駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 50

第50話



会議を終えた類がスマートフォンの電源を入れると、メッセージ預かりを告げる表示が出る。
自室へ移動しながら確認をすると、類の予想通り相手はつくしだった。

明和製薬との交渉内容について、現在の状況を完結に述べる。
ビジネス口調ではあるが、留守電から流れるつくしの声に口元が僅かに緩む。

決裁待ちの書類に目を通すため、自室に入ろうとした類に、第二秘書が来客を通してあることを告げてくる。
類が僅かに眉を顰めた。

「…………誰?」

言いながら田村に視線を移す。
今日、この時間に来客予定は無かった筈。
予定外のアポは基本断ることになっているが、それが出来ない
-つまりはVIP待遇の者が来ているということだろう。
田村の方にも心当たりは無いらしく、やや不思議そうな視線を返す。

「鷹栖取締役のお嬢様です」
一瞬にして緊張感が走る空気感の中、第二秘書が恐る恐る告げる。
その名を聞いた途端、類の不機嫌さが露わになる。

「帰って貰って」
「あの…ですが……」

流石に会社役員の娘。
しかも義理とはいえ社長である類の従姉を、いち社員である秘書が、そう邪険に出来るものではない。

舌打ちしたいのを堪え、自室の扉を開けると、応接用のソファに浅く腰掛ける女性
-鷹栖久子の姿。
ドアの開く音に立ち上がり、類に向けて会釈をする。

「類様。お留守中に失礼しております」
「……帰って……」

それだけ告げると、そこに居る久子など存在しないかのように目の前を通り過ぎ、椅子に座る。
今までの『婚約者候補』であれば、類の冷たい態度に萎縮するか、気分を害したと慌てて立ち去る者ばかり。
だが大手企業のキャリアウーマンとして働く久子は、その程度で動じはしない。
机に向かい書類を手にする類の前に立ち、口を開く。

「今日は叔父様…会長から申し使って参りました。
来週の社長就任パーティ、類様のパートナーを務めさせて頂くことになりました」

一方的に話す久子に、類が書類を見る手を止め視線だけ久子の方へ上げる。

「それだけをお伝えに参りましたの。では、失礼致します」
「…要らない」
軽く一礼するとそのまま部屋を去ろうとする久子に、類が一言声を掛ける。

「要らない…とは?
まさか主催ホスト役が、パートナーなしで参加なさるおつもりですか?」
言外に『ありえない』という態度が見える。

「俺はそのつもりだけど。それともなに?
社長就任発表と一緒に、良からぬことでも言い出すつもり?」
類の言葉に、部屋を出掛けた久子がUターンをする。

「それも…宜しいかもしれませんね」
「やめておけば? 恥かくのはあんただよ」

類の言葉に久子の口角が上がる。

「…そうですわね。
折角の機会、慌ててフイにする真似はしたくありませんから」

過去、功を焦るあまり類の機嫌を損ね、婚約者候補の座から落ちた者達を揶揄する。
類の性格ならば、パートナーと言われる女性が居ても、全く無視することくらい平然と行うことは、知っているのだろう。

淡々とした言葉の応酬。
その場に見えない緊張感が走る。



子供の頃より自らに向けられる多数の目が、何を求めているのか。
多感な類は嫌でも気付た。
否、気付かされていた。

大抵は類の後ろにあるもの
-つまりは『花沢物産』が目的。
類がある程度成長し、他人より多少人目を惹くようになると、類の外観が目的のものも増える。
すべてを取り払った、『花沢類』自身を見てくれた人が、一体何人居ただろうか?

外戚で血縁関係のない、形だけの従姉。
目の前に立つ久子の目的は前者。
だからこそこれまで、悟に倦厭されてきた。

なのに、自らの野心を押さえる事もせず、ここまでこうもあからさまだと、嫌悪感を越え、寧ろ天晴れと言いたくなる。

-そのターゲッドに自分がなっていることは、何を置いても許せないのだが。

類はそれ以上久子を相手にせず、視線を書類に戻す。
久子の方も、ここに居ても無駄だと思ったのか、くるりと方向転換し、部屋を出ていった。



広い社長室に一人きり。
書類にペンを走らせていた類の手が不意に止まる。
そのままペンを置くと肘を付き、俯くような姿勢で目を閉じる。

身体中に走る倦怠感。
ここ最近のオーバーワーク。
それが決して好ましいものではないのは判っていたが、『今』はどうしても動かねばならない。
落ち着かせるように、その姿勢のまま大きく息をする。



『経過で変化がありましたら連絡します。
……花沢類も忙しいと思うけど、あまり無理しないように』

先程の留守電に入っていたつくしのメッセージ。
ビジネス口調の最後に洩れた、類の身を案じる声。

あの頃が今、直接聞きたい。
こんな時は特に。

届かぬ思いを胸に、類はそのまま佇んでいた。


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