駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 52

第52話



受付で招待状を渡し会場内に入ると、中は既にかなりの人で賑わっていた。
その人数と雰囲気に圧倒され、つくしは思わず入るのを躊躇う。

「うわ…なんか凄いですね…」
「本当に…」
つくしの後ろから美和と香取も同様に、ぽかんと口を開けていた。

「流石に花沢物産なだけあって、華やかだね」
志朗は流石に元議員の息子で、現議員の弟。
パーティ慣れしているのか、あまり動じた様子はない。
唖然とするつくし達をさらりと中にエスコートする。


類の社長就任の招待状は、つくしだけでなく天草事務所全員に届いていた。
行くとは言ったものの躊躇していたつくしに、行くよう勧めた志朗である。
理由は以前、類が言っていたものと同じ。
その言葉に説得されこうして来たものの、その規模の大きさに改めて驚かされた。

飲み物を片手に辺りを伺っていると、ふとつくしを呼ぶ声が聞こえる。
振り返った先には、ドレスを着た滋が手を振りながらこちらへ来る処だった。

「つくし~! 良かった。見付かって。あれ? 他は?」
きょろきょろと辺りを見回す姿はコケティッシュではあるものの、パーティ慣れした滋は、場の雰囲気を壊さない。
前がやや短くなっているオレンジ色のドレスは、行動的な滋に似合っている。

「うん。今日は事務所のみんなと来たから、まだ会ってないんだ…」
「あ、シロ先生。先日はお世話になりました」
滋がぺこりと志朗達に一礼する。

それは数週間前。
滋が顧問弁護士と共に相談に来ていた。
志朗と滋の担当弁護士は昔からのが知り合い。
更に相談内容は天草事務所で取り扱ったことのあることから、臨時で仕事を引き受けていた。

「いいえ。こちらこそ。
牧野先生。私たちはちょっと知り合いに挨拶して来るよ」
「あ…じゃあ私も…」

一緒に行こうとするつくしの腕を滋が引っ張る。
総二郎やあきらも来るので、終わった後何処かで仕切り直そうと言うのだ。
どうしようか迷っているつくしに、志朗達も挨拶を済ませたら、適当な処で引き上げるというので、ここで志朗達とは別れることにした。

広い会場内を歩いていると、滋は頻繁に声を掛けられる。
その都度立ち止まり挨拶する滋の顔は、普段のそれとは異なり、やり手社長のものに変わる。
更には隣に立つつくしを、親友で弁護士だと紹介していく。
中には志朗や貴子を知る者もおり、意外と世間は狭いと思わざるを得ない。
そして別れ際には「このご縁で今後ともひとつ…」
「何かございましたら宜しくお願い致します」等々


-企業社長就任パーティなんて、顔を売るには打って付けの場所。
改めて、類の言葉の正しさを知る。
既にそれなりの数、名刺交換をしていた。
自身の手持ちが分が足りるか…と、クラッチバックの中身を案じていると、背後から自分たちを呼ぶ声がする。
顔を向けると、華やかなパーティの中でも、特に華やかな一団。
あきらは優雅に亜弓をエスコートし、総二郎と桜子は周りからの羨望の眼差を当然のように受けながら、こちらに近付いて来た。

「あ、何処に居たの~?」
「とりあえず挨拶回り。総二郎は今来たとこ」
「…さっき京都から帰ってきたばかりだぜ…」
軽く首を回す総二郎と、つくしの視線が合う。

「よう。久しぶり」
「あ…うん。お疲れ様。西門さん」
「全くだよ…もう1月も向こう(京都)だぜ…」

軽くぼやく総二郎は、以前と全く変わりが無い。
総二郎らしいその態度が、つくしには有り難かった。
周りの注目を集めつつ歓談していると、司会者のアナウンスが入る。

「只今より、花沢物産、新社長就任記念式典を開催致します。
先ず、弊社社長、花沢類よりご挨拶申し上げます」

ざわついていた会場が静まりかえる中、類が姿を現した。






パーティ会場になっているホテルのスウィートルーム。
ブラックタイに身を包んだ類は、窮屈そうに首に手をやる。
子供の頃より教育を受け、正装が誰より様になる類だが、堅苦しい服装は根本的に好きではない。
シルクのシャツよりコットンやリネンを、かっちりとしたタキシードより緩やかなニットを好む。
流石に、自らが主催するパーティの席にノータイ出る真似はしないが、今すぐにでも首を絞めるタイを外したくなり、無意識に手が伸びる。

時計に目をやり、ギリギリまで緩めていたタイを絞め直す。
鏡に映る顔は、酷い色をしていた。
出張と会合、間も無く始まる大型プロジェクトの打ち合わせ。
こと、社長就任後は激務に拍車が掛かっていた。
それが『今』の自分にどれ程良くないかは、承知している。
それでもそれを甘んじて受けていたのは、今日のため。
そして…

「…俺が…本当に望む未来は……」
左胸に手を当て、知らず呟いていた。



「社長、お時間です」

第二秘書が部屋に呼びに来ると同時に差し出したのは、真っ赤なポケットチーフ。
恐らくは鷹栖久子のドレスに合わせられたもの。
それを一瞥しただけで手に取ることすらせず、歩き出した類を、一瞬呆然とした第二秘書が、慌てて追い掛けてくる。

「しゃ…社長。これをっ!」
「………いい………」
「ですが」
「………持ってるから………」
「は…?」

きょとんとする第二秘書を手で制し、ポケットチーフを取り出すと胸に挿す。
手触りのいい生地でできたそれは、淡い紫色。
口元を緩めたのはほんの一瞬。
次の瞬間には強い意志を帯びた瞳で、真っ直ぐ前を見据えていた。


関連記事
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする