を寄せた。
その司をつくしが宥め、「やるからには直ぐ『やめた』は駄目だよ」と言い聞かせられ、手渡されたヴァイオリン。

類のような音色が最初から出せる筈も無く、投げ出しそうになるのを堪え、必死に練習を続けた。
類の演奏があると聞けば、司の眉間の皺が深くなるのも気にせず、世界中何処にだって足を運び聴きに行った。
成長と共にヴァイオリンのサイズも変わり、酷かった音色は自身同様、段々と美しいものに変化して行く。
そんな中、薫には気付いたことがあった。


見目麗しく才能のある類は、パーティであれほど人目を惹くというのに、誰かをエスコートすることは無かった。
元々社交的ではなく、大のパーティ嫌いというのもあって、自ら進んで参加しようとはしないのだが、中には断れないものもある。
その際、どうしてもパートナーが必要な席では、類の従兄だという人の妻が代理を務めていた。

「あたしが大きくなったら、あたしをエスコートしてね」

薫がそう告げると、類はそれには応えずふっと笑い、ポンポンと頭を撫でるだけ。
それは、大人になった今でも変わらない。

そして、どんなに頼まれても“カヴァレリア・ルスティカーナ”を人前で演奏することは無かった。
誰かに言われても、何だかんだ理由をつけてはぐらかしてしまう。
一度だけつくしが「前はあんなに弾いてくれたのに」と告げると、類は「そうだっけ…」と言葉を濁す。



最初は判らなかった。
何故、類がずっと一人で居るのか。
何故、誰とも踊らず、誰のこともエスコートをしないのか。
そして、どんなに頼んでも、あの“思い出の曲”を弾いてくれないのか。

柔らかく、相手を慈しむような眼でつくしを包む、ビー玉のような瞳。
そこに宿る色が、薫が類を見つめる眼と似ていると気付いたときに、初めて判ってしまった。
類が、どんな想いを抱えてヴァイオリンを弾いているのかということに。

そして知った。
只、相手の幸せだけを願う。
そんな穏やかで静かな愛情もあるということに。


敵わない。
あんな眼を類にさせる、母、つくしには。

叶わない。
あんな風につくしを愛する類に、想いを告げることは。

初めて抱いた恋心は、その想いを告げることのないまま、薫の内側に残り続けた。




やがて月日は流れ、薫にも幾つかの出会いと別れが訪れた。
そのなかのひとり、幼馴染である陽樹との結婚式前日。
司と共に訪れたのは、武家屋敷のような類の自宅。
突然の訪問にやや驚いた類が2人を招き入れる。

「お願いがあるの」

そう言って類の袖を引っ張る薫と引っ張られる類を、司はやはり眉間に皺を寄せて見送る。
司の姿が見えなくなり、それでも安心できずにきょろきょろと周囲を見回す。
誰も居ないのを確認したところで、こそこそっと類に耳打ちをした。


「…どうかな…? …だめ…?」
つくし譲りの黒い瞳が、類を真っ直ぐに見つめる。

「………いいよ………」
薫の言葉に、類は柔らかく頷いた。




司と薫の歩調に合わせるように、流れ出す懐かしいメロディ。
子供の頃から何度も何度も繰り返し聴いた“カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲”
初めて聴く、柔らかくも切ない類の音。
ベールの下の瞳に、暖かい涙が一筋流れる。

祭壇の前で司と陽樹が礼をする。
薫の手が司から陽樹に移される僅かな時間。
ほんと一瞬だけ、祭壇横の類と眼が合う。
憧れ続けたビー玉の瞳は、何処までも柔らかく薫を見つめていた。

『貴方を好きになって良かったよ。ありがとう。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・』

最後の呟きは声にはならない。
だが類には届いたかのようで、照れたように微笑む。
ずっとそう呼んでみたかった6文字。
薫も向日葵のような笑顔を向けた。



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「いいの? 行かなくて?」
式を終え、参列者からのライスシャワーを受ける二人をやや離れ処から眺める司に、類が声を掛ける。

「……ハン……。なにが目出度いもんか……」
ぽつりと呟かれた本音に、類が喉を鳴らす。

「でもまぁ…一発は殴ったんでしょ?」
「……二発だ……」

『あと三発は殴りたかったのに』とぶつぶつ呟く言葉に、司の拳をそんなに受けたら死にそうだと思ったのだが、敢えて口にはしない。

「これからが大変だね。ハルは」
「あったり前だ。薫を不幸にしてみろ。
ボコボコにするなんてもんじゃ済まねぇからな!」
「…ん…。それは判る…」
「…なんでお前が判るんだよ」

ちょって待て、とばかりに向き直る司に、爆弾を投下する。

「薫は俺にとっても娘みたいなもんだし…。昨日、キスもされたし…」
「きっ…キスだとーっ!!」

司が瞬間湯沸し器のように真っ赤になって怒りだすのだが、類は飄々としたまま。聞こえないように「頬にだけど…」と呟く。

「おいっ! どういうことだよ! 類っ!」
「んー? 司の子供になりそこねたってことかな…?」
「なにぃ!」
「ちょっとー! 二人でなに騒いでるのよー!
写真撮るよー!」

端から見れば漫才のような二人のやりとりに、つくしが笑顔で声を掛ける。

「ん…。今行く…」
「おい! 待て類! 話は終わってねぇぞっ!」

賑やかな声が青空の下、いつまでも響き渡っていた。



-もうひとつのコンチェルト fin-








はい、何を突然…と思ったのですが、久々のコンチェルト。しかもアナザーストーリーです。
実は前に書きかけのまま残っておりまして…。
Googleドキュメントを整理していたら出て来たのですよね…。
実は今年、中学時代部活の顧問だった恩師が退職され、夏にチェロのコンサートを開きました。
久々に聴く生のチェロは素敵でした(^^)♪
↑恐らくはそれに触発されて書いたものの、イマイチ纏まらなくて放置していたのではないのかな…? と…(^^;)
1stの方で久々にコンチェルト番外編を書きましたので、じゃあ…と、書き上げてUPしてみました。

以前、『STILL LOVE HER (失われた風景)』のときにも書きましたが、こちらの類は早めにソリストとなり、メジャーデビューをしております。
本編の類と、どちらが幸せなのか?
それは、ここでも読者の皆様の判断に委ねたいと思います。

皆様、どのようなクリスマスをお過ごしでしょうか?
私は…相変わらずですね…はい(^^;)
どうぞ素敵なクリスマスを!


拍手ありがとうございます♪
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