駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 4

第4話



それからは緩やかではあるものの、確実に変わっていく関係。

『花沢類』から『類』に、『牧野』から『つくし』に呼び名が変わる頃、類が一足先に大学を卒業する。
とはいえ、高校の時と同様、類は卒業式にもプロムにも出ない。


「……いいの? 行かなくても?」
「……いい。面倒」
言って類の部屋に置かれたラグマットに横になる。

ベッドとテレビ以外無い、殺風景だった類の部屋はつくしのためにラグマットとクッション、
それに勉強するためのテーブルが置かれている。
類が横になる隣につくしが座り、開いた参考書と格闘中だ。

つくしは既に大学での単位を取り終えており、類同様、大学へは殆ど行かなくても卒業できる。
他の大学生は3年から就職活動で忙しくしているが、つくしは5月の司法試験に向けて勉強をしていた。

『それならば家に来れば? 3食付、必要な書籍は大体揃ってるよ』
そう言いだしたのは類。

大学の図書室にはそれ相応の書籍が揃ってはいるが、
つくしと同様、司法試験を受ける者たちもいるため、欲しいときに貸出中なこともある。

半地下になっている類の家の書斎は、ちょっとした図書館並に揃っており
法規集は、定期的に業者が来て差し換えを行っているため常に最新版が置かれている。

進も大学に進学し彼女も出来たことから、家で食事の用意をすることも少なくなった。
普段、あまり甘えたがらないつくしだが『司法試験が終わるまで』と、類の提案を呑んだ。


ぱたん、と重い書籍を閉じる音がし、類の隣で人が立つ気配にゆっくりと目を開ける。

「…終わった?」
「うん。まだ2ヶ月あるし、あんまり今からとばしすぎると息切れするって」

それは受験経験のある先輩からのアドバイス。
長期戦になる試験勉強は、モチベーション維持が最も重要であり、
毎日コツコツ努力をしつつ、直前期に状態をMAXに持ってくるのが理想型だという。

法規集を返しに行くつくしの手から重い本を奪うと、並んで書斎まで歩く。

「終わったなら食事行こ?」
「え…?」

法規集を棚に戻しつつ、類が言う。
卒業式に出ない類の様子を見に、総二郎達が来ないとも限らない。
その前に邸を抜け出したかった。

手を引かれるまま連れ出され、気付けば類の運転する車の助手席に座っていたつくし。
当初『二度と乗るまい』と決めていた類の運転は、元々カンが良いのか
この数年で見違える程上手くなり、つくしも安心して乗っていられるようになった。
つくしを隣に乗せ、上機嫌な類が連れてきたのは、こぢんまりした和食の店。
最初は首がもげるほど横に振り、入るのを躊躇していたつくしだったが、
個室に入り、見事な器に盛りつけられた懐石料理が出てくると、それを幸せそうに口に運ぶ。
それを見つめる類の瞳。
この数年、つくしの側にあるもの。

手を止め、類の顔を見つめていたつくしに気付き、類が小首を傾げる。

「…疲れた? 具合悪い…?」
心配そうに額に手を伸ばし掛けた類に、まさか『類に見とれていた』とは言えず、途端にアタフタし始める。

「う…ううん。な…何でもない」
「…何か、顔赤い…?」
「そっ…そんなことないよ…!」

ブンブンと、首を横に振る。
何とか話題を逸らそうと、「そうだ…」と類に話しかける。

「大学も卒業だし、もうすぐ類の誕生日でしょ? 何か欲しいものある?
………あ、あんまり高いものは無理だけど……」

つくしの経済状況は類も良く知っているからか、昨年は「つくしの作ったご飯が食べたい」と、
何故か進と3人、自宅で鍋をつついていた。
今年は類の卒業もあり、つくしもある程度バイトを増やし用意しておいたが、何せF4の金銭感覚は『並』とは違う。

つくしの言葉に、類が頷き「あるよ」と答える。

「え…なに…?」
珍しい、と思いつつ、つくしが身を乗り出して尋ねる。
何かを欲しがることが殆どない類が、珍しく言った言葉。
多少の無理をしても、叶えたいと思う。
だが類の返事は、つくしの予想を超えていた。

「つくし」
「…………へ………?」
「つくしが欲しい」

呆然とするつくしにすっと手を伸ばしその頬に触れると、長い繊細な指先で、慈しむように撫でる。

「………駄目………?」
ビー玉のような瞳が、多少不安げにつくしの顔を見つめる。

「……えっと……その……」

類からの視線が気恥ずかしく、思わずきょろきょろと辺りを見回す。
幾ら奥手のつくしとて、類の言う意味が判らない訳ではない。
真っ赤になるつくしの頬を、類が撫で続ける。
ひんやりとした指先が心地良い。

「…………駄目…じゃない………」
とてもではないが真正面を見て言えないつくしが、俯きながら消え入りそうな声で答える。
一瞬驚いた類だが、つくしの頬に触れていた手に力を込め、つくしの顔を上げさせると、
自らも上半身を起こし、つくしに覆い被さるようにキスを落とす。

「る…類…?」
「……すっげー嬉しい……けど…これ以上はやめとく。
…歯止め効かなくなりそうだから」

そう言って今度は頬にキスをし、少し照れたように笑う。
その姿は何処か少年のようで、つられてつくしも笑顔になった。


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