PSYCHO-PASSⅠ

2周年記念『PSYCHO-PASS(サイコパス)』中編

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現場へと向かうトレーラー内部は、一係室内での賑わいが嘘のように静かだった。
とはいえ現場へ向かう刑事特有の、ピリピリとした雰囲気はない。

適度な緊張感。
そして何処かそれを楽しむ雰囲気を醸し出す、執行官の4名。

つくしが横目でそれを気にしていると、隣に座っていた滋が声を掛けて来た。

「ねぇ、つくしは“SAKURA-COサクラコ”の使い方、知ってる?」
「あっ…はい。一応、警察学校では習いました」

質問に応じながら、確か…と使い方を頭の中で使用方法を思い返す。


滋が言う“SAKURA-CO”は本来、“携帯型心理診断・鎮圧執行システム・ドミネーター”という、ご大層な名前の付いた装置なのだが、いつの間にか警察官の間ではこう呼ばれるようになった。警察のシンボルである旭日章、“桜の代紋”から来ているのだろうと、誰かが言っていた気がする。
眼球スキャンによる生体認証により使用することのできる拳銃で、対象者に標準を合わせると、瞬時に犯罪係数を計測する機能を持っていた。
通常は“犯罪者、潜在犯の勾留”を目的とした麻酔銃。だが対象者の犯罪係数が一定指数を越えたと計測されると、自動で変形し“排除モード”に切り替わる。
そのため使用できるのは、警察官の中でも監視官、執行官に限られており、登録者以外が銃を持つとトリガーがロックされる。また銃を向けた相手の犯罪係数が基準値内である場合も、誤射を避けるためロックが掛かるようになっていた。


「認証されると音声案内が聞こえるから、それの通りにすれば大丈夫だからね。
あっ、他の人には聞こえないから、犯人にバレることはないよ」
「は…はい…」

一応、その辺りのことは講義で習って知っているのだが、実践が初めてのつくしを気遣っているのだろう。
つくしも敢えて指摘もせず、素直に滋のアドバイス耳を傾ける。

「あ…それとね…」

真剣に聞いていたつくしの耳元に口を寄せると、声を潜めて囁いた。

『彼等に向けて撃っちゃ駄目だよ。数値上だと“執行対象者”になるから』
『!!!………はい……』

小さく頷きながら、斜め向かいに座る四人に眼を向ける。

成績優秀者でサイコパス検診が常にクリーンであるエリート監視官と異なり、執行官は基本、“潜在犯”である。

犯罪を理解・予測・解決する能力があると評価されてはいるが、それ故に高い犯罪係数を持っている。まさに『犯罪者の思考は犯罪者が一番良く判る』という訳だ。それら“潜在犯”の中から適性有りと判断された者が、こうして“執行官”として勤務していた。
それ故、彼らの行動は極度に制限されており、監視官同伴のもとでしか外出することすら許されていない。

視線の先に居る四人は、見たところ何ら問題があるようには思えない。寧ろ人目を惹く身長と容姿は、好印象を与える。

これまでつくしの周囲に“潜在犯”は居なかった。当然だ。その為に今つくしが就いている“仕事”があるのだから。
このシビュラシステムが制定された以後に誕生した世代には、防犯意識が極端に薄い。つくしもそのひとりと言っていいだろう。

彼らにつくし達の会話を気にする様子はない。恐らくはいつものことなのか。それぞれ気楽な姿勢で寛ぎ、時折一言二言目、隣のものと口を聞くくらい。

そんなつくしの視線を察したのか。
壁にもたれるようにして眼を閉じていた男が、ぱちりと眼を開けつくしを見つめる。

重なる、視線。
不可思議な色の瞳に、思わずつくしの心臓ははね上がる。
だが相手は直ぐ様視線を逸らすように眼を閉じると、現地に着くまでの短い時間の睡眠を貪っていた。




「ここが現在地。犯人は鈴木太郎。25歳。警察官の職務質問を受けているうちに犯罪係数が上昇。同行を求めたところで規定値オーバー。現在は人質1人を取って逃走中」
「何だよ…ただの小心者か…」「人騒がせな奴だな」
「現在は地下1階部分に潜んでいると思われるけれど、他に逃げ遅れている定員が3名程居るから注意して」
「おいおい…」「…ドジな奴…」

