駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 51

第51話



夢の中で司は追い掛ける。
これは夢で、現実ではないと判っているのに。
幾ら探しても探しても、求める人は見付からない。
手を伸ばす先に、直ぐ近くにいるというのに…
疲れ、倒れ込み、動けなくなった処で目が覚めた。



目を開けると最近馴染んできた天井の模様。
一瞬自分が何処にいるのか判らなかったが、頭がはっきりするにつれ、ここがマンハッタンにあるマンションの一室であることを思い出す。

2年前閨閥結婚をして以来、ロングアイランドシティにある自宅には戻っていない。
それは形式上、司の妻となっている女も同じであるようで、報告は受けていたが、司はそれを諫めるつもりもなかった。

最初から破綻していた夫婦生活。
それは業務提携解除で決定的になり、現在、離婚調停中だ。
今、司が寝起きするマンショは、ニューヨークに幾つか所有する物件の中で、最近最もよく利用する場所。
ここの存在を知るものは少ない。
余計なパパラッチを避けるにはうってつけだった。

のそりと起き上がりカーテンを開けると、眼下広がる高層ビルの群れ。
朝靄の中に浮かぶ摩天楼。
見慣れた筈の風景に、僅かな違和感を感じる。

-自分が居るべき場所はここではない。ここではなく…

何かが頭の中で問い掛けるのだが、答えはいつも出て来ない。
埒もない考えに苦笑を浮かべる。
そんな考えが浮かぶのは、久しぶりにあの夢を見たせいだろうか?


司が暴漢に襲われ倒れた後、半ば無理矢理ニューヨークへ連れて来られた。
それ以来、司は時折夢を見る。

森の中を『何か』を求めて彷徨う。
『それ』は直ぐ近くにいるというのに、いつも手にする事が出来ない。
目覚めたときには、『それ』が何だったのか?
全く覚えてはいないのだが。


らしくない感傷に耽っていると、無造作に置かれていたスマートフォンが鳴る。
プライベートではない、仕事用のもの。
途端に顔つきがビジネスのものに変わる。

ニューヨークに渡り10年。
体調を崩した父に代わり、大学在学時から仕事をし始めた司。
今では道明寺ホールディングス副社長として、着実な地位を築いていた。
欧州の取引先からの電話に、ニューヨーカー特有の早口英語でまくし立てる。
強気な司の態度に先方が折れた処で電話を切ると、思わず出るため息。
手にしたスマートフォンをベッドに放り投げると、鬱々とした気分を洗い流すべく、シャワールームへと向かった。





「は!? 明和製薬が…!?」
出社した司に、専属秘書となった西田が告げた言葉に、声を荒げる。

「その件は、前川専務に任せている筈だろうがよ…」
苛ただしげに呟く司に動じる事も無く、西田が淡々と言葉を続ける。

「当初の契約では厳しいと言ってきているそうです。
最初は『理由は言えない』の一点張りだったとのことですが、どうにか前川専務が、社長の口を割らせたようです」
「…………で?」
そんな事は当然だと言わんばかりの視線で、先を促す。
西田は少し躊躇する素振りを見せるが、直ぐに取り直し続けた。

「……今回の一件には、花沢物産が絡んでいるようです」
「………花沢物産…? 類んとこが…?」
司が意外そうに声を上げる。


道明寺グループでは現在、明和製薬との新たな業務提携の交渉を行っている。
各国にあるメープルホテルすべてに、ホテル内医院の設置する計画。
日本国内に関しては、道明寺グループ内の医療法人を入れることになっていたが、そこで使われる幾つかの薬品について、明和製薬との独占契約の話が持ち上がっていた。
話はほぼ決まっていた筈なのに、ここに来て先方がごねているという。

「……明和は確か……サイエンシズ社にM&Aを仕掛けられてたな……」

司が思い出すように呟く。
まだ表沙汰にはなっていないが、同じ米国内のサイエンシズ社の動きは、司も把握していた。
それに対抗すべく、国内の別会社との有効的合併の話が出ていたことも。
そこへ花沢からの横やり。
明和の目的は…

「大方うちに合併に加わって、ホワイトナイトにでもなれって言ってきたんだろ?
明和の合併相手だけじゃ、花沢には勝てないからな」
「そのようです。
ですので前川専務が、副社長のご判断を仰ぎたいと仰っております」
「…ハッ…。そんなの無視して、とっとと契約しちまえばいいものを…」

司から嘲笑が洩れる。
メープル側から見れば、製薬が指定した価格で使えるのであればそれが明和製薬でも、サイエンシズ社でも、全く別の会社でも
それこそ花沢物産であっても、問題無い。
価値があるのは『製薬』であって、その『会社』ではないのだから。

「………だが…そうだな……」

椅子に座り足を組んで考え込んだ司が、徐に机の引き出しを開ける。
幾つかの書類の中から取り出す封筒。
親友の、新社長就任記念パーティの招待状。
類が社長に就任することは、
僅かながらも花沢物産の株式を有する司にも事前報告があり、
これを受け取る前から知っていた。
が、仕事が立て込んでおり、正直、行けるか微妙だったため、先方会社側には代理が行く事を告げている。
中を開き、日時を確認する。

「…そういや…来週だったな………」
こつこつと指先で机を弾いていた司が口を開く。


「西田。日程を調整しろ。日本へ行く」


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