駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 49

第49話
「花沢…物産……?」
「誤解のないよう、申し上げますが…」
相手の驚愕した表情を見て、つくしが咄嗟に言葉を挟む。

「今回の件は花沢氏、個人からの依頼となります。
花沢物産は関係ございません」

そう言いながらも、つくし自身、相手に理解して貰うのは難しいだろうと思う。
目の前の男達は、類の名が出た途端、何事か? 
という表情を見せる。
もしこれが立場が逆で、つくしがそう聞かされたら、全く同じ反応を示すだろう。

総合商社で、日本では間違いなく五指に入る大企業。
系列の関連会社も多く、その中には製薬を扱うものもある。
その頂点に立つ代表者が、自社製薬について謝罪を要求する。

幾ら『個人的なこと』と言っても、簡単に信じては貰えない。
それが今、置かれている類の立場。

「御社の御懸念。それも充分承知しております。
今回の件の責任。
それは同じ製薬会社を有する花沢物産にも…
否、製薬会社全体にあったのだと、痛感されているそうです」
「……ならば……」
言外に、「謝罪は勘弁して欲しい」と訴えかけて来る。

1つのミスは言葉通り「命取り」
幾ら医療関係会社と医療現場の密接な関係あったとしても、これを理由に切られるリスクは高い。

先方の心情は判るが、ここは引き下がる訳にはいかない。

「交換条件…という訳ではございませんが…」
つくしが前置きし、更にカードを見せる。

「御社が決断をして下さる、というのであれば、こちらもそれに充分にお答えする用意がある。
そう、申し使っております」
「…それは…」
「………即答は、厳しい内容かと思います」

担当者達が心を動かしている。
が、この話は、いち担当者の独断で決められる内容では無い。
つくしはそれを見越し、はやる気持ちを抑え、一端は引き下がることにした。

回答期日を10日間と切る。
その前に、類の社長就任パーティがある。
類曰く、明和製薬の社長宛にも招待状は送っているという。
少なからずここで何かのアクションをしてくる筈だ。

「今日の処はこれで失礼致します。
…誠意ある対応を…お願い致します…」

告げるのはつくしを通じた依頼人
-類とゲオルグの真意。
2人の担当者に、深々と一礼をした。





「……ふぅ……」
エントランスを抜け、ビルを出てから大きく息をつく。

弁護士になり、交渉の場に立つのは無論、初めてではないが、流石に今回は緊張した。
つくしの行為は、一歩間違えばクレーマー。
それはつくし自身だけではなく、その依頼をした類も同様に見なされる。
明和製薬のビルから少し離れた処で、類に経過報告の電話を掛ける。
コール音がないまま留守番電話に繋がったということは、会議か何かなのだろう。
完結に経緯を述べると、気を取り直し、次の仕事へ足を向けた。





一方

同じ頃、明和製薬では臨時役員会が行われていた。
メインの話は、現在仕掛けられている企業買収について。
相手の力は大きく、現状単独では太刀打ち出来ない。

水面下ではその対応策が検討されていた。
ゴールデン・パラシュート(※1)、第三者割当増資(※2)、様々な案が出るものの、どれも実用的ではない。
そこで、有効的第三者(ホワイトナイト)として名乗りを上げた企業と、最終段階の打ち合わせに入っていたのである。

その矢先に入った、販売薬品に関する販売差し止めと謝罪の要求。
このままでは折角の話が流れてしまう。

「……この話を進める……ここで社を無くす訳にはいかない」

社長の言葉に、会議室に緊迫感が漂う。
会議を終えた社長が足早に自室へ戻ると、即座に秘書を呼び出す。

「至急、ニューヨークに連絡を取れ」
いつにない緊迫した様子の社長に、秘書は一礼し、直ぐさま仕事に取りかかった。




※1 ゴールデンパラシュート
「黄金の落下傘」の意。
買収後に現取締役が解任されるため、事前に取締役の退職金を高額に設定しておくこと。
買収後の出費が多いことから、買収を思い止まらせる方法。

※2 第三者割当増資
新規に株を発行し、発行済株式総数を上げ、買収する企業の持ち株割合を下げ、買収されないようにする方法。
通常の公募増資と異なり、指定された第三者のみが購入可能。

どちらも短所があり、実用・乱用が難しい方法。
(ウィキペディア 「M&A」参照)


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