現場に着くなり滋が立体ホログラムを映し状況確認を行うのだが、四人は茶々を入れるばかり。

「ええい、五月蠅いっ!
いい? ここからは二手に別れるから。
つくしは司とルイルイ側面に回って。ニッシーとあきらは私と正面から追うから」
「はっ…はい」
「ええっ。何で俺が滋となんだ」「折角なら新人ちゃんがいい」「お黙りっ!」「………」「………」

まともに返事をしたのはつくしだけ。総二郎とあきらは組み合わせに文句を付け、司と類は黙々とSAKURA-COを手に取る。

「ほらよ。お前のだ」
「あっ…はい」

司に促され、つくしもSAKURA-COを手に取る。途端に緑色の光がつくしの網膜をスキャンした。

『認識番号19751228 牧野つくし監視官。認識致しました。トリガーを解除致しますわ』

コンピュータというより色気のある女の声が頭に響き、思わずアタフタとする。
そんなつくしを待つことなく、司は先へと突っ込んで行ってしまう。

「ちょ…ちょっと…!」
「…………」

司の後を追う類が一瞬立ち止まり『早く来い』とばかりにつくしを見る。
慌てて走り出すと、類もくるりと方向を変え走り出した。



捕獲のため、非常灯以外の電源が落とされた施設内なんとも不気味である。
相手に気付かれないようにするため、足音を忍ばせて走るとどうしても速度は落ちる。だが前を行く二人は慣れているのかかなり早い速度で奥へと進む。男女の違いもあり、少しずつつくしとの間に差が出てきた。

『つ…つか…司…さん、止まって下さい。予定のポイントを過ぎています』
『五月蝿ぇ。正面から騒ぎ起こしてるんだ。犯人はもっと奥へ行くだろうが!』

インカム通信で静止しようとするも、一喝されてしまう。
確かに人の存在を表す反応は、予定ポイントには見えない。

現場は常に変動する。
あれほど講義で行ったというのに、いざとなると身体も頭も働かない。
なのに、目の前の男達は息をするように簡単にそれを行う。
慌てて速度を早めると、二人は何もない場所に立っていた。

「どうし…」「シッ…」

類がつくしの言葉を制する。しぃんと静まりかえる、真っ暗な空間。
『人の気配がする…』司とは異なる声がインカムに響いた。思わず手にしたSAKURA-COを構える。

こつこつという足音のする方へ銃口を構える。が、現れたのは若い女が二人。服は切り刻まれ、腕や足からは血が流れてはいたが、どうやら掠っただけのようで致命傷ではない。つくしがほっと息をつく。

「…た…たすけて…」「警察です。救助に…」「伏せろ」「…え…?」

つくしが振り返る間もなく、打ち込まれる二発の電磁波。
どさり。
助けを求めた女達の身体が前方に傾ぐ。
慌てて後ろを振り返ると、司と類が女に向けて銃を発射したところだった。


「な…なにをっ…!」
「馬鹿野郎! 自分のSAKURA-COを見てみろ!」

司の怒鳴り声に、今倒れた女にSAKURA-COの照準を合わせる。
聞こえてくるナビゲートの声。

『犯罪係数125 執行対象者。勾留完了しておりますわ』
「そん…。…だからって…この人達は保護しなくてはいけない人なのに…」
「犯罪は連鎖するんだよ。警察学校のエリートなら、そのくらい習ってるだろ!」
「そ…それは…」
「………」

司が尚も怒鳴り、類は無言のまま銃を下ろす。
丁度インカムから滋の『犯人確保』の声が届いた。

「…撤収だとさ…」
「あ…この人…」
「事後処理班が回収するだろ。放っておけ」

用は済んだとばかりに司がすたすたと歩き出す。

負の感情は連鎖する。判っていた筈だ。
だからこそ監視官はそれに流されず、冷静な判断を下さなくてはいけないと散々講義で言われていたのに、何も出来なかった。
自分の不甲斐なさに思わず唇を噛みしめる。

そんなつくしを横目で見ていた類が、徐に口を開く。


「…あんた…向いてない…。…早く辞めた方がいいよ…」




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…すみません。終わらなかった…(-_-;)
明日の同じ時間に続きます。
今度はちゃんと終わります。<(_ _)>




拍手ありがとうございます♪
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